【蹌踉の赤牛岳】

【日 程】2002年7月28日(日) 〜 31日(水)
【山 域】北アルプス南部
【山 名】赤牛岳
【天 候】すべて晴れ
【メンバ】単独
【コース】7/28 折立→太郎平小屋泊
(概 略)7/29 太郎平小屋→薬師沢小屋→雲の平→高天原山荘泊
 7/30 高天原山荘→温泉沢ノ頭→赤牛岳→東沢出合→平ノ小屋泊
 7/31 平ノ小屋→黒部ダム→折立


【駄 文】


*7月28日(日)折立から太郎平小屋

折立(11:15)---(12:38)三角点(12:45)---(13:58)五光岩ベンチ(14:25)---(15:06)太郎平小屋


このコースは昨年も歩いたコースなのでイメージは出来ていたのだが、炎天下での歩行と睡眠不足、日頃の不摂生がたたり相当ばててしまった。汗は文字通り滝のように流れ水は全て飲み干してしまった。小屋到着後、裏手に出ている冷たい水を当てにしていたのだが残念ながら止まっていた。水不足のため小屋の中の水を利用してくれとの表示である。早々に受付をして外の風に当たりながら冷たいビールを呑んだら少し落ち着いた。この日小屋の食事は二回戦、到着が遅かったので5時40分からだ。三階の屋根裏部屋は空いており楽々のスペースだった。

食事後、日が雲海に沈むのを見てから布団の上で横になっていたら7時前に眠ってしまい朝まで目が覚めなかった。


  
             太郎平の落日




*7月29日(月)雲の平再訪

太郎平小屋(5:25)---(7:00)薬師沢小屋(7:15)---(8:28)木道末端---(9:30)祖母岳(9:50)---(10:09)雲の平山荘分岐---(11:31)高天原峠---(12:20)高天原山荘


本当は大東新道を通りたかったのだが、昨年見た雲の平の光景が忘れられず、足が勝手に急登に向かっていた。昨日の体調を考えると、もし雲の平の登りで足が動かなかったら高天原に連泊して赤牛岳は諦めようと心に決めていたのだが、思ったより快調に雲ノ平に到着した。一年ぶりの祖母岳では昨年より遙かに条件の良い展望が得られ大満足、景色を堪能したら早々に温泉が恋しくなり、そそくさと足早に高天原峠を目指した。

コロナ観測所の辺りで明日登ることになる赤牛岳方面を地図と同定しながら眺め休憩した。温泉沢ノ頭と思われる辺りから派生している尾根をどうやら登るらしい、私のルートの取り方がまずいのか、随分登ったり下ったりの連続で非効率性を感じる。
一度通った道というのは体が覚えているのか苦もなく通過し程なく山荘に到着した。早速温泉のはしごと洒落込み気が付くと二時間半も風呂に入っていた。まったくここは極楽だね(^-^)

露天風呂に入浴中、一人のご婦人がザックを背負いながら覗き込み「高天原にはどう行くんですか?」と聞きに来た。どうやら水晶岳から温泉沢を下ってきた様子、その後結構の人数が沢伝いに降りてきた。

隣にいたおじさんは今日で入山6日目、昨日は水晶小屋に泊まったのだが一人当たり枕分の幅しかスペースがなかったと言っていた。この日も早々に就寝、明日の早立ちに備える。


               
                  雲の平からの水晶岳                                 朝の草原のチングルマはもう・・・





*7月30日(火)温泉沢から赤牛へ

高天原山荘(4:20)---(6:58)温泉沢ノ頭(7:08)---(8:56)赤牛岳(9:35)---(13:00)奧黒部ヒュッテ(13:34)---(15:37)平ノ渡し(17:20)---(17:40)平ノ小屋


いよいよ今回のメインコースだ。3時15分起床、この小屋の自炊場は、玄関前のベンチでとの説明だったので、荷物をそっと持ち出してヘッドランプを点けて表に出ると、一人黙々と食事をしている方がいた。おはようと挨拶し朝食の準備を始める。空は満天の星空、月明かりがちょうど良い。今日も良い天気が期待できる。
事前の情報によると温泉沢コースはペンキマークも完了し、かなりのパーティーが使っている様子、小屋のスタッフに聞いても全然心配ないと言うことだったが、初めての身としてはやはり不安だというのが正直な気持ち、天気がよいのでとにかく計画通り出発する。

計画時に温泉沢と読売新道の情報収集には苦労したのだが、@nifty FYAMATRKの腰痛10年さんのレポと、太郎平小屋ご主人の五十嶋氏から貴重な情報をいただいた事をこの場をお借りして感謝申し上げます。

尚、本文中の標高はプロトレックによるものですが、どなたかの参考にでもなればと思い併記します。

(4:34)昨日湯当たりしそうになった温泉(2075m)から沢沿いに道を分けると、暫くはゴロゴロとした河原を右に左に時々渡渉し、ペンキマークに導かれながら登っていくと、大きく二俣に分かれた沢で右手にペンキマークで誘導してあるところに行き着く(5:15)
暫く沢沿いに進むと、「温泉沢ノ頭」と書かれた道標(2275m)と、尾根に続く道が現れる(5:20)
ここには固定ロープが垂れており、一目でわかった。しばらく休憩し出発(5:25)すると道は急な尾根登り、樹林帯の中を登る。

