9. 鳥海山大物忌神社蕨岡口之宮【大御弊祭】


神社前に立てられた御弊

以前から是非一度見たいと思っていた大御弊祭は毎年5月3日に行われる。今年(2014)は春の好天が続き思いの外農作業が捗ったのでこれ幸いとばかりに見物に出掛けた。
御弊は、「おんべい」と読み冒頭の写真のことである。飯豊にもオンベマツコースという尾根道があるがこれも御弊に由来する地名だと思われる。

御弊とは写真を見れば一目瞭然ではあるが文字で表すと、太い二本の竹に紅白の布を巻く。十二ヶ月を意味する十二組の紅白の紐で結び、十二組から成る白い和紙を御弊状に切って垂れ下げる。頂には剣先といって太陽を表す日の丸の扇、月を表す鏡を取り付ける。太陽と月、そして十二ヶ月という鳥海をめぐる小宇宙がこの御弊には表現されているのだそうだ。

大御弊祭の次第を下記に記す。
尚、この文中の多くの記述は当日配布されたプログラム等から引用したものである。


例     祭  口之宮拝殿     午前10時00分
奉  遷  祭    〃         午後01時00分
神  宿  祭  大  鳳  館     午後01時30分
大御弊行列 神宿から神社まで  午後03時30分
高     足  口之宮拝殿前   午後03時50分
還  御  祭  口之宮拝殿     午後04時00分
奉  納  舞  神 楽 殿       午後04時00分



大鳳館に午後3時半頃行ってみると大勢の見物客が集まっていた。大鳳館内にも多くの人がいるようで何やらやっているようだ。遊佐町にも知り合いが居ないわけでもないので何人かの知人と会う。
暫くすると中から天狗様が現れ畳の敷かれた入り口で神楽舞が始まった。私の住む地域にも神楽舞はあるが、それと比較すればとてもおとなしい神楽舞であった。お囃子は太鼓と笛と鳴り物である。暫くすると赤い衣装に身を包んだ稚児舞をする子供達が館内から続々と出てきた。

  

  
神楽舞が始まると子供達が館内から出てきた

ふと気がつくと遠くの方から酒の香りが風に乗って届いた。程なく若い衆がなにやら叫びながらもみ合って近づいてくる。これも何かの意味があるのだろう。神宿の入り口の太い柱に括り付けられた御弊に引き綱を付けると大御弊行列の始まり、つまり先程の若い衆が御弊を立てバランスを取りながら神社の鳥居の前まで引っ張って行くものらしい。結構な距離があり本来なら四方に張った引き綱でバランスを取り立てたまま鳥居の前まで行くのだろうが、途中省略して寝かせたまま引っ張っていたようだが、酔っぱらいの勢いでやっているようだ。

  
もみ合う若い衆     と    立てられた御弊

鳥居の前で到着を待っていると賑やかにやってきた。ここで四方に引き綱を張り(全て人で支える)御弊を立てると若者が一人よじ登り始めた。本来であれば先端まで上り詰めて万歳するのだそうだが、今の人たちは木登りをしたことがない若者が多いそうで、上まで登れる人がいないのだそうだ。途中で万歳して終わりであった。


御弊のてっぺんの少し下で若者が万歳している(小さいが…)

これから神社の境内までまた皆で引っ張って行き1mほど掘られた穴の中に建て込むと張り綱を持った若い衆が御弊を中心にぐるぐると走り回り御弊が勢いよく回転する。途中から逆回りとなり最後は倒して剣先(日の丸の扇)を抜き取るとそれを小脇に抱えた若い衆が脱兎のごとくどこかに駆けていった。
続いて倒れた御弊も若い衆全員に引かれて駆けていった。

  
境内で回される御弊        と        大鳳館前にて役目を終えた御弊




延年の舞は上寺地区に室町時代から修験の一環として伝えられたもので、蕨岡延年は舞楽系と児舞系で構成され、舞楽系は大人の舞で「振鉾」「陵王」「倶舎」「太平楽」の四演目、児舞系は稚児舞で「童法」「壇内入」の二演目が現在舞われている。
現在の稚児舞はこれまで男子だけで舞っていたが、少子化の影響で女子も入っているとのこと。


振鉾(えんぶ)
「お祓いの舞」ともいう。舞楽の振鉾を取り入れた舞である。


童法(どうほう)
太鼓と唱えごとに合わせて舞う寺稚児の遺風であろうと言われている。


壇内入(たないり)
最も手の込んだ稚児舞。真っ赤な舞衣、緋袴、鳥兜をつけて舞う。

  
神童法  と  壇内入

陵王(りょうおう)
陵王と納蘇利の面で舞う。よろめくような酔態を思わせる仕草がある。


倶舎(ぐしゃ)
「扇の舞」ともいう。烏帽子に狩衣の衣装で日の丸の扇を使って舞う。


太平楽(たいへいらく)
「刀の舞」ともいう。烏帽子に狩衣の衣装で刀を使い活発に舞う。

  
太平楽    と    陵王

前述したが当時の修験者が10ヶ月に及ぶ胎内修行と呼ばれる籠もりの修行を行う際に、当時3月18日に行われていたのが「暁の御弊立饗」と「笈緘饗」であり、これが現在5月3日に行われているのだそうだ。

延年舞は、旧平田町の新山にある新山神社にも伝えられているが、こちらも一度見ておきたいものだと思った。あと上寺のすぐ近くに杉沢という集落があるが、ここには熊野神社があり杉沢比山と言う神楽が伝承されている。こちらは国の重要無形文化財に指定されているそうで一見の価値はあろう。


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