【初めての槍穂高】


【日 程】2000年7月23日(日)〜 27日(木)
【山 域】北アルプス南部
【山 名】笠ヶ岳、槍ヶ岳、穂高岳
【天 候】7月23日(日)晴、7月24日(月)曇、7月25日(火)風雨後晴、
 7月26日(水)晴、7月27日(木)晴
【メンバ】単独
【コース】
(概 略)7/23 新穂高温泉→笠新道→笠ヶ岳山荘泊
 7/24 笠ヶ岳山荘→双六小屋泊
 7/25 双六小屋→槍ヶ岳→南岳小屋
 7/26 南岳小屋→北穂高岳→穂高岳山荘泊
 7/27 奥穂高岳→前穂高岳→岳沢→上高地→新穂高温泉
【駄 文】

*アプローチ

マイカーにて、北陸自動車道富山インターから新穂高温泉少し手前、栃尾温泉まで、民宿に宿泊し山行に備える。本当は新穂高BT近くに予約したかったのだ
が、いい加減な性格のため予約するのが遅れ何処も取れなかった。が、結果的に下山までの余分な荷物等を預かっていただいた上、いい加減なスケジュールに宿泊を合わせていただき、大変有り難かった。m(_ _)m




*7月23日(日) 笠新道から笠ヶ岳へ

新穂高温泉(5:30)---(6:50)笠新道入口---(10:12)杓子平(10:25)---(11:48)抜戸岳(12:47)---(14:00)笠ヶ岳山荘


5時少し過ぎ宿を出て、車中で簡単な朝食を取りながら深山荘側の村営無料駐車場に車を置くことが出来た。観光協会の話で20日の海の日には、とても駐車出来る状態ではなかったという。道中少し不安はあったが帰った人たちが結構いたらしく、何とかラインの中に車を入れられた。前夜は気持ちが高ぶり、よく眠れなかった。所謂、睡眠不足と言うやつだ。元来気が小さい質で、学校の遠足前の晩のような気持ちになる。

駐車場から笠新道入口までは林道歩き、BTの登山指導所に登山計画書を提出し何気なく壁を見ると、白出沢のルートは残雪が多く、ピッケル、アイゼンがないと通行できないとのこと、これでエスケープルートの一つが消滅した。何となく真綿で首を絞められる感じがするのは、ちとオーバーが

橋を渡ると温泉と飲み水がどんどん出ている。ここで水筒を満たす。林道をゆっくり登っていると、どんどん後続者に抜かれる。穴毛谷の砂防工事の資材の残骸と周辺の倒木が、雪崩のすさまじいパワーと恐怖を見せつけている。傍らの看板に、穴毛谷の名前の由来が書いてあり一人苦笑する。相変わらず頭上は雲に覆われ、どこかからブンブンとヘリの音が賑やかだ。途中からポツポツと下山者と行き交い、これからのことを思うとちょっぴり彼らが羨ましく思えた。

そうこうする内に笠新道入口の看板、どこからか引かれた水がとても美味かった。気合いを入れ覚悟を決めゆっくり登り始める。このコースはどんなガイドブックを見てもきついと書いてある。実際、2万5千分の1で見ても自身経験のない勾配が読みとれたのだが、ジグザグにきりもなく道は続いている。最初は樹林帯の中、時に涼風が気持ちよかったが、途中から雲が切れ夏の太陽が容赦なく照りつけた。下山者と出会うたび暑さを労われた。休憩の度に穂高の方面を眺めると、ガスの切れ間に焼岳とギザギザとした西穂付近の稜線が見え始めた。奥穂から槍はまだまだガスの中に隠れている。

途中ニッコウキスゲの群落がある急登付近で休んでいると、美人のお姉さんがおすそ分けと言って雪を一塊りくれた。早速カップに水を入れ、貰った雪を放り込み冷水を飲む。いつも夏山に来て思い知るのは冷たい水の美味さだ。世のいかなる美食より勝ると思うのは私だけか。時々現れる標高を記した看板に励まされながら、数度の休憩をはさみ杓子平への細く狭い最後の坂を抜けると、青空の中にぽっかりと緑に光り輝いた笠ヶ岳の秀麗な頂が姿を現した。初めて目にするその姿に暫し呆然と見とれる。笠ヶ岳がこんなに美しい山だったとは......気高く、たおやかで、いきなり心を奪われてしまった。

