【アレクセイ・ゴルラッチ ピアノリサイタル】

JSバッハ/ブゾーニ編:18のコラール集より
 “来たれ、創り主にして神聖なる神よ”BWV.667
 “いざ来たれ、異教徒の救い主よ”BWV.659

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ長調 Op.35「葬送」
----(休憩)-----
ブゾーニ:「エレジー集」より第3曲“わが魂は汝に望みを託す”(コラール前奏曲)

ショパン:12の練習曲 Op.10

2007.07.12(木)  響ホール

ピアノ : アレクセイ・ゴルラッチ



浜松国際ピアノコンクールは中村紘子を審査委員長に3年に一回開催され、2006年の優勝者がアレクセイ・ゴルラッチ、ウクライナ出身の19歳の若き才能だ。

最近国際的にも評価の高いコンクールになってきており、その優勝者は、翌年国内外の著名な会場でのピアノリサイタルが約束されている。ちなみに今年はニューヨークのカーネギーホールもその一つで、国内ではここ響ホールの他に、翌日に東京の紀尾井ホール、その後N響との共演が続くようだ。

響ホールでは、過去にアレッシオ・バックス、アレクサンダー・ガブリリュク、ラファウ・ブレハッチ、上原彩子と歴代の優勝者が演奏している。


この日の会場には満員に近い観客が集まり少しビックリした。少し緊張気味に演奏が始まる。
ホールの音に耳が馴染むまで少し時間が掛かり、最初の曲は少し違和感を感じた。バッハの曲は、やる方も聴く方も難しい。

しかしながら2曲目のショパンのピアノソナタは本来の力量を十二分に聴かせてくれた。久々にスタインウェイ本来の心地良い音がホールに響いた。多くの奏者に絶賛されているこのホールの響きは本当に素晴らしく、演奏者のテンションも非常に高いのが良く理解できた。さすがにショパンは良く弾きこなされており完璧に近い演奏だったと思う。素晴らしい演奏だった。

休憩を挟んでブゾーニの非常に難解な曲、そして最後はショパンの12の練習曲が、殆ど途絶えることなく演奏された。
誰でも耳にしたことのある曲も多く、華麗なピアノタッチの微妙なニュアンスや、奏者の息づかいが心地良くホールに響いた。
鳴りやまぬカーテンコールにアンコールを2曲(曲名はシューマンの作品?と何か良く分からないもの)、非常に良いセンスを持ったピアニストだと感じた。今後の活躍が楽しみだ。

演奏を聴きながらいろんな思いが湧き上がった。
世の中に若いピアニストはごまんといるが、このような国際コンクールに出て優勝できる人は、当然のことながらほんの僅かである。超有名なショパンコンクールなんかで優勝すれば、もうレールに乗っかったように成功者という名声が確実に待っている。世の著名な音楽家の多くはこのような道のりを歩んできた人も多い。

最近の音楽界ではアジアの若手の活躍がめざましく、2004年のショパンコンクールの優勝者は中国のユンデ・リイ、今年のチャイコフスキー国際コンクールでもヴァイオリン部門の優勝者は日本の神尾真由子、過去には諏訪内晶子、佐藤美枝子、上原彩子などの優勝者も輩出している。共に素晴らしいソリストで評価も高い。

またその功罪もいろいろな意味で興味深い。良い例がスタニスラフ・ブーニン、彼がショパンコンクールで優勝したときの演奏はある意味実に衝撃的だった。
しかし、彼のその後の音楽活動は実に複雑だ。素人の私なんかも感じるほど演奏スタイルは当時と変わっている。
若い才能が今後辿るであろう荒波を象徴している良い例だろうと思う。

人が生きることを音楽に重ねたとき、そこに現れる明確な「言葉」を私は聞くことも感じることも出来ない。でも、オーラとでも呼ぶのか、不思議な何らかの力を少しだけ感じることができる。それらを癒しや生き続ける勇気に無意識の中で勝手に変換しているのかも知れないが、自分が音楽を聴き続ける明確な理由を上手く言葉にすることは出来ない。

今回のような若い才能を聴く機会は、田舎に住んでいるとめったにないことだが、確かに技術的には素晴らしいレベルにあるとは思う。素晴らしい音を生で聴ける幸運に浴しながらも、テレビ等で聴くポローニやアルゲリッチとは明らかに違う何かを感じた一時でもあった。

どんな演奏会でも、その場にいるだけで本当に楽しくワクワクするものです。
だから音楽を聴き続けているのかなあ・・・