【遠かった灼熱の平ヶ岳】


姫池から池塘越しに望む平ヶ岳

【日 程】2007年8月13日(日)
【山 域】新潟県
【山 名】平ヶ岳(2139m)
【天 候】晴れ
【メンバ】単独
【コース】鷹ノ巣登山口→平ヶ岳→鷹ノ巣登山口
(概 略)


(5:28)鷹ノ巣登山口---(7:16)下台倉山---(8:10)台倉清水(8:24)---(10:00)姫池(10:15)---(10:42)平ヶ岳三角点(11:05)---(11:38)姫池(11:51)---(12:54)台倉清水(13:07)---(14:01)下台倉山---(15:32)鷹ノ巣登山口



3時50分に目覚める。
未だ外は真っ暗だが、涼しくて快眠できたお陰で体調も問題なさそう、予定通りの山行を決意し物音を立てぬようお湯を沸かし、赤いきつねの朝食を取る。
出発間際、隣のテントで爆睡中のまるちゃんに声を掛けると、寝ぼけ眼の笑顔で見送ってくれた。

ライトを点け御池の駐車場を脇目につづら折りの林道をひた走ることおよそ40分、鷹ノ巣の登山口には数人の人影が見えた。駐車場はほぼ満車、と言うことは殆どの人はもう既に出発したと言うことか、急いで準備をし三人の先行者を追いかけるようにしんがりで出発、しばらくは林道歩きが続き標示に従い尾根に取り付くとすぐに痩せ尾根の急登が現れる。

目の前には遮るものがなく燧ヶ岳がどっかりと現れた。途中朝日が昇り始めると名峰を染め暫し堪能する。この後陽が昇るに従い燧の山容は刻々と変化し辛い登りを慰めてくれた。

登山口には平ヶ岳山頂まで10qの表示があった。地形図を見ても下台倉山までの登行が辛そうだ。朝は涼しく快適に歩き始めたが、陽が昇るに従い気温が上昇するのが体感できた。この日も暑くて辛い登行となりそうな予感、しかし高度が上がるに従い風が出てきたのがせめてもの救い、時折梢を大きく揺さぶる救いの風に頼もしさを覚えた。


     
下台倉山への急登を見上げる   と   朝日に照らされた燧ヶ岳
                    奥の山が気になった


先行していた二人は足が速くなかなか追いつけないが、休憩していた時に追いつくもすぐにまた抜き返される。途中に水場があると分かっていたので、1.5Lの水をガバガバ飲むと当然大量の汗が噴き出す。やっとの事で高度差800mを登り切り、下台倉山にたどり着くと60代と思えるご夫婦が休憩中、挨拶して先を急ぐ。なんと言ってもこの日は長丁場なのだ。

ここから台倉山の三角点までは、東側が切れ落ちている斜面の肩沿いにほぼ平坦な道が続く、さすがに標高は1600mを超しているので吹き抜ける朝の風は爽やかだ。燧の展望も素晴らしく歩を進めるに従いグングン近づいてくる。三角点の近くまで来たらやっと本日の目標である平ヶ岳がその丸い山容を現した。


     
台倉山付近から登路を振り返る

やっと現れた平ヶ岳



ここから道は大きく右に曲がり、ブナやオオシラビソが鬱蒼と茂る樹林帯の中に続く。緑濃い葉が夏の陽差しを遮り、時折樹間を吹き抜ける涼風が心地良い。ほぼ平坦な道には要所要所に木道が敷かれ歩きやすく、じきに台倉清水の看板が目に飛び込んできた。
水場と標示された側にはテントが一張り、水場は少し下った沢にある。先行者がアブに襲われながらも細い流れを必死に集めていた。

朝日の快適な水場に慣れた身には実に頼りない水量であったが、カラカラに乾いた喉を潤すためには贅沢は言ってられない。少し溜まったところを一気に飲み干し生き返る。水は結構冷たくとても美味しかった。ここで2L補給し水筒を満たし食事を取り大休止、まだ半分も来てないと思うと少しだけ不安になった。

