【G・プッチーニ:オペラ「ラ・ボエーム」全幕】
                            トヨタコミュニティコンサートin酒田
                        酒田フィル第31回ファミリーコンサート

第1幕】 パリの屋根裏部屋

【第2幕】 カフェ・モミュス

(休 憩)

【第3幕】 アンフェール門税関の前

【第4幕】 第1幕と同じ屋根裏部屋


[全幕・原語上演・字幕スーパー付]

2008.03.16(日) 希望ホール



{キャスト}
ミミ ---------------- 大貫裕子
ロドルフォ ---------- 水船桂太郎
マルチェッロ -------- 与那城敬
ムゼッタ ------------ 安達さおり
コルリーネ ---------- 谷茂樹
ショナール -- --------岡崎智行
ベノア&アルチンドロ -- 宮本聡之
バルピニョール ------- 関矢基博
管弦楽 酒田フィルハーモニー管弦楽団
指 揮  中橋健太郎左衛門
合 唱  コーロプリモ
児童合唱 酒田マリーンジュニア合唱団
合唱指揮 関矢順
児童合唱指揮 関矢基博
お話・音楽監督 三枝 成彰


なにはともあれ、冒頭にて 「ブラボー〜〜!!!」でした。

本当に素晴らしかったです。
まずは、酒フィルの団員、合唱団、歌手の皆様、スタッフの皆様には最大の敬意を表します。

恥ずかしながら生オペラは初めての経験、それも素晴らしい席での3500円とは、破格というか信じられないお値段、当然チケットは完売とのこと、幕が開く前に音楽監督であられる三枝氏が舞台上に登場し解説をしてくださいました。
それにしても、この人はいつ拝見してもお若いですなぁ・・・

プッチーニのオペラは演奏するのが非常に難しく、アマオケで上演できるのは日本では酒フィルしかないのではと仰られました。団員の方々は一年前から練習を開始され、本番まで48回の練習を重ねられたとのこと。団員の中にはこのオペラ上演のために、家庭争議の危機?を乗り越えられたり、某大学の教授職をなげうち、酒田に移住してまでの情熱を持って臨まれた方もおられるそうです。

物語は19世紀のパリの屋根裏部屋に暮らす4人のボヘミアンと呼ばれる若く貧しい芸術家の卵達が織りなす悲喜劇に恋を交えたもので、プッチーニのあまりにも有名な代表的オペラ作品です。
物語の背景には19世紀におけるパリの生活習慣が色濃く表現され、当時の人々の暮らしぶりをうかがい知ることができるそうです。

19世紀以前には芸術家たちをアーティストと呼ぶ概念はなく、音楽や描画などを生業とする人たちは、「職人」の範疇に属しており、世襲制で成り立っている職業だったらしいです。当時の人たちには、それだけ職業選択の自由がなかったということです。
本作に登場する若者達は所謂良家の御曹司達で、親の言いつけに背き、好き勝手なことをやって暮らしているがために、仕送りを止められ貧乏な生活を送っていると言うのが本当のところらしい。

また、ミミのようなお針子さん(一人暮らしの自立した若い女性)は、当時のパリには大勢住んでいて、今の日本のOLさんみたいな存在だったそうです。
それから乳母という今では死語に近い職業の女性たちも、当時のパリには何万人も暮らしていたそうです。
また、家賃は現在とは逆に上階の方が安かったそうで、エレベーターなど無いので上階に住む住人は、階段の上り下りに息を切らしていたそうです。

酒フィルのコンサートなのに、オケの姿が全然見えないのはステージ下のオケピットに入っているためで、天上からのスポットライトが指揮者だけををピンで照らしています。もっとも一階席からは指揮者の姿もよく見えませんが・・・。

すぐに第一幕が開きます。



休憩時にオケピットを携帯で撮影


ストーリーはいたって明快で詳しく書くことは控えますが、4人の男性が貧しい共同生活する屋根裏部屋にはストーブにくべる薪もなく、寒さに震える場面から始まり、ミミとロドルフォの出会いと恋に落ちる様を描いています。
男性陣の歌唱も素晴らしかったのですが、ミミ役の大貫さんが登場して歌い始めるとステージの雰囲気がガラリと変わりました。

オケの演奏も素晴らしくホールによく響きます。有名なアリア「私の名はミミ」は、大貫さんの歌唱が本当に素晴らしく感動的で、鳥肌が立ち、こみ上げる感動の涙を抑えるのに苦労しました。この後この旋律は各幕間でミミのテーマのような感じで登場するたびに少しだけ流れます。
幕切れの二重唱「愛らしい乙女よ」を歌いながら舞台をゆっくり去り、袖からの絞り出すように歌い上げる二人のハーモニーは、背中にビビッと悪寒(笑)が走るような美しさでした。

