【病人、朝日に還る-2】
                       以東岳往復、静から動へ


狐穴小屋と以東岳

8/25 狐穴小屋(6:10)---(7:37)以東岳(8:10)---(9:19)狐穴小屋(9:57)---(10:48)寒江山(11:00)---(11:50)龍門小屋



目覚めると外は既に明るい。お湯を沸かしコーヒーを煎れる。
この日は朝から昨日にも増して快晴、窓から見える以東が暁に染まり呼んでいる。
しっかりと朝食を楽しんでから荷物をまとめ掃除をし、サブザックに必要最小限の荷物を詰め込み以東を目指す。荷物が少ない分、気持ちも足取りも軽い。

北寒江山からこっち側は表面の地質が異なるようで、浸食が激しく所々深く登山道が洗掘されている。刈り払いも最近された様子はなく、夜露に濡れた笹藪を通るとズボンがぐっしょり濡れた。適度なアップダウンを繰り返し中崎峰までおよそ30分、前方の以東の量感がぐっと増す。以東への最後の登りに向かうと単独行とスライド、挨拶すると狐穴小屋まで往復とのこと、私も同様と言うと暫しの別れである。


   
朝陽を受けた以東岳   と   中崎峰付近からの以東岳


およそ300mの高度差をゆっくり詰めると徐々に展望が開けてくる。置賜盆地は低い雲に覆われているが、青空をバックにした飯豊の展望はさすがに素晴らしい。穴化山が見え始めると越後の名だたる名山も姿を現し、振り返ると月山と葉山が朝の光に青く染まり素晴らしく綺麗だ。その左奥には鳥海山が心字雪渓を小さく光らせ、すっくと端正な姿で日本海から立ち上がっている。


   
エズラ峰と月山   と   雲に浮かぶ飯豊連峰


山頂で一人で展望を楽しんでいるとオツボ峰方面から単独者が近づいてきた。
昨夜は大鳥小屋に宿泊とのことで、水洗トイレの工事中で作業員が入っているそうだ。はて、何処かで会ったような気もするが・・・(ウエアに里山クラブの文字)
せっかくの絶景なれど彼は二言三言話すとすぐに直登コースを下山していった。

俯瞰する大鳥池は6月に登ったときより水量がかなり減っており、周囲の土が露出している。海岸線は確認できるのだが、日本海は霞んでおり粟島や佐渡は見えない。反面、大朝日方面は実にクリアで、主峰のピラミダルなピークが実に近く見えた。思うに過去最高の展望条件だ。祝瓶の奥には磐梯山の独特の山容がはっきり望まれる。


   
蒼く輝く大鳥池   と   鳥海山が近い


最高の視界に地球の大きさを改めて実感する。と同時に感じるのは人間社会のちっぽけさと有限さである。普段飛行機になんて乗る機会が全くないので、地球を丸く感じる機会は少ない。大昔乗ったジャンボで高度10000mの窓から見た光景が懐かしく思いだされた。そのときは若くて馬鹿だったから何も感じなかったのだろうか、うまく思い出せない自分を妙に腹立たしく感じた。

あまりの展望に時を忘れ肌寒さで我に返る。1700mを超える高度の朝は、いくら天気が良くても半袖ではやはり少し寒い。展望も十分満喫したので来た道を駆け下る。寒江山付近よりこっちの方がマツムシソウが多く残っている気がした。
狐穴小屋に戻ると、そこには朝にスライドした単独の方が休んでおられた。私を確認すると少し驚いた様子、暫く彼と朝日の素晴らしさを語り合う。

水場には昨日浮かべたクルクルと回る朝日ビールが待っており、たまらずプシュッとやる。これだから山はやめられないのだ。最近下界ではアルコールに対する批判が強く、真っ昼間からゆっくり飲んでいられないが、この日も龍門泊まり故、誰にも遠慮する必要はない。
後からやって来る管理人氏に(少なくて恐縮だが)残りは、お土産と水場に浮かべておく。

ゆっくり休んでから再びザックを背負う。昨日よりかなり軽くなったが、今晩の朝日ビールが肩に食い込む。ここから北寒江への登り返しがとても辛かった。
稜線の風は昨日にも増して心地良く噴き出す汗もすぐに乾いていく。寒江山で最初のスライド、この後、龍門小屋まで数人とスライドを繰り返す。やっぱり快晴の週末、皆いい顔で歩いている。


   
小さく可憐なミヤマコゴメグサ   と   誰かさんが目指す三面への道


龍門小屋の水場に到着すると偶然にも中登隊のA.TOM隊長の姿があった。ちょうど彼らも今しがた到着し、朝日ビールを水場のバケツに入れている最中だったのだ。小屋に入ると二人の管理人氏と西川山岳会のH三さんとA路さんがいた。

ザックを置き靴を脱ぐとすぐに冷たい朝日ビールで再会を祝す、考えてみると隊長と顔を合わせるのは実に久しぶりだ。計画では一人夜駆けで登り、小屋でまったりしようと目論んでいたそうだが、奥様にしっかりと釘を刺され皆さんと一緒に登ってきたそうだ。隊長も山の神には頭がまったく上がらないらしい。
まあ無理もないか・・・

すぐに管理人室前にマットを敷き宴席の準備、この辺の作業は実に迅速なのだ。
狐穴小屋に向かう人達を送り出すとE藤さんは管理業務に忙しそうだが、その他は各自自分のペースでおしゃべりしながら勝手に始まっている。夜の部へはまだ全然早いが(お昼前だ)、山上の楽しい宴がこの後続く。
何か昨晩とのギャップがかなりあるが、静寂の後に賑やかな語らいが訪れるのは人の世の常である。
これも朝日の療養法と言ったら怒られるかなあ〜・・・



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