耐暑訓練-湯ノ沢岳(泣きっ面に蜂)


登路途中からの湯ノ沢岳山頂方向

【日 程】2014年07月21日(月)
【山 域】摩耶連峰
【山 名】湯ノ沢岳(964m)
【天 候】晴れ時々曇
【メンバ】2人
【コース】登山口 → 山頂往復
(概 略)


登山口(8:32)---(11:50)湯ノ沢岳(12:30)---(15:20)登山口



海の日には何処に行こうか悩んだが、泊まれるわけでもないし日帰りとなると鳥海や月山では人見物に行くようなもの、じゃあ湯ノ沢岳で静かに山を楽しもうと言うことになったのだが…

湯ノ沢岳は朝日連峰の支脈と言っても良いのだろうが、一応摩耶山から連なる連峰と言うことにしておく。
湯ノ沢岳からの縦走路は金峰山まで続いており、途中母狩山を乗越して行くのだが、標高の割に結構ハードなルートである。何年か前に歩いたことはあるが、あの頃は元気だったのだ。

湯ノ沢岳は弘法大師が湯殿山を開く前に開山されたという伝説が残っているそうで、山頂直下には湯ノ沢権現が祀られ明治の頃までは講があり信仰を集めたという。
標高は1000mに満たないが、登山口からの高度差は800m程になるためそんなに楽な山ではない。先日の朝日帰還では相変わらずの暑さに弱い体質が露呈し、迷惑を掛けたので今回、耐暑訓練も含めての山行となった次第である。

登山口にはいつも立派な水場から冷たい水が溢れているのだが、この日は出ていなかったので川の水を大量に汲んでから出発、林道を暫く登るとワラビ畑が現れる。風は全くなく日差しも強いためのっけから大汗を掻きながらの歩きとなる。1合目の表示がありそこから本格的な山道歩きとなる。それにしても暑い、水ばかり飲んでいる。
2合目までがやたら長く感じたが3合目はすぐに通過、この辺の距離感が不思議だが歩を進めるうちにいつの間にかブナ林の尾根歩きとなる。陽の当たらない風の通る尾根で一休み、この涼やかな風が実に気持ちよく愛おしい。汗が一気に乾いていき飲む水も心なし冷たく感じる。


  
ブナ林の中の尾根道を登る


ブナの姿を観察しているとそこにはいろんな表情があり実に面白い。


  
何に見えるかな?




登るに従い展望も増し気持ちの良い尾根歩きが続くが、急登の連続で鎖場もあり気が抜けないのが正直なところ、途中草刈り機を持った二人の男性が降りてきたので挨拶すると、8合目の少し上に地蜂の巣があったから気をつけるようにと言われた。
8合目までは両側が切れ落ちた岩場や、足場が悪い場所もあって少し苦労して通過したが蜂の巣なんて全然気づかないで登ってきた。だが最後の急登の手前で登山道に紙くずのような白い物が落ちていたので何の気なしにストックで触った。しかしなんと言うことか、それが地蜂の巣だったのだ。

筆者の夏山での服装は短パンと決めているのでこの日も同じ服装だった。それに膝下までのハイソックスを履いていたのだが色がグレーの濃いものだった。当然敵はそこに集中したわけで、目をやると十数匹が右足の膝下に群がっている。と同時に猛烈な痛みに襲われた。たまらずその場から離れ手で払ったのだが後の祭り、ふくらはぎを十カ所くらい刺されてしまった。

はっきり言ってアホですな。人の忠告を無視した報いです。でも歩くには何とか支障がなかったのでそのまま急登を詰めると9合目に到着、ここで右に進路をとれば母狩山への縦走路、左が湯ノ沢岳山頂方面となる。小休止後山頂へと向かう。
この登りが最後の頑張り所、とは言っても蓄積された疲労感もピークで結構辛いのだ。ヒイヒイ言いながら登った山頂では何と綺麗な蝶が舞って出迎えてくれた。

