【山形交響楽団 庄内定期演奏会 第3回酒田公演】

☆モーツァルト集(生誕250年記念)
歌劇「フィガロの結婚」K.492 序曲
アリア「心配しなくともいいのです、愛する人よ」K.505
(独奏ピアノ:小林路子)
歌劇「後宮からの誘惑」K.384 序曲
同上より 第2幕「コンスタンツェのアリア」
歌劇「魔笛」K.620 より 第2幕「夜の女王のアリア」
  ---- 休 憩 ---
マーラー 交響曲第4番ト長調

2006.07.21(金) 酒田市民会館「希望ホール」にて
指 揮:飯森範親
ソプラノ:佐藤美枝子
コンサートマスター:執行恒宏
  犬伏亜里(マーラー4番 ソロ)



山響の今年最初の酒田での定期公演は、飯森さんの指揮、メインはマーラーの4番、ずっと、ずっと、とても楽しみにしていた公演である。
前半はモーツァルト集、歌劇からのいい所取りでソプラノの佐藤美枝子さんの素晴らしい声がホールに心地よく響いた。クラシックの歌い手の声をオケと一緒に生で聴いたのは恥ずかしながら初めてである。
10月には希望ホールで本物のオペラ「フィガロの結婚」が上演されるのだが、あまりの人気にチケットは先行予約の段階でパンク、残念ながら私の手には入らなかった。

佐藤さんは目の覚めるような青の衣装で登場、生ソプラノは初めて聴いたのだが、はっきり言ってすんごいショックだった。オケをも圧倒する素晴らしい声量、人間の声の素晴らしさ、全ての楽器は人間の声の模倣に過ぎないと言う言葉を実感できた。

4及び5曲目のアリアでは、鳥肌の立つコロラトゥーラ・ソプラノ(ソプラノで最も高く輝きのある声種)を聴かせてくれた。5曲目の「夜の女王のアリア」は誰もが知っている有名な曲、コロコロと転がるようになめらかな高音の発声は、飯森さんの解説でも世界レベルの歌唱ということだったが、歌曲に合わせた表情や仕草も素晴らしく原語など解らなくともその歌唱とボディーランゲージで十分理解できるものだったように思う。あまりの熱唱に歌い終わってから涎?をぱっと拭く仕草が失礼ながらおかしかった。多分人間の声域の限界近くでの高音歌唱、体全体を使っての発声が理解でき、感動と共に何と言うか痛々しさも感じた。

休憩をはさんでマーラーの4番、多分酒田でのマーラーの演奏は初めて、飯森さんの十八番であるマーラーは、今年の初め山形市民会館でWPRとのジョイントでの1番の演奏の感動が今も耳に焼き付いている。
今回の演奏はドイツスタイル、オケの配置が通常と違って、第2ヴァイオリンがステージに向かって右側に配置されている。チェロパートが通常の第2ヴァイオリンの位置だ。それとコントラバスも通常とは反対の位置、マーラーの曲はヴァイオリンパートが第1と2がそれぞれ独立しており、ステレオのようなサウンドが楽しめるとの解説でした。後半からコンマスは亜里さん、彼女の前にはもう一本ヴァイオリンが置かれている。

鈴の音とフルートから始まる第1楽章は、この交響曲全体の出来を占う上でも重要な楽章だと思う。飯森さんはこのオケを素晴らしい統率力でまとめ上げたと最初の一音で理解できるほど素晴らしい立ち上がりだ。鳥肌が立ち、だんだん涙目になってくる。ゆっくりそして心地よいテンポで、そして時に激しくマーラーの雰囲気を十分堪能できた。もう1楽章だけで大満足の演奏だ。山響は常に進化している。

第2楽章に入ると各パートのソロが入り雰囲気がガラリと変わる。亜里さんの前にあるもう一本のヴァイオリンは、通常のチューニングより開放弦で1音ずつ上にセットされたもので、作曲者の指示によるものだそうです。亜里さんは時折この楽器に持ち替えソロで楽曲に変化を付けます。CDで聞いていても解らない演奏が実際目の前で披露され見ていて楽しめた。特徴的なピチカートもこの楽器だ。山響の各セクションソロパートの腕の見せ所でもありとても見事でした。

第3楽章もゆっくりした雰囲気で始まり文字通り「平安に満ちて」の雰囲気、この楽章も各ソロパートの掛け合いが面白い、ゆったりとしたコントラバスのズンとした低音がホールに響き心地よい。ヴァイオリンの静かに流れるような旋律が感動を盛り上げる。クライマックスは消え入るような美しい響きで、そのまま休みなく第4楽章に静かに入る。

第4楽章は袖からソプラノの佐藤美枝子さんが再登場、高らかに笑顔で楽しそうに歌い上る。合間に冒頭の鈴の音を伴った主題が現れ、天上の楽園の楽しさを想像させてくれる。そして感動のエンディング、静かに静かに終わります。
飯森さんがゆっくりタクトを下ろすまでの静寂が素晴らしかった。よくフライング気味の拍手が起こるのだが、酒田の聴衆はオケと一体となり演奏に集中していることを証明するエンディングだった。見事!