【寺井尚子コンサート2006】

平成18年6月6日(火)響ホール
寺井尚子(vln)
北島直樹(p)
細野よしひこ(g)
成重幸紀(b)
中沢剛(ds)


ジャズをまじめに聴いていたのは生意気にも20代前半、ビル・エバンスのLPに衝撃を受けたのが昨日のことのようだ。しかし世俗の荒波にもまれ、いつしか遠ざかってしまって久しい。そんな人間がたまにコンサートに足を運ぶと普段めったに会えないような古い知人に出会えるから不思議なものだ。

ジャズヴァイオリンと言えば大御所ステファン・グラッペリ、古いレコード棚の奥に1枚くらいLPがあったような気もするが、失礼ながら寺井尚子は聴いたことがなかった。ぱっと見?若い人かと思ったが、デビューしてから20年近いキャリアの持ち主とのこと、最近、きんちょう蚊取り線香のTVCMに出ているとのことだが、テレビなんてろくに見ない仙人のような生活をしている身には知る由もない。

冒頭、ビゼーのカルメンから始まる。ちょっとビックリした。ヴァイオリンでジャズをやるなんてクラシックの素養が根底にあることは容易に想像できるが、ウ〜ムと唸る。この後暫く懐かしいスタンダードナンバーが続く。
ディジーガレスビーのBe Pupやウェザーリポートのバードランド等々、不覚にも乗せられてしまった。ボサノバやアルゼンチンタンゴ、ピアソラの曲も良い感じ。

師匠筋のJ・ラインハルトやS・グラッペリの曲も懐かしく聴いた。ジャズ本来の疾走感と心地良いリズムに自然と体が揺れる。北島直樹のピアノも好きなパターンだ。パンフレットに”多彩な表現力云々”なんてあったが、確かに素晴らしいものがある。
、80年代は大規模なジャズフェスティバルがあちこちで開催され(今もあるのか知らないが)ジャズかロックかヒュージョンか良く判らない時代が暫く続いたように個人的に記憶している。
その頃私は、ハービーハンコックがピアノじゃなくて、変な格好でキーボードを叩く姿に違和感を覚え、チックコリアやゲイリーバートンのクリスタルなサウンドに引かれながらも、レイブライアントのピアノソロコンサートでスタンダードを聴いていた。
日本では女性ジャズボーカルの全盛時代、阿川泰子などが連日テレビに出ていた時代が懐かしい。

パッショナブルと形容していたのを何かで読んだ記憶があるが、あの頃の自分はパッションという概念をはき違えていたのかも知れない。この日のメンバーのサウンドは、明らかにあの頃のジャズとは違っていた。それが非常に心地良い感動を与えてくれ、久々に心の底からリラックスして楽しめたジャズコンサートであった。