【秋吉敏子&マンディ満ちる ジャズコンサート】

    2014.10.26(日) 響ホール
ピアノ:秋吉敏子
ヴォーカル:Monday満ちる



響ホールに初めて秋吉敏子が登場したのが2010年の5月12日、本人は忘れているようだがそれからこの日のステージまで合計3回来場している。今回は娘さんであるMonday・満ちるとのジョイントとのこと、期待を込めて出掛けた。

秋吉さんは1929年生まれ、世間的には高齢者なのだろうがいたってお元気な様子、まあ、ある程度のお歳を重ねると四年の時間というのは大きいものだと思うが、そんなことはまったく感じさせない演奏であった。前半は秋吉さんのソロ、後半は娘さんとのジョイントで、休憩を込め1時間40分位のコンサートはあっという間に終わった感じ、いやはや何とも凄い人だなぁ…

会場はろくな宣伝もしていなかったが結構入っている。前回も言っていたが山形市でジャズ喫茶を営む相沢栄氏と74年から親交があり実現したステージだそうだ。今年は尊敬するエリントンが亡くなってから40年の記念の年なのだそうで、それに伴う企画もあったらしいが彼女のレパートリーにエリントンの曲は少なく、今回スタンダードの「A列車で行こう」の演奏も初めてのような口ぶりであった。
「リポーズ」という彼女のオリジナルは、とても美しいバラードで素敵だった。

曲間に簡単な解説を交え演奏は淡々と進行し、何かにせき立てられているような気がした。彼女のレコードもそんなに持っていないし、熱心なファンでもないのだが、気楽に聴けるのがジャズの良いところ、もっとも気楽になんて言うレベルのアーティストではないのだが…(汗)

56年に渡米してからの数々の出会いや、伝説のプレーヤーとの日常などを記憶の引き出しから引っ張り出して、さらりと披露する時の仕草や表情がとてもお茶目なのだが、もう日本語は半分忘れているのだろう、時折混じる英語の方がはっきり聞き取れた。
ソロの演奏は何というか、完全に自分の中で出来上がっている音を再現している感じ、
いや違うな…

鍵盤上を自在に舞う両手の先にあるピアノが彼女の体の一つの器官のように、そう声楽者の喉のように感じた。それほどアンプを通さないスタインウェイは軽やかに、時にはリリカルにホールに響いた。そして一音一音がとてもクリアでジャズ特有の重さが無いのだ。

ジャズとクラシックのピアノは共通する部分もあろうが音の出し方は全然違う。どちらが優れているとか言う話はナンセンス、心に響く度合いはプレーヤーに左右されるのだろうが、もう彼女の奏でる音は比較できる次元ではないように思う。これまで聴いたピアニストの音など屁みたいなもの(失礼)、左右の音のバランスが何というか絶妙すぎるのだ。例えるなら絶妙なコーラスグループをピアノにしたような感じ、いやいや下手な説明でした(笑)

淡々と前半は終わり休憩、後半は大きくスリットの入った黒のロングドレスが似合う娘さんと並んで登場、満ちるさんの手にはフルートが…
後半のMCは全て満ちるさんが担当、ママは一切口を挟まず水を向けられてもジェスチャーで返すだけ(笑)

Monday・満ちると言うアーティストの音は正直初めて聴いた。以前映画か何かにも出ていたと記憶しているが、ヴォーカリストとして活動していることも知ってはいたが、なかなか聴く機会が無かったのが正直なところ。秋吉敏子の娘という認識が強かったのかも知れないが、本人にはそれ以上の葛藤みたいなものがあったと想像するが…
実際、母娘として共演したのは、ごく最近のことだと言っていた。

共演のオファーがあった時に、さて何を演奏しようかと言う話になって、まさか娘さんのやってきたスタイルを母親に押しつけるわけにも行かず、秋吉さんの作品をベースに満ちるさんが作詞したものや、フルートとの協演と言った感じのステージが多いみたいだ。
満ちるさんはVoをやる前はクラシックのフルートを8年くらいしていたみたいだが、クラシックのプレーヤーにアドリブを求めるのは酷だと笑っていた。

この日のステージもそんな感じでの演奏だったが、残念だったのはピアノが生音なのにフルートはアンプを通していたこと、ピアノと言う楽器は相当喧しいが、フルートだって負けてはいないのだが、まあ構成上ヴォーカルだけマイクを通すと言うわけにはいかなかったのかも知れない、聴いていて微妙にアンバランスだったのが正直な感想だ。

とは言ってもさすがに息はぴったりで演奏自体は素晴らしかった。ビッグバンドを率いていただけあって、全体の構成やアドリブの入れ方、もちろんヴォーカルも含めてさすが大御所といった貫禄を見せつけてくれた。
最後はアンコールを2曲やって手を振りながらにこやかに袖に消えた。
願わくばもう一度このホールで聴いてみたいものだ。