飯森&山響 モーツァルトシンフォニーサイクル
   「アマデウスへの旅」 第5年
   交響曲全曲演奏 定期演奏会 Vol.13


2011.06.11(土) 山形テルサホール
指 揮:飯森範親
ピアノ:清塚信也
コンサートマスター:高木和弘
交響曲 第11番 ニ調 K.84
ピアノ協奏曲 第26番 ニ長調 K.537 「戴冠式」
---- 休 憩 ---
交響曲 第25番 ト短調 K.183


モーツァルト定期も早いもので折り返しを過ぎ後半戦へ突入した。
前回のVol.12は、歌劇「魔笛」のハイライト版でとても楽しみにしていたのだが、諸事情により残念ながら聴くことが出来なかった。これで皆勤賞がなくなってしまったが、まあ人が生きている限り予期せぬ出来事はあるものだ。、
今回のメインは25番、あの25番である。個人的に実に長くあこがれていた曲である。
第一楽章冒頭からのあの独特のフレーズ、頭の中のジュークボックスで一時期、常に流れていたフレーズ… ああ、25番よ(笑)

正直なんでこんなに惹かれたのか今となってもわからない。あのころの自分の感情の一部分とぴたりと符合する何かがあったのだろう。
実はこのシリーズが始まった年(2007年)の第一回公演の前か後か忘れたが、米沢の演奏会で25番をやったと記憶している。そのときの悔しさ(何故テルサでやらないのか)ったら筆舌に尽くしがたいものがあった。まだらボケの始まった我が脳髄が今でも鮮明に当時の感情を記憶しているほどだからね…

まあそれはさておき、せっかく山形まで行くんだからと少し早く家を出て、途中昼食をいろは本店の冷たい肉蕎麦で済まし、時間があったので駐車場に愛車を放置してソラリスで映画を見た。
まったくの思いつきの行動なので、何をどんな時間帯でやってるのかなんて知るすべもない。行き当たりばったりで選んだのが「星守る犬」という邦画だった。
所謂、お涙ものの動物映画なのだが、中年特有の涙もろい体質を有する自虐的性格の持ち主が、不思議なことに涙を一滴もこぼさなかったと言う事実、これは何を意味するのだろうかと自問しながらテルサに向かった。

入口前では団員さん数名が、高級外車のボンネットを開け、中をのぞき込んで何やら話し込んでいたが…
山響の良いところは開演前や交流会で団員さん達と気楽に遭遇できること。コアなファンの人達は気軽に雑談しているようだが、私のような小心者は、あっ!○○さんだと心の中では興奮しているのだが、表面上は素知らぬ顔をして通り過ぎる事にしている。(笑)

今回は久しぶりに一階席で鑑賞することにした。正面に近い席だったので指揮者の表情は見えない。プレトークで飯森音楽監督は、このシリーズが始まったときに演奏した25番と、今現在演奏する25番を対比すると、実に感慨深いものがあるみたいなことをおっしゃっていたが、なるほどなと思った。山響の変貌あるいは進化と表現するのが妥当かどうかわからないが、音楽監督自身強く感じていることだから聴衆の前で話したのだろうが、それはこの場にいるみんなも共有しているものだと思う。

一曲目の交響曲11番は14歳での作曲で、3回目のイタリア旅行の後に書かれたものだそうだ。後の研究で真作かどうか???と言う人もいるらしいが、音楽監督によれば、作品の「ちゃめっけ」や「破天荒さ」は間違いなくモーツァルトの作品であると信じていると言っていた。
編成はVlnが対向配置の弦五部で、Hr2、Ob2、Fg1、全3楽章の構成となる。
演奏者には申し訳ないが最近何かと余裕がなく予習できないので、ほとんどぶっつけ本番で聴くようになってしまったが、まあそれはそれで何の先入観もなく聴けるので良いのかと思うようになってきた。この曲も初めて聴いたが、若々しく雅な雰囲気の宮廷音楽と言った感じか、実に奇麗な演奏でした。

途中舞台替えの最中にまた音楽監督のお話があって、今年は東京公演が2回有るそうで、もうすぐやる恒例の「さくらんぼコンサート」と、秋には大井町でもやるらしく、こちらは「ラフランスコンサート」と銘打つそうだ。冗談かと思ったのか会場から笑いが漏れると音楽監督は真剣な表情で本当の話だと強弁した。関東在住の方達には吉報だろう。