(5:48)暫く登ると視界が開け森林限界を過ぎたと思われる(2435m)
昨日雲の平から見た尾根は、この尾根から見れば南側に位置し、途中から合流するようだ。見上げると覆い被さるような稜線が高い。振り返れば朝日を浴びた薬師がとても神々しく美しい。太古の人々が敬い崇めた気持ちが分かるような気がした。
この後のルートは尾根上をほぼ直登すると考えて良い。

(6:07)この辺が2.5万分の1図上でのクランク箇所(2555m)と思われるペンキマークが直角に描いてあった。この辺はずっと直登でおまけにザレている。道はハイマツの中に明確についており、所々にペンキマークがあり安心して歩けた。但し、心臓は今にも破裂しそうだったが.....

(6:58)やっとの事で温泉沢ノ頭(2875m)に到着、ふと前方に目をやると雷鳥が一羽うずくまっている。30pぐらいに近寄っても逃げないので至近距離から写真を一枚撮らせて貰ったが、ここはおいらの縄張りだと言わんばかりに堂々としている。触ってみたくなったが、ここはぐっと我慢して立ち去った。

温泉沢ノ頭は想像してたよりずっと展望の良いところで、天気にも恵まれたのだろうが360°クリアーに見えた。立山の陰に見えるのは剣岳だろうか、振り返ると槍の向こうに富士山まで見える。後立山連峰の峰々も手に取るように判る。雲の平の彼方に見えるのは白山だろうか。登りの疲れも忘れて景色を堪能すること暫し、これだから山登りはやめられない。


  
                            温泉沢の頭からの眺望
                              遠く、富士山、八ヶ岳等が見えた



(7:08)これから赤牛岳に向けて稜線の散歩を楽しむつもりで出発したが、すぐに大きく下る。やれやれ、2742ピークの辺りで休憩(7:48)、道はピークを巻いて続いている。振り返り温泉沢ルートに目をやると2人の人影が見えた。いやはや何とも急なところを登ってきたんだなと改めて思った。その疲れからか、登りにかかるとすぐに息が上がってしまい全然足が前に出ない。

途中、水晶からの往復だという人と、赤牛にテント泊したという男の人と、大きなザックの単独の女性(この人は高天原に下る予定と言っていた)の3人しかこの日は人と遭わなかった。


        
             目指す赤牛岳への稜線                             赤牛山頂より登山ルートを振り返る
               遠くに立山連峰とその陰に剱岳                            右ピークが水晶岳遠くに穂高連峰


(8:56)最後は四つん這いになりながら何とか赤牛岳(2864m)に到着、最後の登りはとても辛かった。三角点の側に座り込み靴下まで脱いで大休止、ここまで来ると立山と黒部湖がとても大きく見える。湖上の船の軌跡まではっきりわかる。ここでの展望にも大満足、最後の眺めを楽しむ。
沢を隔てて西側に薬師の頂き、頂上付近には人影まで見える。振り返ると烏帽子小屋だろうか、手に取るように見えなかなか良い展望台だ。


        
               赤牛山頂からの薬師岳                                    赤牛山頂からの黒部湖
               見事な三つのカール群                                     舟の軌跡が見える。  
                                                                 遠くは後立山連峰の山並み
                                                                    白馬岳が懐かしい


名残惜しいけれど下らなければ先に進まない。
この後の読売新道の感想は、はっきり言って「長い」、「辛い」、「暑い」しか思い浮かばない。途中あちこちに1/8〜7/8なる道標があり目安となるのだろうが、私にとってはあまり意味のあるものではなかった。というか所々見落としていた。つまり下ることにかまけて、景色なんて全然見る余裕がなかったのだ。今後どなたかの参考にでもなればと思い通過時間だけ記す。水場は奧黒部ヒュッテまで無い。私は出発時2リットル程度持っていたが奧黒部ヒュッテではほとんどなくなっていた。


(9:35) 赤牛岳出発(2864m)最初はジグザグの滑りやすい道

(10:00) 7/8(2705m)の道標通過

(10:25) 休憩(2580m) (10:30)出発

(10:39) 樹林帯突入(2505m)日陰にはなるが気分的に暑い

(10:50) 5/8(2385m)の道標通過

(11:18) 休憩(2215m) (11:23)出発

(11:27) 3/8(2180m)の道標通過、まるでジェラシックパークの中の恐竜に追われて逃げ回る原始の森のような雰囲気が続く。檜の巨木が目立つ。

(11:45) 岩屋ペンキ文字(2065m)

(11:51) 2/8(2020m)の道標通過

(11:56) 鎖場(1980m)

