【憧れの立山・剱】

【日 程】2003年7月22日(火) 〜 24日(木)                            
【山 域】北アルプス南部
【山 名】立山、剱岳、大日岳
【天 候】7/22晴れ 7/23雨 7/24曇
【メンバ】単独
【コース】7/22 立山駅→室堂→立山三山→別山乗越→剣山荘泊
(概 略)7/23 剣山荘→剱岳往復→剱御前小舎泊
 7/24 剱御前小舎→奥大日岳→大日岳→大日平山荘→称名滝→立山駅



*7月22日(火)立山三山縦走

立山駅(6:20)--(アルペンルート)--(7:30)室堂(7:48)---一の越山荘(8:35)---(9:11)雄山(9:25)---(9:44)大汝山(10:07)---富士の折立(10:16)---(11:25)別山(12:25)---(13:37)剣山荘


前日に立山駅まで車で入る。駅前無料駐車場はかなり空きがあり楽々駐車出来た。駅舎の乗車券売り場に様子を見に行くと、翌日分の乗車券を販売していたので始発分を購入し車中泊。周りを見ると結構同じ事を考えている人達がおり、中にはテントを堂々と張っている人までいた。

5時前に起床、朝食を食べ準備をする。天気は雲が低く上は見えない。始発のケーブルカーは定刻通り出発、がら空きである。美女平でバスに乗り換え蛇のように蛇行した立山道路を登っていくと弥陀ヶ原の辺りで突然紺碧の空が現れた。振り返ると見事な雲海が現れた立山の神様は我々を歓迎してくれたようだ。

さすがに室堂は人が多い。水をくむと早速雄山を目指して石畳の道を景色を眺めながらゆっくりと進む。剱御前の陰に隠れるように今回の目標でもあるゴジラの背のような剱岳が見える。正面には台形形の立山が朝日を背に堂々とそびえ、雄山神社の建物がとても高い。所々残雪を通過し少し道が急になったと思ったら一の越山荘に到着した。
ここまで来ると展望が楽しい。室堂平の全容が見渡せ、振り返ると遠くに穂高の峰々や水晶岳、笠ヶ岳がポツンと印象的だ。去年通った赤牛岳もよく見える。暫く感慨に浸る。ここから雄山までは結構登りごたえのある急登が続く。


   
                        別山からの雷鳥沢全景


立派な社の建つ雄山、ここまで登れば剱が綺麗に見えるかと思ったが、大汝山方面はもう雲が湧き視界はない。さっきまであんなに綺麗に見渡せたのにがっかりした。社務所の神官達は皆顔が異様に黒く滑稽だ。雄山神社の本宮は少し離れたひょっこり高いところに建っている。そこに行くには別料金らしい。こういう雰囲気は、どうにも山に来た気になれず記念写真を隣の人にお願いしてすぐさま出発。大汝山を目指す。途中ヘリが何回も旋回していたが後で聞いた話、小学生が滑落し気の毒にも亡くなったらしい。

大汝山は立山の最高峰、せっかくだからぐるっと見渡して一番高いところに登って休憩していると雲の間に時々剱岳がその全容を現す。ううむと一人呟き暫く見入る。


          
            立山信仰の総本山
        ひときわ高い所に建つ雄山神社
                          途中で出会った雷鳥


富士の折立から急登を下る。途中逆方面からの縦走者と行き交う、皆苦しそうだ。内蔵助カールが見事だ。下部のモレーン付近に石積みが見える。まだ十分にスキーが楽しめそうだ。ここから道はなだらかに登って真砂岳へと続く。どこが真砂岳の山頂か私は不幸にも見逃してしまった。気が付くと内蔵助山荘の分岐まで来ていた。

ここからまた下り別山へ登り返す。途中巻道があるが残雪があり危険と書いてあったので(私の見間違いで残雪時危険との表示らしい)直登する。やっとの思いで辿り着いた別山には立派な祠が建っていた。何よりここからの剱の圧倒的な眺望には時間を忘れて眺め入る。まさに剱と形容する山の全貌を見ることができた。誰しもこの景色を一度目の当たりにしたなら沸々と沸き上がる物があろう。槍ヶ岳とはまた違った魅力がこの山にはあると思う。暫くこのような岩山を登ったことがないのでひしひしと登高意欲が湧いてくる。


  
                  別山からの剱岳   圧倒的な迫力で迫る


時間まだ余裕があったので昼食後小一時間昼寝をする。なかなか気持ちの良い場所だった。時折行き交う登山者の話し声に目覚める。剱を往復してきた登山者の興奮気味の声が羨ましかった。

剱沢キャンプ場まではざれた道を下る。雪が稜線近くまでまだ十分残っており、アイゼン、ピッケルを装備した二人組が急斜面を登ってきた。ジグザグの登山道を下るのに飽きたので
途中から雪渓を軽快に下ると気持ちがよい。この辺は雪の消え際から色々な高山植物が花を咲かせ楽しませてくれた。ハクサンイチゲが多かったが一箇所イワヒゲの花を見つけカメラに納める。剣山荘の少し前にはアオノツガザクラの巨大な株があった。