重い腰を上げ暫く進むとこの日初めてのスライド者、挨拶し先の様子を聞くとさっきの水場にテン泊した方達であった。
案内図によれば、この先に水場の標示があるがかなり濁っていて使えないとのこと、でも山頂付近の水場は大丈夫の様子に一安心、お礼を言って先を急ぐとすぐに白沢清水の看板が現れた。試しに覗くと薄緑の藻のような物が浮いていた。手を入れると思いの外冷たかったので傍らにあった空き缶で少ししゃくり取り口に含んでみた。別に変な味はしなかったのでそのままゴクンと飲み干すともうやめられない。続けざまにゴクゴクと飲み干す。
帰ってから数日経つ今も体調は何ともないところをみると問題ないのだろう。でも、あれを飲むには結構の勇気が必要かと思われる・・・

その後しばらくは穏やかなアップダウンを繰り返し快適な木道歩きが続く。でも展望は無く時間の経過と共に気温も上昇し辛くなる。
姫池への最後の急登は、森林限界を超え陽差しがまともに降り注ぎとても辛かった。高度を稼ぐに従い至仏山やその回りの山々が徐々に姿を現す。先行していた数人をパスするも皆バテた様子、それでも標高が上がったためか風は更に爽やかに感じ、歩幅は伸びないのだが何とか最後の急登300mを詰めることができた。


     
最期の急登を下からと上から眺める


平らになった道を進むと突然視界が開け広い池塘が姿を現した。視線を転じると、こんもりとした平ヶ岳山頂がとてもユーモラスだ。
テラス状に組み敷かれた木道の上に足を投げ出して大休止、すぐにパスした人達が続々到着し皆ほっとした表情である。
ここから山頂に行くには一旦下りまた登り返す。途中木道に乗ればすぐに山頂だ。

途中空身のペアが走るような勢いで私を抜き去っていった。素晴らしい健脚と恐れ入る。三角点のある山頂でその人達と記念写真を撮りあうと、木道にどっしり腰を下ろし靴下まで脱いで大休止、大阪からと言うご夫婦と暫し談笑、明日は会津駒を登られるらしい、ここは遠いねえとは共通の感想であった。

山頂の展望は良く、燧や至仏山はもちろん確信は持てないが、遠く男体山や武尊と思われる山塊が望まれる。目を転じ北方には上部に少しだけ雪が残る山塊が思いのほか近く見えた。多分飯豊だと思われる。と言うことはその右側が吾妻か・・・
山頂付近の草原には、無数に咲き誇る花々をイメージして登って来たのだが、ミヤマリンドウ位しか花は見あたらず少々がっかりした。途端にシャジンやマツムシソウが乱れ咲く朝日の稜線が脳裏に思い浮かんだ。ああ、やっぱり朝日が恋しいなあと、遠く離れて無い物ねだりの我が儘なオッサンになってる自分が滑稽だった。


     
コルから望む平ヶ岳山頂

山頂から望む至仏山と、その彼方の凸凹した山?



靴を履き直していると千葉からの単独男性にシャッター係を頼まれる。彼は百名山を目指しているという。構図を横2枚縦1枚と言う変な注文、聞けば大きな地図に登頂写真を貼り付け楽しんでいるそうな、この付近の百名山は既に制覇したとのことで、私が明日予定していた会津駒はこことそんなに雰囲気も景色も変わらないよとおっしゃっていた。お話を聞くと同時に明日のモチベーションが急下降する。

下りは途中から玉子石の方の水場を目指し水を補給、下りの時間を考えると玉子石はパスし姫池へ登り返す。池塘側のテラスにはさっきの静岡からいらしたご夫婦の奥様と、ここで何度もすれ違ってる単独男性が雑談中で話の輪に加わる。

