飯森&山響 モーツァルトシンフォニーサイクル
   「アマデウスへの旅」 第1年
   交響曲全曲演奏 定期演奏会 Vol.1

交響曲ヘ長調K.Anh.223

ヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219

  ---- 休 憩 ---

交響曲第39番変ホ長調K.543
2007.08.11(土) 山形テルサホール

指 揮:飯森範親
ヴァイオリン:高木和弘
コンサートミストレス:犬伏亜里



マエストロ飯森&山響は、これから年三回、八年もの長き時間を掛け、モーツァルトの全交響曲を、本拠地テルサホールにて演奏録音するという、世界的にも例を見ない壮大なプロジェクトが始まる。
久々のテルサホール、たまたま休日と重なったので良い機会と思い、ゲネプロ見学会の申込をして初めてオケのゲネプロなる物を見学した。

会場にはファンクラブの常連さん達が既に集まっており、暫く待ってから会場に入る。実は前日に同じプログラムで米沢のホールで演奏会があり、演奏自体はほぼ完璧に出来上がっているらしいのだが、ラフな格好の団員やマエストロがステージ上に集合していた。ゲネプロとは言いながら、最終チェックのようで数カ所の修正ポイントの指示が飯森氏から飛んでいたが、むしろ各パートのトップの人達が最後まで妥協のない議論をしていて、それを飯森氏が総括し収めるといった雰囲気だった。最後まで最良の音を求めるプロの姿勢と、山響の素晴らしい音造りの秘密を垣間見た気がした。



会場の山形テルサホール

ゲネプロとは言いながら演奏は本番と変わりなく、素晴らしい音色の演奏をみっちり聴かせて貰った。ただ、全曲通しての演奏ではなく、小節間の演奏を繰り返し、合間に議論すると言った感じ。
このホール、残響時間の影響か人間の肉声は客席からは非常に聞き取り辛く、何を言っているのか良く理解できなかったのが残念だった。
同じ曲を何遍も聴いて飽きないかと思う人もいるだろうが、不思議なことに全然飽きない、むしろ聴く集中力が次第に増して来る自分を感じた。

今回のプロジェクトはテーマがあり、できるだけ当時の音を忠実に再現しようと言う試みで、使用楽器や奏法にもこだわり、弦楽器はビブラートを抑えたピリオド奏法、管楽器もピストンのないナチュラルホルンやトランペット、フルートも木製の物、ティンパニはバロックティンパニを使用していた。

実際ゲネプロで間近にみたが、奏者の方達もまだちょっと慣れていないようで素人目にも大変そうだった。
井上さんは休憩時に会場に降りて来て、常連さん達の目の前で実際に音を出して聴かせてくれた。ゲネプロ中、必死に音を出す彼らにマエストロ曰く、
「もう少し音量が欲しい、いやかなりだね(笑)」とは、酷ぅ・・・

本番では通常楽団員は黒の正装と決まっているが、この日は女性団員だけはそれぞれソリストが身につけるようなカラフルなドレス姿で登場しとても華やかだった。
各曲の演奏前には飯森氏のプレトークが付き、モーツァルトの一般には知られていないエピソードも交えて語られ楽しくとても勉強になった。

一曲目の交響曲ヘ長調K.Anh.223は、当時ケッヘルがまとめた全曲集には入っておらず、Anhang(疑問符)が付くもの、つまりは後から出てきて多分モーツァルトの作品だろうという物らしく、まだあまり演奏されたことがないと言うことだった。ちなみにケッヘルは作曲順に番号を振っているそうで、若い番号ほど古い作曲とのこと。
編成は通常の弦編成にオーボエ2、ホルン2、といったところ。

二曲目のヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219(トルコ風)は、特別主席コンマスの高木さんが、ステージ中央でソロヴァイオリンを演奏しながら指揮をするという当時のスタイル、当時は指揮者というものはなく、19世紀の後半になってできたと言うことだった。この曲では飯森氏は客席に座り聴衆となった。
演奏中の高木氏のカデンツァはとても素晴らしく、終演後カーテンコールが鳴りやまず最高の笑顔で何度もステージ上を往復されていた。

三曲目の交響曲第39番変ホ長調K.543は、所謂宮廷音楽、1及び3楽章目は3/4拍子の舞踏曲である。解説でも言われていたが、踊るリズムでの演奏とのことで、ゲネプロから感じていたのだが、事前にCDで聴いていた演奏よりかなり速いテンポにとまどったのが正直な感想である。この曲からフルート1、オーボエが抜け代わりにファゴット2、クラリネット2、トランペット2、そしてティンパニが入る。

実はこの曲、昨年度のN響定期でのファン投票NO.1に選出されたもので、N響がロジャー・ノリントンの下、初めてピリオド奏法に挑んだ曲としてテレビのN響アワーでも紹介され私もそれを見ている。
N響はもっとゆっくりしたテンポで演奏しており優雅に感じたが、考えてみたらあんなゆっくりしたテンポじゃ実際踊れないのかも知れない。その辺にも飯森氏のこだわりが感じられた。

この日の前売りは完売との情報が新聞等にも出ていたが、私の隣にも数席の空きがあり???だった。せっかくの素晴らしいコンサート、希望していても聴けない人がいることはある意味悲しいことである。今後改善を望みたい。

モーツァルトは35年の短い生涯で二万枚にも及ぶ楽譜を書いたという。プログラムの飯森氏が書かれた文にも載っていたが、とても人間業とは思えないことだという。アマデウスは神がその姿を借りたかりそめの存在なのだろうか。
生誕から251年目にスタートしたこの企画、世界中が山形を注目する素晴らしいものとなることを切に祈る。いや、きっとそうなると確信した演奏会だった。



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