剣山荘も予約はしていたのだが我々の部屋は三人だけ、九州福岡からの方と、神戸からの方と、彼は今日室堂から登ってきて剱を往復してきたという健脚の持ち主、色々アドバイスを頂いた。ここではお風呂に入れたのがとても嬉しかった。



*7月23日(水)憧れの剱へ


剣山荘(6:20)---一服剱(6:38)---前剱(7:18)---カニノタテバイ(8:04)---(8:24)剱山頂(8:35)---(10:35)剣山荘(11:30)---(12:20)剱御前小舎


朝弁を頼んで早立ちも考えたが、早起きするのが嫌で宿の朝食を食べてから出発することにした。食堂でスタッフの方に早立ち組は相当登りましたか?と聞いたら全然登ってないとのこと、あいにくの天気に皆、仙人池方面にコース変更したらしい。さてどうしたものかと考えスタッフにアドバイスを求めたら、登れないことはないと言う返事、但し万一の時はヘリも飛べないし救助の方は相当遅れると言われた。まあ行けるところまでと思い、無理と思ったら引き返すことを堅く心に決めゆっくりと出発。荷物は全て小屋に預け水と行動食をサブザックに詰め、その上に雨具を着込み出発した。

一服剱で先行者に追いつく、どこまでと聞いたら行けるところまでと曖昧な返事、振り返ると3人ほど後続組が見えた。彼はここから動く様子がないので先行した。一旦大きく下って武蔵のコル、そして前剱に登り返す道が悪い、ザレた岩場の急登が続く、後で聞いた話、ここでの下山時に発生する事故が最も多いらしい。大岩の鎖場を過ぎてまた急登を一あえぎすると前剱である。

取りあえず最初の目標地点まで来たが、視界は悪いものの雨風共にたいしたことはないので先に進むことにする。ここから尾根をしばらく進むと最初のトラバース地点、急な岩場に鎖を横に吊してある感じ、取り付いてみるとたいしたことはない、それから鎖場の急な岩場を下ると前剱の門、前剱からここまでは登りと下りのルートが違う一方通行のようだった。しばらく視界の効かない中を進むと平蔵のコル、この辺りが登りと下りの分岐、直進すれば下り専用のルート、右に進路を取り残雪なりに進み気が付くと垂直な壁に鎖がぶら下がっている。所々ボルトが打ってあり、どうやら有名なカニノタテバイらしい。下でどう登るか思案しているうちに段々怖くなってきた。


       
     剱登山の核心部 カニノタテバイ                            剱岳山頂の社
     ガスで良く判らないが真ん中を垂直に登る
              ガスのため眺望無し、残念  


最初の一歩が出ないのだ。どうしても鎖に全体重を預け腕の力で登らないと最初の一歩が踏み出せない。それに雨でステンレスの鎖は滑る。どうもこういうのが苦手である。ここは覚悟を決めエイヤと登り始め、少し足場のしっかりしたスラブで小休止、見上げると垂直な岩場がガスの中に消えている。高所恐怖症の身には辛い登りだ。覚悟を決め堅く打たれたボルトを辿り、必死に手と足を動かし気が付いたら何とか登り切ったらしい。

ここから上はペンキマークが豊富でルートを外す心配はなかった。反面この下はほとんどペンキマークがない、晴れて視界が利けば迷う心配はないだろうが、10m程しか先が見えないこの日はルートを探すのに苦労した。
少し先で早月小屋からの女性二人組と会う。山頂までの道を聞くともうすぐとのこと、それより早く行って来て一緒に下ろうと懇願された。

緩やかになったゴロゴロとした登山路を急ぐと霧の中から小さな祠が現れた。案の定誰もいない。風が少し強くなってきたようだ。晴れていれば最高の眺めなのだろうが、何も見えない。残念であるがこれも時の運と諦め即下山を決意。山頂部はかなり広い気がした。考えてみると北アの有名所のピークでは大概こんな天気だと思い返す。

カニノヨコバイの所で最初の後続者と出会う。彼は霧でルートを誤り下山専用のコース(ヨコバイ)を登ってきたらしい。帰りにタテバイに行かないよう注意して別れた。私にはこの天気であんな所を下る勇気はない。

ここから前剱の少し下までは登りと下りは交差しながら別ルートを進む。ヨコバイもまた最初の一歩が出ない。ここでもしばらく考え込む。スラブ上から足場のある切り欠き部に最初の一歩が出ないのだ。それからこの後の梯子を下るところ、そこも最初の一歩が怖かった。
しばらく進むと先程の二人組の女性達に追いついた。一緒に下って道案内してくれとのこと。当方とて初めてのコースで案内できる立場ではないが、二つの眼より六つの眼で見た方が間違いはないだろうと三人でゆっくり下った。

