飯森&山響 モーツァルトシンフォニーサイクル
   「アマデウスへの旅」 第6年
   交響曲全曲演奏 定期演奏会 Vol.16


2012.07.08(日) 山形テルサホール
指 揮:飯森範親
ヴァイオリン:犬伏亜里
ヴィオラ:成田 ェ
コンサートマスター:高木和弘

2012.07.07(土) 酒田市民会館・希望ホールにて
庄内定期・第15回酒田公演でも同一プログラム
交響曲 第12番 ト長調 K.110
ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364
---- 休 憩 ---
交響曲 第35番 ニ長調 K.385 「ハフナー」


梅雨真っ盛りではあるがこの日は晴れて暑い日だ。山形テルサに年三回通い始めてはや6年目となる。
今シーズン初めてのモーツァルト定期は嬉しいというか残念というか、7月7日の七夕に酒田公演、翌日本拠地テルサでも同じプログラムで演奏された。
定期会員のチケットは酒田定期も毎年買っているので、年二回しかない酒田公演は、個人的には以前のように「さくらんぼコンサート」と同じプログラムを望む。
とは言っても、2回も素晴らしい演奏を堪能できたことは幸せなことなのだろう。

まずは一通りの流れから…
一曲目の交響曲第12番、演奏旅行続きのアマデウスは作曲も旅先でしかできなかったそうだが、この曲が初めて故郷ザルツブルクで15歳の時に書かれたと言われている。編成はVlnが対向配置の弦5部と2Ob,2Hr,(第2楽章のみ2Fl,2Fg)で全4楽章の構成となる。

二曲目の協奏交響曲は、アマデウスがザルツブルクで大司教と仲違いし、故郷を飛び出す直前に書かれたと言われている。複数の独奏楽器を擁する協奏曲はこの作品が唯一のものだそうで、最大の特徴は、独奏Vlaの調弦をすべて半音高くするようスコアに書かれていることだ。これにはいろいろな解釈があり(マエストロと成田さんの考え方も違っていた)皆さん想像力をふくらませて演奏に臨んでいるようで興味深かった。
初演の時にはアマデウスが、どちらかの独奏を行ったと言われているそうだが、はっきりした記録はない。交流会等で音楽監督と成田さんの意見が発表されたのだが、私は成田さんの説が興味深かった。

独奏Vlnをアマデウス、半音高く調弦したVlaを対立していた大司教に見立てたのは、大司教に対する反骨と皮肉の象徴、みたいなことを成田さんはおっしゃっていたのだが…
半音高く調弦したVlaの音はキンキンして変になるそうだが、その変な音を大嫌いな大司教に投影したと言うことらしい。でも私の素人耳にはその違いがよくわからなかったのが残念だ。

また、半音高くした楽器で実際演奏することはあまり例がないらしく、成田さんは挑戦とおっしゃっていたが、これは現在主流のスチール弦では高く調弦すると響きが極端に落ちる構造になっているのだそうで、それ故ほとんどのプレーヤーは普通の調弦で演奏するのだそうだ。ただしガット弦ではこれが可能とのことで、考えてみればなるほどと納得した次第である。

三曲目のハフナー交響曲は1782年(26歳)の夏に、故郷の知人であるジークムント・ハフナーが、貴族に列せられる祝賀行事のためのセレナードの作曲を、父レオポルトを介して依頼され書いたものだそうで、実際は6楽章を作曲したらしいのだが、抜粋して4楽章の交響曲となり今に伝わるもの。けれども1783年にウィーンで演奏された際には、4楽章形式ではなかったらしい。
編成は弦5部と2Fl,2Ob,2Cl,2Fg,2Hr,2Tp,Timpでかなり賑やかなものであった。
会場の入り具合は、テルサで8割、希望ホールでは6割くらいか、酒田の来客数が少ないのが残念だとはいつもの弁…

華やかなドレスが似合う女性奏者の入場と万雷の拍手の後すぐに演奏が始まった。
1曲目の12番は、最初少し「あれっ、なんか音が違うな」と感じたのだが、Vlnの亜里さんとVlaの成田さんが抜けているからなのだろうと一人納得した。
3楽章では各弦パートのトップ達のアンサンブルが見事だった。実に良い演奏であった。
盛大な拍手が終わるとステージの配置換えが始まる。


2曲目は弦パートが少なくなり、1&2Vln、Vlaが各2ブルト、Vcが3台、Cbが2台、管は2Hr,2Fgtである。これにVlnとVlaの独奏者の配置だ。少ない人数の割にホールにはよく響いた演奏であった。
1楽章から独奏者二人の輪唱のような演奏が印象的で、変な喩えで恐縮だが夫婦漫才でも聞いてるような気がした(失礼)
まあ、それほどぴったりと二人の息が合っていたと言うことです。

私自身このように二つの独奏楽器で構成された協奏曲は、あまり聴いたことがないのですごく新鮮だったし、特に2楽章の曲調はいつもの聴き慣れたものとは明らかに違い、韓流ドラマでも見ているような感覚で聴いておりました。(韓流ドラマなんて見たこともないが…(汗))
何というのかな… 官能的とでも表現しようかなぁ?…

VlnとVlaはオクターブ違いのような音で妙になまめかしく絡み合いながら、とは言っても決して嫌らしくはないのだが…
モーツァルトの音楽は一般的に、ゆったり流れるようなフレーズでも淡々とリズミカルに進行するイメージが強かったのだが、この楽章は明らかに異質なものだった。
そういう意味で驚きに近い感覚を持って聴けたのだ。

3楽章のイメージは従来に戻り、軽やかにリズミカルに進行していく。
HrとObの掛け合いというかハーモニーが実に心地よく響く。いいなぁ〜と、うっとりしながら聴いていたら気づかぬうちに終盤、「夢よまだ覚めないでくれ〜」と心の中で叫ぶも盛大な拍手で現実へ還る。何度もカーテンコールを繰り返し休憩へ…


最後のハフナー交響曲は、後期交響曲と呼ばれるものの最初の作品と言われているらしいが、40番や41番なんかと比較してもかなり軽いイメージの作品だ。その分気楽に聴けたし後味の良いさっぱりした印象を持った。ちょうどベートーベンやマーラーの4番のような雰囲気と言ったら解って貰えるだろうか? 演奏時間も20分ほどと短い。

とは言っても山響の奏でる音は素晴らしくクリアで神々しい美しさ。先ほど演奏したソリストの二人も合流したからか、弦の響きが実に生き生きして良いのだ。中でも成田さんがノリノリで演奏しているのが見ていて実に気持ちよかった。バロックTimpの音も響きが現代のものとは全然違い実に良く響いていました。見事!
いやあ、恐るべし山響… 実に見事な素晴らしい演奏会でした。二日連チャンで聴けて幸せです。


終演後に先日、東京と大阪で行われた「さくらんぼコンサート」の音が、ネットで無料配信されていると飯森音楽監督からお話がありました。日経チャンネルのサイトとのこと。→ここです
また、去年客演した鈴木秀美さん指揮の、シューベルトとハイドンの演奏がCDで発売されたそうで、「レコード芸術」の推薦版になったそうです。
今回の演奏会にもわざわざ東京から見えられ、二日間とも客席におられました。
また終演後の交流会でもご挨拶され、飯森音楽監督のお話では、まだはっきり言える段階ではないのだが、今後山響の運営に参画していただくことになるだろうと言うことでした。楽しみです。

次回の山響は、マーラーの2番「復活」…

     


    

テルサでの交流会の様子




酒田での交流会の様子