鳥海散歩(花の字雪渓に導かれて)


花の字雪渓と咲き乱れるハクサンイチゲ

【日 程】2014年6月22日(日)
【山 域】鳥海山
【山 名】長坂道分岐まで(1640m)
【天 候】曇
【メンバ】2人
【コース】吹浦口からピストン



吹浦口(9:00)---(10:20)とよ---(10:36)河原宿---(10:55)分岐(11:52)---(13:35)登山口

久しく山遊びから遠ざかっていたが、これではイカンと常々考えていた。平日に会社をサボって行く手もあるが、小心者には無理がある。かといってこのまま手を拱いていても改善する見込みはない。しからば能動的に対処しようと言うことで、早朝5時からの草刈りで一汗掻き体が温まってから相方を誘い出掛けた。

この日の天気は高曇り、朝の内はぼんやりと山全体が望めたので雨は降らないものと勝手に決め込んだ。近所のコンビニで食料を仕入れ車を飛ばす。地元の勝手知ったる道ゆえ最短コースでブルーラインへ合流、傍らの看板には10時〜12時まで通行止めの告知があった。多分何かのイベントがあるのだろう。

鳥海も朝日も自宅から登山口までの所要時間はそれほど変わらない。故にどちらを選ぶかと言えば朝日の方が圧倒的に多かった。これは日帰りするかしないかが判断の分かれ目なのだが、折角行くのなら泊まり山行の方が断然良いのでこういう結果になるわけで、逆に言えば日帰り山行から遠ざかっていたのだ。もちろんこれは過去の話であって、最近は全然山に行けてないのだが…

登山口にはすでに数台の車があった。一人準備をしていたハスラーの隣に滑り込む。女性の単独行は珍しくもなくなったのか手慣れた準備姿がカッコイイ。それよりも虫の数が半端でなく閉口した。これもトンボが飛び交う頃には居なくなるのだがもう少しの辛抱だ。
暫く振りの山行時には忘れ物が付きもの、きっと何か忘れたと思うが思いつかないまま出発、急な階段に取り付きゆっくりと歩を進めるが、鈍った体が悲鳴を上げ汗が止めどなく流れる。日頃の不摂生を反省するが晩酌を飲む頃には決まって忘れるのだ。

見晴台で一休み、ガスが下から吹き上がって来るので眺望はない。途中であったタケノコ取りと思われる夫婦連れが付きまとう虫に閉口していたが、あの人達は素人だねと意見が合う。
この後も急登が続きおよそ30分ほどで「とよ」に着く。目の前には未だ広大な雪原が広がり、ああ山に帰ってきたと顔がほころぶ。雪渓の末端で「はっこい雪代」を拾い喉を潤すと生き返った。
山で飲む水のなんと美味しいことよ。

ここから先のルートは大きく左に回り込む。この日は視界があり助かったが注意が必要だろう。一旦夏道を辿るとすぐに河原宿へ到着、ここからは完全に雪渓歩きこれが何とも気持ちよい。数人とスライドして雲の切れ間に視線を向けると新山と外輪がドンと飛び込む。
双六岳から見た槍ヶ岳のようである。とは言っても実際見たことはないのだが(笑)


  
雪渓を詰めると新山が…

途中の花はあまり無く一箇所だけシラネアオイが咲いていた。コイワカガミもチラホラと目を楽しませてくれたが、蓄積した体重がたまらなく重く、ゼイゼイとうめくトドが一匹…
さわやかなさえずりのウグイスと美声を競うが、相方の冷たい視線で我に返ると何故か虚しい。


  
シラネアオイ  と  コイワカガミ

雪渓を抜け木道を一登りすると視界が開け目の前に鍋森のどっしりとした姿が飛び込んできた。ここで長坂道と合流する。右に行けば笙ヶ岳、左に行けば御浜、我々はここで休憩昼食とする。10人くらいの団体さんが休んでいた側で荷を解きお湯を沸かす。が、着火用のライターが無い。
山に来るのに火を忘れるとは何たることだ。冷たい視線を避け厚顔にも団体さんに声がけし借用する。
お湯が沸くまで拾った雪で冷やした麦茶で乾杯、この瞬間がたまらなく愛おしい。



鍋森と花の字雪渓

花の字雪渓とハクサンイチゲの群落のコラボした風景は、鳥海山1番地のポスターで有名だが何度訪れても感動的だ。これから時間の経過と共にニッコウキスゲやコバイケイソウが咲き競うのだが、若き頃は単独で長阪道を登り鳥の海を経て万助道を下る周回コースを日帰り出来たが、今は夢のまた夢、目を閉じるとその頃の風景がよみがえってくる。
同じ鳥海でも西鳥海には独特の植生があり、景色があり、単独峰とは思えぬ魅力がある。山は通えば通うほど違った魅力を発見できるものだが、個人的にはシーズン中でも人の少ない千畳ヶ原や笙ヶ岳付近に魅力を感じるが、賑やかな山頂方面を好む人もいるのだろう。
しかし私はこの場所に帰って来れたことが嬉しい。

下界と同じものを食べても、同じ飲み物を飲んでも、同じ花を愛でても、なんでこんなに違うのかな。山に来る度に頭に浮かぶ素朴な疑問であるが、未だ答えは見つからない。
張り出した雪庇の跡に恐る恐る飛び乗り違った角度から笙ヶ岳を眺める。東面には未だ豊富な残雪がありスキーも可能だろう。眼下の檜ノ沢(ひのそ)を眺めていたらふと気付いた。
鍋森の裾に連なる土塁のようなものは、氷河のモレーンなのではないだろうか。遙か昔に檜ノ沢に氷河が存在した証なのでは?
直感に似た思いつきに根拠はないが、太古の鳥海の姿に思いを馳せるのも山行の楽しみ、人間の思考に限界はないのだ。


  
笙ヶ岳  と  檜ノ沢

ゆっくりと昼食を楽しみ景色や花を愛でお腹と心が満たされても山への想いは尽きず折角ここまで来たならば鳥海湖を見ないで帰る手はないと意見の一致、少しだけ登り返して見たが湖面は未だ真っ白だった(全部見えるほど登らなかった)ので引き返す。傍らの雪の消え際にはヒナザクラがひっそりと咲いていた。また来るねと無言の挨拶をして来た道を引き返す。この頃には日ざしも強く雪渓歩きで日焼けが心配だがめんどくさがり屋の私は何の手当もしなかった。


  
ヒナザクラ  と  ハクサンイチゲ


  
ミヤマキンバイ  と  ハクサンチドリ


  
チングルマ  と  タムシバ


途中で視線モードが変わったのは習性か、登りで目を付けていた辺りの竹藪に入る。傷だらけになって採ったタケノコは晩のおかずとなったのは言うまでもないが、晩酌が回る頃には日焼けて赤鬼のようになった顔を相方にいじられた。

やれやれ、冷たい雪渓で冷やしたいなぁ。



残雪の彼方から次回は何が…