まずはお互いの健闘を称え合い冷たいBeerで乾杯。
と言いたいところだが、時節柄担ぎ上げたぬるい水で代用した。ここは夏真っ盛り、もう天然の冷蔵庫さえ消え失せていた。
お湯を沸かし慎ましい昼食となる。熱いコーヒーがことのほか美味しかった。
展望は霞んではいるものの結構楽しめた。大朝日岳は見えなかったが朝日の主稜線も望まれた。視線を返すと庄内平野の緑が美しい。鳥海は隠れているが日本海と庄内浜が作る延長線上には遠く寒風山が望まれた。甑岳の奇っ怪な山容が一際目を引く。


  
山頂にて


個人的に山から眺める庄内平野が大好きだ。冬の純白に輝く景色も良いが、春から夏にかけ刻々と変わる稲田の緑が何とも言えない。緑のグラデーションが淡い色合いから確固たる濃い緑に時間と共に変化する様は、我が故郷が世界に誇れるものだと思う。そして秋になると豪華絢爛たる黄金色に変貌するのだ。この雄大でダイナミズムに溢れた景色は、我が心の原風景となり様々な思考、思念の原点となっている。

湯ノ沢岳も庄内平野の展望に適した山だが、逆に言えば庄内平野のどこからでも見える山でもある。そして見る角度によってその山容も変化する。金峰山、母狩山、湯ノ沢岳と三つの山が重なって見える場所、あるいはアルプスのように三角錐に見える角度…etc
不思議なものでその気になって見ないと山は特定できないもので、ああ綺麗な山脈だことで終わってしまうことも多々ある。鳥海や月山は別格として、湯ノ沢岳の名と場所を特定できる人は、この地にどれほどいるのかを考えてしまう。
時間が気になってきたので下る。

改めて下ってみるとこの山の急峻さが理解できる。
下から上を見るのと逆ではその感じ方が異なる。急斜面を登ることは出来ても下れない。これはスキーでも同じ、たいした斜面ではないと思ってもいざ斜面の上から下を見下ろすと恐怖感を覚える。これはやったことのある人なら上手い下手を問わず分かるであろう。
恐怖感を覚えると人は自然と重心が後ろに下がる。スキーではこれを後傾姿勢というが、悪雪を滑り降りる際には有効だが、半端な筋力では維持できない。
山歩きでも何でもこの恐怖心を克服できたら世界は変わるものだと思う。
まあ我々凡人には永遠のテーマでもあるが…

と言うことで四苦八苦して下っていくと問題の地蜂の巣が目に入った。今回は慎重に刺激しないように通過する。幸い敵が騒がないうちに通過することが出来た。これで一安心、しかしその後に待っていた不幸は筆舌に尽くしがたい。
下りのやっかいなところは足に負担が多くなること。特に傾斜が大きいほどダメージは大きい。わかっていることではあるが現実は厳しいのだ。特に山歩きから暫く遠ざかっている者ほど以前のように歩けると思っているからなおひどい結果となる。

それは突然やってきた。
突然両足に鋭い痛みが走る。何が起きたのかわからずに視線を返すと黄色い蜂が2匹足の周りを飛び回っている。本能的に、やばい逃げろと言っていた。相方共々必死に走ってその場を離れる。幸い刺されたのは最初だけ、左足のふくらはぎと右足のふくらはぎと足首だった。逃げるのに必死で蜂の姿は一瞬しか見えなかったが、多分キイロスズメバチだと思う。



後日談、腫れは一週間続いたが痛みは一晩で引いた。地蜂よりスズメバチの方が毒素が強いのは当然として、両足のふくらはぎから足首が暫くパンパン状態で靴下を履くのが苦痛だった。
痛みが引いたら今度は痒みがどこからともなくやってきて今も続いているが、時の経過と共に痒みは増している気がする。

耐暑訓練で辛い登下降をし、さらに蜂に二回も刺されるとは、正に「泣きっ面に蜂」である。

これも日頃の悪行の報い、山の神様は全てお見通しなのだ。(笑)