続いて第二幕は冒頭からとても賑やかに始まります。
大勢の子供達や行商人・・・ カフェのあるパリの街角に織りなす愛憎劇と言ったところでしょうか。
ロドルフォはミミを仲間達に紹介し、楽しげな宴の真っ最中にマルチェッロのかつての恋人、ムゼッタがパトロンを引き連れて賑やかに登場します。

圧巻はムゼッタ役の安達さんが歌い上げるワルツ「私が一人で街を歩くと」
最後は全員での大合唱・・・
スンゴイ迫力でした。
very happy happyで幕が下ります。

エキストラと言ったら失礼なのか?、市民合唱団の皆様お疲れさまでした。何故か(当然か?)何処かで見た顔がいっぱいだったのには驚きました。中には相当かなり近い知り合いの顔も・・・(笑)
みんな人が悪いf(^^;)
一言教えてくれたら楽屋にでも届けたのになぁ・・・(笑)

休憩の後再び三枝氏の解説がありました。
第三幕冒頭の税関の舞台装置にでてくる門は、当時のヨーロッパの都市は非常に治安が悪く、都市の周りは城壁でぐるっと囲われていたそうです。夜になると門を閉じ、朝になると周辺に住んでる街を掃除をする人達や、行商の人達が通って来る時間になると、検閲しながら通すと言うシステムがどの都市にもあったのだそうで、当時としては当たり前の風景なのでしょう。

それとマフと呼ばれる手袋、これは日本の生活習慣では想像できない代物で、ヨーロッパの宗教的習俗によるものだそうです。ヨーロッパの上流階級のご婦人達は、就寝の際に手を寝具の外に出して寝る習慣があり、決して布団の中に手を入れないのだとか・・・(まあ詳細は記しません(汗))
それでは寒い晩は手が冷たいので円筒状の手袋をして寝るんだそうで、それをマフと呼ぶんだそうな・・・。第四幕では重要な小道具です。
死を目前にしたミミが最後の望みとしてマフを欲しがる場面があります。これはせめてこの世を去るときだけは、上流階級の女性として死にたいという願望が込められているものだそうで、我々日本人には説明を受けないと理解できない場面です。

第三幕が開きます。
個人的に冒頭の音楽がとても好きで、寒いパリの朝を上手く表現してると思います。
合唱が小気味よく響きます。
この幕は別れの場面、ミミとロドルフォ、ムゼッタとマルチェッロが対照的な別れ方をしながら幕がおります。
字幕では現しきれない4者それぞれの思いが詰まった歌唱が、とても素晴らしかったです。

続いて第四幕、第一幕と同じ舞台装置、屋根裏部屋での4人の共同生活が、とてもコミカルに楽しく演じられます。
ロドルフォとマルチェッロの未練たっぷりの二重唱が男心を妙にくすぐりました(笑)

突然ムゼッタが現れ危篤状態のミミが来ていることを告げます。
ここで舞台上の雰囲気がガラッと変わり、ロドルフォとミミの出会った頃の回想を経て、ミミの死で幕がおります。

最後のシーンは、いくらわかっていても涙があふれるシーンです。解説の三枝氏もパブロフの犬のように、最後のシーンでは涙を必ず流されるそうです。このシーンを見て涙が出ない人は、人間としての感性が欠落しているみたいなことを音楽監督はおっしゃってました。

プッチーニのオペラが現在まで途切れることなく上演されて来たのには理由があるそうで、
一つは、悪人がいないこと、
二つは、女性の描き方が貞淑であること、
三つは、主人公が薄幸だということだそうで、ある意味、物語に「水戸黄門」のような安心感があり、聴衆受けするのではないでしょうか?

初めて生オペラを見たのですが、ストーリーもそんなに複雑ではなく、少し事前に勉強?すれば(DVDを二〜三回見たら)字幕を目で追う煩雑さもかなり軽減され、音楽も十分楽しむことが出来ました。

でもやっぱり、生は全然迫力が違います。
人間の歌唱の素晴らしさ、特にソプラノの華やかさは、どんな楽器も決してかなわないものだと改めて思い知らされた夢のようなひとときでした。
暫くは夢に毎晩出てくるような感動を味わわせて頂き、とても幸せな気分で帰宅したのは言うまでもありません。

このような企画を完遂された酒フィルと関係者のご努力には本当に頭が下がります。私のような素人には想像も出来ないような壁があったことは想像に難くありません。
でも、終演後の皆様の笑顔は最高に輝いてましたね
とても羨ましく思いました。