  
                  笠新道を詰めると杓子平に飛び出す。抜土岳は右ピーク


             
                        杓子平からの笠ヶ岳
                          急登の後に出会う感激は体験した人にしかわからない



  
                                 抜戸岳からの穂高連峰のパノラマ


杓子平の上には、まだ雪がかなり残っている。道の傍らにテントが張ってある。何でも登山道整備の人たちの物らしい。しばらく道なりに登っていくと段ボールに書き込みと矢印、7月23日より新道を通れとのこと。つまり今日だ。見上げると赤いヘルメットを被った人達が作業している。その脇を労いながら通過し、最後の人の側に雪渓からの流れがあった。思わず「こんな美味い水の脇で仕事が出来て幸せですね」と言ったら、にこっと笑ってくれた。

喉を潤し最後の登りに喘ぎながら何とか抜戸岳まで辿り着いた。とても長く苦しい登りの後には、それに十分値する素晴らしい穂高連峰の景色が待っていた。早々にカメラを取り出し、初めて目にする絶景に時間を忘れる。気がつけば1時間ほど経っていた。とにかく本日の宿、笠ヶ岳山荘に急ぐ。


        
                 稜線伝いに延びる道                               有名な奇岩「抜戸岩」 なんでだろう?
                          右が小笠で奥が笠ヶ岳



奇怪な抜戸岩を通過した頃、先ほど雪のおすそ分けを貰ったお姉さんと会う。聞けばタフなことに笠ヶ岳日帰りと言う。恐れ入った。小屋までの最後の登りを何とかクリアし、受付を済ませ缶ビールをビニール袋に雪と一緒に放り込み、山頂までの道を登ると取りあえず乾杯、美酒に酔う。暫くすると同室のおじさんも登ってきて暫しの山談義、彼は折立から入り高天原、三俣山荘を経てここまで来たらしい。黒部源流の素晴らしさを山座同定しながら伺う。見ず知らずの人と気軽に話せるのも山の楽しさだ。皆とても親切だし、その人なりの山への接し方を聞くのもとても楽しく共感できる。

笠山頂からは360度のパノラマ、初めて目にするその雄大さに戸惑い、又、魅了された。北アは今回でとりあえず、と思っていた考えがぐらつき始めた。薬師岳の大きさがとても印象的だった。私は今日一日だけでとても満ち足りた気持ちになり、明日から毎日雨に見舞わ
れようが諦められると思ったのだが.....

  
                                 笠ヶ岳山頂からのパノラマ 




*7月24日 双六小屋へ

笠ヶ岳山荘(5:55)---(6:34)笠新道分岐---(7:35)秩父平---(8:10)大ノマ岳(8:16)---(8:47)大ノマ乗越(8:51)---(9:15)弓折岳(9:25)---(9:35)鏡平分岐---(10:54)双六小屋


前日の疲れで熟睡していた。結局、周りを見たら一番最後に起きたらしい。皆早々に身支度を整えている。あわてて飛び起き顔を洗う。日焼け止めを塗ったにもかかわらず首筋と鼻の頭が痛い。間違いなく皮が剥けるだろう。前日の疲れがとれない。天気は曇り、前日見えた景色が嘘のようだ。少し頑張って槍岳山荘までとも思うが、すぐに時計を見て諦める。ゆっくりと双六小屋まで行こう。

前日通った道を笠新道の分岐まで戻り、秩父平を目指す。同宿者の話では雪渓からの水を拾えるらしい、ガスで何も見えない中、秩父岩と思えるあたりから道は右に折れる。秩父平への下りは雪渓歩き、ステップが確実に刻んであり、ベンガラの目印に沿って進むと難なく通過できた、水は確かにあったが暑いと言うよりむしろ寒いくらいなので特別必要ないので素通りする。花はチングルマ、ハクサンイチゲ、イワカカミが盛期、ガスが切れて槍の眺めを期待するが全然晴れない。こんな日は道端の花を愛でながら進むしかない。大ノマ乗越を過ぎたあたりに大文字草が清楚に咲いていた。ところで、大ノマ乗越の道標に新穂高の文字が書いてあり谷の方に道が続いている。はてと思い地図を見るが書いてない。私は狐にでも騙されているのかと思ったが、谷に下れば小池新道にぶつかるのだろうと勝手に納得する。

喘ぎながら弓折岳に登る。途中木立の中から双六南峰と思しき、どっしりとした峰が見えた。穂高方面とは明らかに違う様相に戸惑いながらも不思議と安らぎを覚える。中崎尾根を境にはっきりと違う山様を感じた瞬間でもある。弓折岳の頂も道が三方に分かれている。果たして何処に向かう道なのだろうか。暫く進むと鏡平に道を分ける。池の側に鏡平山荘が見えた。突然道端にクロユリを見つけた。実物を見るのは初めてなのでザックからカメラと三脚を取り出し暫く撮影する。黒い花というのは不思議な雰囲気を持っている。なんと表現したらいいのか、全体の雰囲気はまとまっているし、緑の葉との相性も悪くない、可憐とは決して言えないが品は確かにある。良い花だ。

