【 やまいびと緊急集結 弁慶山 】
                                   (突発性緊急山行、目くそ鼻くそを笑う)


P618から望む弁慶山

【日 程】2009年3月8日(日)
【山 域】弁慶山地
【山 名】弁慶山(887m)
【天 候】晴
【メンバ】5人(SONE、タッシー、M浦、A.TOM)
【コース】西川 → 山頂 → 西川
(概 略)

※このコースは複雑な地形で、読図力、雪山技術の経験豊富なリーダーの同行が不可欠のエキスパート向きコースです。
初心者のみの安易な行動は厳に慎んでください。



西川(8:45)---(11:42)618ピーク---(13:11)山頂(13:55)---(17:32)西川


土曜日は出勤であった。翌日の天気予報は良い様子、昼休みにウトウトしていると天啓が閃いた。
最近最も重篤なもう1人の「やまいびと」、M浦さんは何を考えているか…
さぐりメールを入れて"こませ"を蒔いてみる。

案の定、すぐにあたりが来た。
それからは、とんとん拍子、翌朝八時に現地集合と話がまとまる。
やれやれ…
いやはや何とも困った病人達だ。


弁慶山は、出羽丘陵、弁慶山地最高峰で、旧平田町、旧八幡町、真室川町の境界線上にあり、今年の正月に登った田代山は弁慶山地の南端に位置する。
弁慶山を知る人は非常に少なく登山記録もほとんど無い。地元の山岳会が藪の中を縦走したとか、遙か昔に伝説の登山者が冬期縦走を試みたらしい等という噂話が、ちらほらと聞こえてくる程度、しかしながら私のような病人には垂涎の的らしく、いつかは行ってみたいと心の奥で暖めていた人達が今回緊急集結した次第である。

ある日、F・佐藤さんのブログを覗くと「忘れがたい山」の記事があった。著者の池昭こと池田昭二先生は、庄内の山に関心のある人なら知らない人を探すのが難しいほどの有名人(いやいや全国区の有名人です)、数日前に書店で購入しザッと目を通していたら伝説の記録が載っていた。
その舞台は弁慶山である。

心の中にメラメラと何かが燃えだしたのを感じるも、私のようなへっぽこ中年が簡単に登れる山でないことは十分わかっていたので、偵察のつもりで出かけてみようと思いたった。
それが土曜日の午前中のこと (一応仕事はしていましたよ(汗))

仙台の「やまいびと」SONEさんも同じ事を考えていたらしく、M浦さんに連絡を取ったのも同じ頃、偶然と言うにはあまりにも出来過ぎている。こういうタイミングを逃すと必ず後で後悔するもの。私の少ない人生経験でも嫌と言うほど経験してきた事である。

A・TOM隊長に軽い気持ちでメールしたら、毛針にライズするイワナのように、すぐにヒット。
彼も重篤な「やまいびと」である。

私の考えていたのは西川を遡行し尾根に這い上がるコース、SONEさんのは林道から尾根伝いに目指すコース、どちらにするか鳩首会議の結果SONEさんの案に決定、予定より45分遅れで出発する。

最上山岳会ではスキーで登行したとの記録もあるが、積雪具合にもよるだろうが、このコースでは非常に困難と思われる。ワカンとスノーシューで出発するも雪は軟らかく結構ぬかる。
主尾根に到達すると見晴らしが効き、天を突く八森の鋭角な頂きがすごく格好いい。


   
天を突く八森   と   目指す弁慶山


アップダウンがかなりあり雪も緩くトップをこまめに交代しながら進む。ルートファインディングがかなり難しく、地図読みに熟練したSONEさんの的確な指示に助けられる。私の未熟な読図力だけでの登行は困難だったろう。熱に浮かされたようなM浦さんの歓声が林間にこだまする。

所々のピークに到着するごとに、目指す山頂と弁慶の耳(第2チンネ)がぐんぐん近づいてくる。目の前のご馳走に釣られ少々の疲れなどどこ吹く風、最低鞍部からグイグイ高度を稼ぐと618ピークにやっと到着、シャリバテと悲鳴を上げていた人達は早速補給する。


   
尾根の急登行   と   弁慶の耳(第2チンネ)


それよりも、標高700mそこそこの低山などとは到底信じられない絶景がそこには待っていた。
西川源頭部の弁慶山から八森まで続く大馬蹄形障壁の景観はもの凄い迫力だ。これだけでもここまで来た価値は十分ある。
そして間近に迫った弁慶山山頂付近の景色に食欲を忘れて見入る。確かに取り付けるルートは一本しかない。
直下の雪面のクラックが少し気にかかる。