(12:08) 休憩(1945m) (12:17)出発

(12:28) 1/8(1890m)の道標通過、すぐ手前に左側が白くザレた崩壊地

(13:00) 奧黒部ヒュッテ着(1590m)

こぢんまりとして落ち着いた小屋だ。すぐ前に水場があり、冷たくて美味しい水をたらふくご馳走になり、ベンチで裸足になりザックを枕に昼寝をする。本当に疲れた。
途中腰がチクチク痛みだしアレと思いながら下ってきたのだが、ここまで来たら、しゃがむのも辛い、本格的に腰を痛めたようだ。

平ノ渡しまで2時間と考えても、5時の渡船には十分間に合いそうなので、とにかく出発する。

噂には聞いていたが梯子のアップダウンがかなりあり、身体障害者の身にはとても辛かった。黒部湖というのは上から眺めるとたいした距離に見えなかったが、いざ歩いてみると岬や谷を回ったり、高巻いたりで変な登山路よりずっと辛い。それでも後半は平らな道が続いて何とか渡し場に到着、看板に渡船を利用する人は時間前に階段のなるべく下の方で待機してくれと書いてあった。要するに平ノ小屋から望遠鏡で眺めて人影が見えなかったら欠航すると言うことらしい。

私の場合は少々時間があったので階段の一番下に行きパンツ一丁になり、洗濯と足のクールダウンを兼ねて湖に入ってジャバジャバやっていたら、後で聞いた話すっかり見られていたらしい。思ったよりというか全然水は温く、泳ごうかと思ったのだが、ここで溺れたら死ぬより恥ずかしいので止めた。もっとも後で聞いた話、実際泳ぐ人もいるらしい。

時間通りに渡船に乗り最後の階段を登ると、憧れの平ノ小屋に到着、小屋の前の池には大きな岩魚がゆったりと泳いでいた。本日の宿泊客は五色ヶ原から下ってきた金沢の方と、連泊の釣りの方の三人だけ、夕食前にお風呂にも入ることが出来、さっぱりして過ごせた。

ご主人の佐伯覚憲氏は有名な岩魚釣りのプロ、黒部の谷を知り尽くしている方で、夕食後、色んな「表 and 裏話」を聞けてとても楽しかった。現在の小屋のすぐ下には新しい小屋がほとんど完成しており9月にはオープンの予定とか、歴史ある平ノ小屋はすぐ取り壊しとなるらしい、寂しい限りであるが、時の流れとはこんなものであろう。何となく私はこの小屋にはまりそうな気がする。





*7月31日(水)下山とおまけ

平ノ小屋(6:20)---(9:15)黒部ダム(9:30)---(アルペンルートandバス)---(13:26)折立


渡船の始発が6:00なので同宿の二人を見送り出発する。
昨日痛めた腰の具合が良くないので予定を変更して黒部ダムにエスケープする。本当は、五色ヶ原に登り返し薬師岳経由で折立までの予定だったのだが、無理な行動は慎むことにした。それにしても車が折立に置いてあるので、どうにかして取りに行かないといけない。このルートはエスケープルートとして考えてはいたものの、諸交通機関の運行時間までは調べていなかった。周りの人よれば何とかなるみたいなことを言うので取りあえず出発した。前日泊まった高天原山荘の壁に、有峰口から折立までのバスの時刻表が張ってあったので、万一に備えてそれだけは控えてきたのだが.....

黒部ダムから地鉄の立山駅までは、アルペンルートで繋がっているのは知っていたが、地鉄と折立行きのバスがうまく繋がるかは、結局、立山駅の地鉄の切符売り場で聞くまで誰もはっきりわからないのが現状で、どの駅で聞いても先で聞いてくれの一点張りだった。
結論から申せば繋がります。但し、黒部湖発9:10以前のケーブルカーに乗車できないと地鉄の電車と折立行きのバスがうまく繋がりません。つまり私は5分遅刻したわけです。
料金は立山駅まで6560円、有峰口から折立が2260円、ということでした。

平ノ小屋から黒部ダムまでは、とても静かで気持ちの良い道で、所々に吹き出ている水はとても美味しく、ブナの巨木をすり抜けてくるそよ風がとても心地よかった。行き交う登山者も殆ど無く、このまま帰るのがひどくもったいない気がした。
今ふと思いを巡らすと、不思議なことに平ノ小屋とその前後の印象が、赤牛岳の山頂にいた記憶より鮮明に時空を越えて鮮やかに甦ってくる。黒部ダムが近づくに従い以前の記憶が甦ってくる。今からウン十年前に観光旅行で来たことがあるのだ。もっともそのころは山登りなんてやってなかったのだが.....

せっかくアルペンルートを通るのだから、少し観光でもして行けば良かったのかも知れないが、雄山とそれに連なる山々の姿は、室堂でバスの車窓からしっかり瞼に焼き付けはしたものの、気持ちが折立に向いていたので他は何も見ることもなく、ひたすら乗り継いで下山した。静寂の中から都会の雑踏に迷い込んだかのような錯覚を起こさせるルートである。