【鳥海山麓漫遊】   wrote by 2009.04.26


途中見かけた古い石碑

春山が恋しい季節だが諸事情でなかなか行けない。
それでも寸暇をぬって山麓を当てもなくぶらつくと、地元民ながら新たな発見があって楽しい。

山岳信仰は何と言っても出羽三山が有名であり、夏になると月山山頂は白装束の信者達で賑わう。
月山には八方七口の参拝口があると言うも全部廻る機会はなかなかない。せめて六十里越街道を一回ぐらいは歩き通してみたいと密かに願っているが、果たしていつになることやら…

私の住む地域でも昔は「御山参り」と称して五穀豊穣を祈願しに村々から毎年代表者が月山や鳥海に詣でたらしいが、今はもうすでに廃れてしまった所も多い。
無信心な私にはとんと興味も無かったのだが、山遊びに行けないときにページをめくった先輩達の著書には、歴史的な記述も多くあり自然と興味を持ったのだが、根気に乏しい性格ゆえすぐに飽きて放り出す。

鳥海山頂にある大物忌神社(おおものいみじんじゃ)は、出羽国の一宮(いちのみや)である。遙か昔から気高く聳える鳥海の姿に人々は畏敬の念を抱き、自然と信仰の対象となっていったことに疑問の余地はない。ある本によれば山全体を薬師如来とし、流れ下る月光川、日光川の名の由来は、脇侍である月光及び日光菩薩だという。現代人には考えつかない発想だと思う。

当時の参拝登山口は、矢島、小滝、吹浦、蕨岡の4ヶ所と言われ、各登山口には宗徒が集い、反目を繰り返し溝を深めていったという。
有名なのが吹浦と蕨岡の一宮争い、庄内藩や江戸幕府の裁定を仰ぎ決着が付いたと言うが、今は昔…
現在では両宮とも一宮と称している。(口宮、里宮とも呼ばれる)

ちなみに一宮があれば二宮も存在する。
二宮は城輪(きのわ)神社(大物忌神社の摂社)で、近くに出羽国府跡の遺跡があり復元され公開されている。(酒田市城輪地内)

   
城輪神社  と  出羽国府跡

ついでと言っては失礼だが、三宮もあり小物忌神社と称する。場所は旧平田町の山楯地内で、参道の延長線上に三宮と言う集落がある。(なかせの餅がおいしい)
最近背後の山上に日帰り温泉施設が出来た。また山腹には小さな沼の畔に玉池神社が祀られている。

   
三宮、懸社小物忌神社と表示されていた


   
表札?  と  中腹にある玉池神社

神聖な神域の真上に風呂を作るなどと言う行為は、往事には叶う筈もない蛮行のように思われるが、神様の逆鱗に触れぬことを切に願う。
ちなみに私がこの施設を自宅から近い割にあまり利用しないのは、上記の理由とは一切関係ない。


鳥海山麓には歴史ある神社仏閣も多く、興味ある人は訪れてみるのも楽しいだろう。
気まぐれな私が、最近暇を見つけてぶらついた場所を吹浦から順に列挙する。




吹浦の大物忌神社は神官が常駐しているようで、お参りやお払いで賑わっている。
私的には賑やかなところがあまり得意でない…

   
国幣中社大物忌神社との表示
右の字体は達筆すぎて読めないf(^^;)




箕輪地区にある丸池様
ここは池自体が神域で、大物忌神社で管理しているようだった。

   

透き通った蒼い水中には倒木が見える。じっと見ているとその蒼さに心が洗われる。



すぐ側に鮭のふ化場があり、清流牛渡川が静かに流れている。

   

この川の源流は全て伏流水で、あちこちの岩の隙間からコンコンと湧き出ている。
珍しい淡水魚の宝庫でもあり、何年か前にNHKの正月番組で全国放映され一時期話題になった。



そのまま山沿いの細い道を東進すると杉の古木と山門が目に飛び込んでくる。

   

永泉寺(ようせんじ)は鎌倉末期の創建と言われる古刹で実に趣のある寺だ。

   
山門を護る金剛力士像?  と  山門天井に描かれた仏様の絵

山門もさることながら石仏の表情が実に良い。

   
あちこちに配された石仏



石造九重層塔

石造九重層塔は、東善寺(後の亀ヶ崎)城主、志村伊豆守光安公の供養塔で、慶長16年(1611年)家臣によって建立されたもので、県の有形文化財となっているそうだ。 ← 少しはちゃんとした事も書いとかないとf(^^;)



中山の洗沢川では鳥海を背景にした桜並木が見事だ。





大鳥居に導かれ訪れた剱竜神社は、鳥居に比して社はそれほど大きくはない。

   

門前町は宿坊として栄えたようで今も往事を忍ばせる風情がある。
ご神体は鳥海山から飛んできた宝剣らしい。



山腹沿いに適当にそのまま進むと、庄内平野の展望が開け日本海が見えてくる。
珍種ハッチョウトンボの保護域がある。夏になると見れるのかも…

このトンボさんはとてもデリケートな方らしく、湿原の冬でも凍らない浅い水たまりがないと生きていけないらしい。



移動する場所毎に、鳥海の山容が変化し面白い。

   



杉沢集落は杉沢比山と呼ばれる神楽が国の重要無形文化財に指定されており、知人が舞方を務めている。集落内の熊野神社が実に立派だ。

   
杉沢熊野神社   と   立派な彫り物

周囲を山に囲まれた盆地のような地形だが、不思議と息苦しさは感じられず、黒沢映画「夢」の舞台のような雰囲気だ。



蕨岡の大物忌神社は吹浦のそれと違い人影もなく静かだった。

   

吹浦もそうだが鳥居が赤く塗られていない
これは一宮の格式が他の神社と違うと言うことなのだろうか?

   
本殿の様子

本殿参拝後に山上に伸びる古い石段を興味本位で登る。登りながら数えると337段あった(暇なやつとお笑いください)
一気に登ったら結構息が切れた。これも不摂生の賜物、せっかく苦労して登ったのに七大胎蔵童子、八大金剛童子と刻まれた古い石碑と伽藍跡と思える平地があるだけ…


さざれ石

何故か国歌「君が代」に唱われた「さざれ石」が鎮座していた。



旧八幡町の升田方面に向かうと目につくのが「出世開運の滝」の標識、いつもは先が忙しくて素通りするのだが、運が開けるかと思い寄ってみるが世の中そんなに甘くない…

珍花をさがそうと飛び石で小沢を渡ろうとしたら、バランスを崩し流れにドボンとハマる。
どこが開運だぁ〜('〆') ムカー

靴下を車のデフロスターで乾かしながらのドライブとなる…



道沿いの小山にも何か祀られていた。

近寄ってみると斜面に露出した岩に古木が健気に根を必死に張っている。
小さな祠があり土地の人達の願いが聞こえて来るような気が…



升田集落の玉簾の滝は最近かなりPRされ知る人も多くなってきた。以前は方向音痴ゆえ滝まで辿り着くのに一苦労したが、今は直通の道路も出来て整備された公園のようになっている。


少し違和感をおぼえるのは“へそ曲がり”の証であろう。


側の神社の彫り物はすごく立派なものだった


四季折々に訪れるのも雰囲気が違って楽しいだろうし、歴史書を紐解き往事を偲ぶのも一興であろう。
その気になって探せば世間様に隠れた新たな発見も、まだまだいっぱい隠れているやも知れぬ。



んでも、オラはやっぱり上界が恋しい病人だ…

やれやれ、山は遠い…