ここから676ピークまではまたもやアップダウン、途中の痩せ尾根にビビリながらも何とか通過、下なんか見たら一歩も動けなくなる。相変わらずの高所恐怖症は健在だ。
そして最後の難関までは比較的広い尾根が続く。手が届くように近づいた弁慶の耳がスゴイ迫力で望まれ、皆さん撮影に忙しく先に進まない。
池田先生が滑落したと思われる岩壁を見上げると震えが来た(ブルブル


   
トップで快調なA.TOM隊長   と   弁慶の耳を直下で見上げる


   
小国川源頭の絶壁   と   チンネと大キレット


そしてすぐに最後の難関、山頂直下のナイフリッジが、妖刀村正のごとき不気味な輝きを放って目の前に現れた。

しかし今回のメンバーは意地が悪い、何故、高所恐怖症のぽっこりお腹の中年、かつ、超根性無しの私が、この危険極まりないところでトップを務めなければいけないのか?
ビビって先に進めない私をセカンドの誰かさんは黄色い声で盛んにけしかけるのだった。

だが、だれが何と言っても、怖いものは怖いのだ。股間が完全に縮み上がったまま、冷や汗、脂汗、ナンマイダーと念仏を唱えながら必死になって這い上がると、目の前には汚れなき新雪にうっすらと覆われた、この世のものとは到底思えない、極楽浄土のような幻想的ブナ林が現れた。

さっきまでの恐怖心はすぐに四散霧消し、穏やかに右カーブする山頂への道をゆっくり進む。この山に特別な強い思い入れのあるメンバーは感激を隠さない。山頂で日本海が見えるか賭をしていた不埒な面々もいたようだが…
山頂からの大絶景が現れると皆大歓声を上げて喜ぶ。


   
姿を変えた八森   と   郡境の尾根の向こうに鳥海


思いの外展望の効く山頂は360度オールクリア、日本海に麓を洗われる出羽富士鳥海は山頂部が雲に隠れてはいるものの、圧倒的存在感を示す。眼下の出羽丘陵の名も知らぬ山々が蒼く輝き、群境でもある八森へと続く大馬蹄形障壁の圧倒的かつ大迫力の景観、夢にまで見た弁慶の耳(第2チンネ)を真上から眺める光景、そして大キレットの迫力…

視線を東方に転じれば丁(ひのと)から続く県北の奇岩の峰々の連なり、そして長大な大神室連峰の白い峰が屏風のように望まれる。
その奥に栗駒の白い頂きと焼石連峰が…
自宅近くの胎蔵山が思いの外近く見えた。考えてみたら同じ旧平田町内の山なのだ。はてさてと酒田の方を見るが霞んでよくわからない。

展望を一通り楽しんだらささやかに麦茶で乾杯、「カァ〜〜!!
そして賑やかにランチタイムを楽しむ。
話題には事欠かないが、「目くそ鼻くそを笑う」には皆さん抱腹絶倒する。(参加者にはわかる)
あっという間に山上での楽しい一時は過ぎ下山の準備、が、再度あの恐怖を体感する事を考えたらまた冷や汗が出てきた。


   
山頂からの丁岳   と   大馬蹄形障壁と眼下の弁慶の耳


下りのナイフリッジ通過も何故かまたまた私がトップになったのは、偶然とは言い難いものを感じた(笑)
犬もおだてりゃ何とかじゃないけど、少しは恐怖心も薄らぎ無事通過、カメラを向ける余裕さえあったのは皆の善意の賜物、感謝である。
でも、次は遠慮しますです(笑)

途中「ゴォ〜!」と言う不気味な音が風に乗って轟く。何事かと思い視線を上げると、谷沿いの急峻な斜面が底雪崩の真っ最中、勢いよく谷底めがけて雪塊が滑り落ちている。
よく考えてみたらそこは私が考えていたルート、SONEさんに改めて感謝した。(冷汗たらたら…)

その後の長い下りもアップダウンに往生し、這々の体で車にたどり着いた頃には日も暮れかかっていた。

夢にまで見た弁慶山に初挑戦で登頂できたのは、同行いただいた皆さんのお陰です。ありがとうございました。
皆さんは、新たな目標もはっきり見えたようで、病気の進行に精進してください。

またどこかでご一緒する機会がありましたら宜しくご指導をばお願いいたしまするm(._.)m



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