奥様は先日行ったと言う鳥海山が素晴らしかったとのお言葉、実は私の地元だと話すと目を輝かせて、あんなお花畑を最近見たことがないと鳥海を大絶賛された。
地元の山を誉められて良い気分の私は是非朝日にも来て下さいと言ったら、あの大変な朝日にですか?とのお言葉、いやいやこの山を登られたのなら朝日はそんな困難ではないよと言ったら既に登ったとのこと・・・

聞けばシーズン二回は東北の山に遠征されるという全くもって羨ましい環境にお住いの様子、南アルプスは楽だし小屋も綺麗で素晴らしいから、是非静岡の山にも来て下さいとのことであった。
でもねぇ・・・

山頂の涼やかな風が心地良く名残惜しいのだが、時間を考えると灼熱地獄への下降を急がねばならない。もったいないなあとお互い嘆きあい下山を開始する。
苦労して登った急登も下るのは速い、すぐに木道に出ると気温の上昇を体感する。でもすぐに樹林帯の中となり直射日光だけは遮ってくれるのがありがたい。
白沢清水の辺りで登りの人達と盛んにスライドを繰り返す。これから日帰りできるのだろうか不思議だった。

台倉清水まで一気の下降、ここで食事を取り休憩する。すぐに上で見た顔が続々現れ皆で苦笑しながら休憩する。ここでまだ半分なんだよねと皆で嘆きあう。
下台倉山までは、平坦な道だがそこから急下降、飯豊の梶川尾根を下るようなイメージだ。当然下降と共に気温も上昇し皆バテバテの様子、急傾斜の下降の連続で足裏の皮がよじれて痛い。

世の中にはすごい人がいるもんで、一際大きなザックを背負った人がひたひたと背後に迫って来た。どうぞと道を譲ると急坂をすごいスピードで駆け下り、あっという間に見えなくなった。ストックも使わず腰を少し落とし気味にした姿勢で、空中遊泳のような感じだ。あまりの鮮やかな歩行に目が点になる。

途中何度も水をがぶ飲みし這々の体で林道に辿り着いた。最後に林道を横切る沢があるのだが、ここで頭頂部を流れに突っ込んだら「ジュワッ」と音がした。熱中症の初期症状のためか頭がガンガンする。
登山口では汗にまみれた衣服を下着まで全部着替え、エアコンを最強にして檜枝岐キャンプ場へ逃げ帰った。

すぐに温泉へ直行、さっぱりして冷たいBeerをグビッとやったらやっと少し落ち着いた。日が落ちるとかなり涼しく快適で、冷たい素麺と即席のキュウリの塩漬けで食事を取ると、もう瞼が重くなり早々にテントの中に入る。
外ではファミリーキャンパーの花火や宴会が賑やかだったが、すぐに深い眠りに落ちた。





翌朝夜明け前に目覚めるが、既にこの日の登行意欲は完全に無く二度寝、三度寝、涼しくて気持ちがよい。
それでも5時には起床ししっかりと朝食を取る。それからテントサイトをゆっくり片付け、8:45に檜枝岐を後にした。

途中南郷村から田島に抜け、会津若松市内を抜けるのに時間が掛かったが、11時半には喜多方ラーメンの昼食、まあまあの味であった。
121号の大峠を越え米沢へ入ると、栗子山と思われる山肌に採石場の剥げ跡を確認、「オオ!」とひとりごち287号を長井方面へ進む。最上川を源流から河口まで辿るように酒田まで下るのだ。

途中喜多方で食事した以外は全てノンストップ、下道ばかりの7時間半のドライブは楽しかったがやはり遠い。でも全然苦痛に感じない自分はやはり変人なのか?

振り返るととても楽しい夏休みだった。でも自分は暑さには非常に弱いという現実を忘れた計画にはかなり無理があったみたいだ。反省である。

それでも偵察山行と考えれば敗退も別に悔しくないのだが、一番悔しい思いをしている人は、きっとこれを読んで地団駄を踏んでいるに違いない・・・


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