暫くすると双六小屋が見えてきた。正面に鷲羽岳のどっしりした姿も見える。かなり早い時間だが双六岳には向かわず小屋でゆっくりすることにした。とにかく風が強く寒い。受付を済ませ自炊室でラーメンを作り食べたら落ち着いた。やっぱり山ではラーメンだ。夜の天気予報に皆ため息をつき早々に就寝、私は朝まで死んだように熟睡した。




*7月25日 憧れの槍へ

 双六小屋(5:40)---(6:10)樅沢岳---(9:15)槍岳山荘---槍ヶ岳---(10:10)槍岳山荘(10:35)---(12:00)天狗原分岐---(12:30)南岳小屋


実際朝に雨は降っていなかったが、出発の時刻が迫るとポツリポツリと落ちてきた。風は相当なものである。気の早いパーティーは早々に予定を切り上げ下山の準備、私も停滞を考えるが、大雨でもないし山の雨はいつものことと割り切り、槍岳山荘までは行けると判断した。完全雨モードで飛び出し樅沢岳に取り付く。次第に雨足は強まり、西鎌尾根通過時には体ごと飛ばされそうな勢いの風が吹く、すぐにしゃがみ込んで風が弱まるのを待つ。

このコース普段は危険な所はないのだろうが、幅が狭く両端が切れ落ちたところは突風に注意して進む。それにしても視界の利かぬ中での槍の肩への登りはつらかった。やっとの思いで辿り着き山荘に逃げ込む。中は停滞組を含め、かなりの賑やかさ、一服後、合羽を脱ぐ前とにかく槍の穂先だけはと向かう。梯子を2箇所登ると簡単に穂先に立てた。この時期信じられないことなのかもしれないが、思いの外狭い頂上には誰一人いない。暫く山頂をウロウロするが、すぐに下り山荘内に逃げ込む。憧れの槍の穂先ではあったが感慨も何もあったものではない。


    
          雨とガスで何も見えない槍ヶ岳山頂                            夕暮れの南岳からの槍ヶ岳
                                                                           この天気が昼前だったら・・・・


ひとごごちつくと明日の予定が気になってきた。大キレット越えが無理としたら、エスケープルートとして南岳新道と氷河公園に下るルートを考えていたが、どんなものかと受付の女の子に様子を聞いてみると、残雪が多いと聞いているが詳細は南岳小屋まで行って聞いてみてくれとの返答、少し考えたが濡れついでに向かうことにした。
3000Mを越える、なだらかな稜線?を南岳に向かうが、雨足は強まり本当に嫌になる。いつも雨の中で思うのだが靴の中に入る雨水はどうして抜けないのだろう。だんだんくるぶしの辺りまで水位が上昇するのを感じながら先を急ぐと南岳小屋が見えてきた。又ズレでゴアが破れたのか股間が濡れて気持ち悪い。小屋に入ると2本のルートの詳細が壁に貼ってあった。十分通れそうな様子に安心する。

受付を済まして濡れたものを乾燥室に入れると、急に寒さを感じたので談話室に入る、ストーブが着いていて数人の先行者が一杯やっていた。話の和に加わり聞くと皆、この悪天時に大キレットを越えてきたという。全く信じられない話であるが、さすがに怖かったらしく恐怖談義で盛り上がった。
体も温まり眠くなってきたとき誰かが窓の外の青空に気付いた。どうも天気は回復傾向にあるらしく気圧も上昇しているという。夕方にはすっかり天気は回復し、早速外にでて獅子鼻より大キレットを俯瞰すると圧巻の全貌が見えた。すごいスケールに圧倒されるが、北穂高小屋の高さに開いた口が塞がらない。本当に自分はあんな所を歩けるのだろうか、という素朴な疑問が浮かんできた。誰が一番最初にここを歩いたんだろう?


                      
                                                  南岳からの大キレット方面
                                                      手前が南岳小屋
                                            写真だとあまり感じないが半端な迫力じゃない


日暮れ近く南岳へカメラを担いで登ると雷鳥の親子と遭遇、ククッ、ククッと鳴きながら盛んに地面をついばみながら移動していく。いったい何を食べているんだろう。暫しの間見とれる。夕食前だったらさぞ美味しそうに見えたかもしれないが(^^;)α==(. .(パアーンチ
南岳の頂は絶好の展望台、先程駈け上った槍の穂先が大喰岳の彼方に見えた。
遠く後立山連峰の白馬岳や鹿島槍ヶ岳の姿が懐かしい。

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