【山形交響楽団 庄内定期演奏会 第11回酒田公演】

@ベートーヴェン:「レオーネ」序曲第3番作品72b
Aショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第1番ハ短調作品35
(アンコール)
Bショパン:ノクターン (河村さんソロ)
-----(休憩)-----
Cチャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36
2010.05.13(日) 酒田市民会館希望ホール
指揮:飯森範親
ヴァイオリン:河村尚子
トランペット:井上直樹 A
コンサートミストレス:犬伏亜里


5月というのに最高気温が10℃を切るこの日は外を歩くのも辛い。例年なら田植えの真っ最中なのだが、我が家は天気を言い訳にして全然植えてない。仕事もしないで音楽三昧の私に親方様はいい顔をしてくれないが、まあ、自然とケンカしても決して勝ち目がないので、モヤモヤした気持ちを切り替えて演奏会場に向かった。

飯森音楽監督の来酒は一年振りか?プレトークが始まる頃会場に入ると、観客の少なさに唖然とする。ひいき目に見ても6割も入っていない感じだ。1階席の後ろの方の自由席はほとんど空席状態、なんでだろう? もったいない…
尚、この日の公演は前日と前々日にテルサでやった公演と同一プログラム、また、毎年恒例の東京オペラシティーでやる「さくらんぼコンサート」とも同一プログラムなのだ。

まずは1曲目のベートーヴェン、この作品はベートーヴェンが唯一書いたオペラ「フィデリオ」の序曲なのだそうだが、初演の時の題名が「レオーネ」だったそうで、その初演が大失敗だったらしく以後何度も改稿したそうだ。で最終形が「フィデリオ」となったらしいが…
改稿の度に序曲も書き直したそうで、今回の演奏は没になったものだそうだが、楽曲としての完成度は高く現在でも演奏される機会が多いという。

私はもちろん初めて聴いたが演奏が始まると鳥肌が立った。今思い出してもとても高いクオリティーの演奏だったと思う。すごく繊細な弦の響きに圧倒される。エッ!なに?山響の弦ってこんなに凄かったっけ?と言うのが素直な感想…
途中トランペットソロのファンファーレが奥の方から聞こえてきたが、井上さんの姿が見えない。でもすごく格好いいファンファーレだった。
飯森さんもタクトを降ろすとヨシッとガッツポーズのような感じの笑顔だった。会心の演奏だったのだろう。

2曲目のショスタコーヴィチが始まる前にピアノセットのため時間が空いたので飯森さんが再び舞台袖に出てきてお話してくれた。
このピアノ協奏曲の配列は変わっていて、通常の弦パートの指揮台の前にピアノがセットされ、管楽器は奥の方にトランペットの井上さんが一人だけスタンディングで演奏する配列だ。私も初めて目にする光景だが作曲者の茶目っ気が伺える。様々な曲の良い所取りのようなパクリがあり、パロディーあふれる曲だとのこと。
ステージの準備が整うと飯森さんが「この曲はオーケストラ大変なんだよなぁ」と言いながら袖へ消えた。

拍手の中蒼いドレスの河村さんが登場しすぐにピアノソロで演奏が始まった。河村さんは以前テルサで一度聴いたことがある。あれは確かモーツァルト定期でのピアノ協奏曲だったと思うが、山響との息がピッタリ合った素晴らしい演奏だったと記憶している。
第一楽章はピアノと弦とトランペットが速いパッセージを繰り返しながらの手に汗握る緊張感あふれる演奏だ。

第二楽章は一転して穏やかな優しい展開、弦楽器は弱音器を使っての演奏なのか柔らかな色合いに聞こえる。井上さんのトランペットもミュートを着けた優しい音色で実に自然で美しい感動的な演奏でした。私は聴いていて涙を堪えるのに必死だったのが正直なところ…
第三楽章は非常に短いとのことだったが知らないうちに最終楽章に入っていた。