登りと下りが別ルートなので、下りは前剱のピークを通らないことに気付いたのは下山後かなり経ってから、実際、前剱の下の合流箇所では進行方向が判らず暫くウロウロした。このころには雨はかなり強くなっていたが何とか剣山荘まで無事帰ることが出来た。スタッフのご苦労様の声に迎えられ中でゆっくり休憩させてもらった。結局ピークに向かったのは私を含め3〜4人であった模様。

剣山荘から剱御前小舎までは雨が本降りになった。道は途中何ヶ所か雪渓をトラバースしほぼ一定の勾配を緩やかに登る感じで続く。雪渓箇所はきちんとステップが刻まれており迷う心配はなかった。こんな天気の中元気なのは雷鳥だけか、途中何度も親子連れと遭遇する。
御前小舎でもゆっくりすることが出来た。登山客は皆諦め顔、偶然にも前日一緒の部屋だった福岡からの方とまた同室になった。私の話を聞きどうしても剱の頂きに立ちたくなったらしくもう一日様子を見るという。

ここの食事は大変美味しかった。夕食後談話室で昨年の小屋閉めから今年の営業開始までを記録したビデを見せてもらう。大変な仕事であることが良くわかった。



*7月24日(木)大日岳から称名滝へ下山


剱御前小舎(6:55)---雷鳥沢分岐(7:33)---(8:40)奥大日岳(8:48)---(9:58)大日小屋---(10:14)大日岳(10:20)---(12:06)大日平山荘(12:25)---牛の首尾根(13:03)---車道(13:32)----(13:45)バス停(14:25)---(バス)---(14:45)立山駅


強い風雨は夜を徹して続いたが、日の出と共に雨だけは上がった。この日も天気は望めない。まっすぐ室堂に下ろうかとも思ったが、花の山で有名な大日岳を回っていくことにする。かなり長いコースのようだが、二日間楽をしたので何とかなるだろうと出発した。
ハクサンイチゲの群落の中、縦走路は新室堂乗越までジグザグに下っていく。かなりゆっくりした出発なので途中先行したパーティーに追いついた。もう一人先に同室だった奈良の単独行の方がいるはずなのだが足跡は見えても姿は見えない。そうとう速い足の持ち主のようだ。

天気が悪いせいか雷鳥には何度も出会った。今は子育ての真っ最中のようで何羽も雛を従えていた。気温は寒いくらいなのだろうか、雨具をつけているのでちょうど良い、もっとも登りに差し掛かれば暑いのだが、快調に進むがやはり奥大日岳への登り返しは辛い、楽しみの花は雷鳥坂の辺りより少なく、ほとんどがハクサンイチゲ等のもう見飽きた(^^;)花ばかりで段々退屈してくる。景色は相変わらず何も見えない。

このコースは尾根をずっと辿っていくのだが、全体の景色が見えない中、尾根を時に乗越して反対側に出たり、また戻ったりを繰り返すうちに方向感覚がおかしくなり、どっちの方角に向かって進んでいるのかわからなくなった。奥大日岳は縦走路から少し離れたところにあり苦もなく行け、三角点のある山頂は石が積まれ看板がある。眺望の利かぬ頂は特別感慨もない早々に出発するが、何か感じるものがあり振り返ると石積みの中に金色の仏像が見えた。無意識に手を合わせる自分に苦笑する。

ここから少し下るがこの先のトラバースぎみに伸びる道は少し荒れている。
七福園の辺りはゴロゴロと巨岩が横たわる。ビバークするのにちょうど良さそうな岩窟を過ぎると木道が現れ、標高2500mの表示を過ぎるとじきに大日小屋に到着する。中を覗くが誰もいない様子。そのまま大日岳へと取り付く。

残雪が尾根伝いに少し残ってはいるもののほどなく山頂に到着、途中御前小舎で同室の奈良の男性と会う。彼の健脚を賞賛すると「あなたも早いですね」と逆に誉められた。
山頂には三角点と変な形に積まれた石がある。僅かな眺望を期待してしばらく待つが一向に天気は回復しそうもないので名残惜しいが下ることにする。目当ての花は探し方が悪いのかそんなに見えない。

ここから大日平山荘まで一気に750m程下ることになる。そんなに急ではないのだが、こんな感じの下りが私の体に合わず一番嫌いだ。途中2150m付近に水場があり休憩冷たい水が美味しい。この辺から下はガスが切れ彼方に大日平山荘が見える。まだまだ遠い

途中キヌガサソウが見事に咲いていて思わずカメラを取り出す。この辺で初めて登山者とすれ違う。樹林帯に入ったらしく木々の緑が鮮やかでミネザクラの花が遅い春の訪れを歓迎しているかのようだ。やがて道は緩やかになり時折小さな流れを横断すると平坦な大日平に到着。

大日平は草原と言った感じでワタスゲが綺麗だと聞いていたがもう終わった様子。木道をゆっくり進むと綺麗な小鳥が何かついばんでいる。山荘で昼食大休止、至って静かな場所だ。剱の岩峰を目当てにした今回の旅の終わりには心落ち着く景色が待っていた。やっぱり個人的に山の景色はこういう緑あふれたたおやかな景色が落ち着く。