二曲目のピアノ協奏曲第26番は、32歳での作曲、晩年の作品でもありオーケストレーションも複雑になり、オケにとっては難しい曲とのこと。編成はP1、Fl1、Ob2、Fg2、Hr2、Tp2、Timp、弦五部で、これも3楽章の構成。
第一楽章のカデンツァは、スコアに記載がないのだそうで、通常は他の奏者の演奏を参考にしたりして決めるのだそうだが、今回は本当のぶっつけ本番、清塚氏の即興でのカデンツァだそうだ。

本日のソリストである清塚氏は、現在28歳でコンクールの受賞歴も多く、最近注目されている若手で飯森音楽監督の出身大学の後輩にあたるという。
舞台が整うと盛大な拍手の中、にこやかな笑顔で清塚氏が登場、演奏席に座った姿がどこかグレングールドに似たところがあると思ったのは私だけだろうか。

出だしの演奏は思ったより柔らかな音だった。でもカデンツァに入ると一変し、激しくダイナミックな演奏が素晴らしかった。第一楽章が終わった瞬間ブラボーの声が上がり、釣られて客席から拍手がわき上がった。それだけ素晴らしかったのだろうが…
まあこれも生演奏の楽しみと言うことにしておこう。

清塚氏の演奏は実に優雅で、ピアノパートが終わると笑顔でオーケストラを指揮するような仕草が見られ、実に楽しく演奏しているのが理解できた。つまりはモーツァルトが初演したときには、弾き振りをしたということなのだろう。

今回の演奏は、各弦楽器のトップとピアノの6人でのアンサンブルが何度かあり、視覚的にも楽しめた。でも、通常の演奏会では、ピアノの音がどうしても強くなるので、あまりこのような演奏スタイルはしないのだそうだが、今回は清塚氏の希望もあり実現したという。この辺も作曲当時の環境にこだわったものと思われる。

清塚氏の演奏は協奏部は柔らかく、ソロの部分は躍動感に富み煌びやかでとても良かった。とても素晴らしい演奏に満員の聴衆からは盛大なカーテンコールが続き、アンコールを一曲、いや〜、凄い演奏でした。いろんな名曲のいい所取りの即興曲で、何と言うかJAZZみたいにかっこいい演奏でしたな(笑)


休憩後の25番は17歳での作曲、ウイーンから帰ったモーツァルトは、サリエーリ、ハイドン等との出会いや、文学の流行である「疾風、怒濤」の思想の影響を受けこの作品を書いたという。またこの曲は数多い作品の中でもたった2曲しかない短調の作品(もう一つは40番)だそうな。
編成はOb2、Fg2、Hr4、弦五部で、全4楽章の構成となる。

まずは憧れの曲を目の前で奏でてくれた山響に感謝申し上げます。この感動は終生忘れることがないでしょう。
始まりはあの有名な旋律が小気味よいテンポで流れていきます。その合間に麻咲さんの奏でるゆったりとしたオーボエソロが流れます。う〜ん、良いなあ…
3楽章の管楽器のアンサンブルは見事、指揮者は無指揮で音を楽しんでいるようです。

ホルンが4台と多いのにFgやObは2台ずつ、けれどもHrの音がそんなに飛び抜けてないのは、違う調のホルンを組み合わせて使うことにより、ナチュラルホルンの欠点を克服する手法だと、八木さんのブログに載っていたが、なるほどなと感心しました。
この曲はあまりにも有名なので細部は書きませんが、とても素晴らしい演奏でした。

交流会では清塚氏の独壇場の雰囲気、MCを務められたNHKの山田アナウンサーも聞き役に徹する感じで、弁舌さわやかな好青年のイメージだが、本人曰く「本当は暗い性格で、家にいるときはほとんど一人で本を読んでいます」なんだってさ(笑)


最後に「星守る犬」とは犬が星を見上げて物欲しそうにしている姿から、手に入らないものを求める人の愚かさを例えた言葉だそうだ。
無い物ねだりは人間の本質的な欲望なのだろうが…


   
この日のソリスト清塚信也さん と MCの山田アナウンサー



  
この日の夕食は夢想庵の板蕎麦