第四楽章は荘厳な出だしから始まり、思わず笑いだしそうなフレーズがあったり、息もつかせぬような速い展開があったり、実に多彩な演奏である。井上さんのソロトランペットは、舞台後方でオペラ歌手が気持ちよく踊りながら歌うように、あるいは叫んでいるような…、けどうまく調和していて非常に気持ちの良い響きの演奏だった。最後はとても速いパッセージからスパッと終わる。
いやはや何とも言えない素晴らしい演奏でした。山響って凄いなと改めて唸った。

また河村さんの演奏も鳥肌が立つような素晴らしいもので、彼女の演奏技術も凄いのだが、感性というか音楽性の高さが際だっていた。当然のごとく凄まじいカーテンコールの嵐、団員さん達も足を踏み鳴らし大絶賛していた。
でアンコールは一転してとても静かなショパンのノクターンをさらっと弾いてくれた。
弾き終わってから拍手が湧き上がるまでの静寂の間は、ゾクゾクッとした震えが来るほど素晴らしい余韻を楽しめた。
この人ホントに凄いですよ〜(笑)

休憩後はメインのチャイコフスキーの4番、ここ希望ホールでは2007.03.25(日)に山響がバイロン・フィデチスの指揮で演奏している。その時も素晴らしい演奏だったのを記憶している。
チャイコフスキーの曲はファンも多く演奏される機会も多いのだろうが、私自身生で聴いたのは6番の悲愴とPコンの1番位かな?さすがに有名な曲、飯森さんは暗譜で振っていた。

飯森さんの解説によれば第一楽章と二楽章は共に暗くて陰鬱なテーマがあるのだそうで、三楽章で少し回復して、四楽章でやっと希望に満ちた展開になるのだそうだ。
大パトロンであるフォン・メック夫人に、作者自身が楽曲の解説をした書簡が残っていると解説に書いてあったが、芸術家とは、我々素人には想像もつかない難題を常に抱え込んでいるんだな、と言うのが偽らざる私の感想だった。
逆に言えば、それだけ抑揚があり変化があって賑やかな曲調だから、万人受けするのかも知れない…

この曲は非常に有名なので、あ〜だこ〜だと私如きが書けるものではないが、この日の山響の演奏は、曲の進行に伴い聴衆をグングン引きつけるオーラのある素晴らしい演奏であった。終曲後のブラボーは当然の成り行きでした。

改めて考えるまでもなく、生の演奏会は聴衆に何かを伝え訴えるものでなくてはならない筈、ミスのない音質的に優れた無機質な演奏はCD等で聴けばよい。
飯森さんの鬼気迫るような指揮姿と、それに応える団員さん達の演奏姿勢は、いつも私たちに素晴らしい何かを確実に伝えてくれる。その何かとは人それぞれ違うものなのだが、私自身うまく言葉で説明できないもどかしさがあるものの、多くの人が会場に足を運んで実際に聴けば少しは私の言わんとすることが伝わるのではないかと思う。

未だクラシックの演奏会は、知らない人達には敷居が高いイメージがあって演奏会になかなか足を向けてくれる人が少ない現実がある。特に地方(庄内も含めて)ではそれが顕著だ。
しかし、ただ一つ言えることは、山響とそれを応援する人達の輪は確実に広がっていると感じられること。観客の異常な少なさは庄内特有のものかも知れないが、現音楽監督とそのポジティブな想いに共感する人達は確実に増え続けていると思う。

交流会で山響の演奏会の選曲は、武田英昭さんが実質行っていると飯森音楽監督より紹介があった。
武田氏は東京交響楽団のライブラリアンをしている方だそうで、飯森さんは東京交響楽団の正指揮者でもありますから、その繋がりによるものなのでしょう。
武田氏は山形東高出身で、山形のために何かできればと協力してくださっていると、説明があった。

いろんな所で山響を陰に日向に支えてくださっている人達がいて、それらの力で素晴らしい演奏を聴かせていただいているんだなと、改めて思い知らされる一齣でした。


交流会での各氏
(左から河村さん、井上さん、飯森さん)