【中登隊、龍門に集う】
                         まったりと夏休み


龍門小屋の朝

【日 程】2008年8月15〜17日(金土日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】寒江山(1695m)
【天 候】雨
【メンバ】3人
【コース】龍門小屋stay
(概 略)

8/15 日暮沢(12:26)---(15:18)清太岩山---(15:58)ユウフン山---(17:00)龍門小屋


8/14〜15にかけて庄内地方は記録的な豪雨に見舞われた。ゲリラ豪雨などと表現するメディアもある。24時間雨量が400ミリを越え国道47号、山形道、羽越線とすべて止まった模様である。
私の住む地域も例外でなく一晩中雷が鳴り響き眠れぬ夜を過ごしていた。午前2時くらいに防災無線が消防団の出動を告げると同時に私も職場に直行、以後午前10時まで野暮用が続きそのまま日暮沢に直行、準備もなにもあったものではない。

日暮の小屋前には何台も車がない。こんな天気では登る人もいないのだろうと一人でチンタラ登り始める。今回中登隊メンバーは、おのおの勝手に登り龍門集合の予定だ。
A.TOM隊長は電話で聞いたところ、私のおよそ一時間後に登り始めるそうなので、そのうち追いつくだろうと超の字が付くほどゆっくりペースで登るが、雨上がりの湿気と高気温にたっぷり汗を搾り取られる。遠くで雷鳴が聞こえたかと思う間もなく大粒の雨が落ちてきた。

清太岩山まで上がると風が強くコルまで下って合羽を着る。強い横殴りの風に乗った大粒の雨が合羽を叩く。しかしながら登りの辛さとは裏腹に何故か嬉しさがこみ上げてくる。朝日の稜線にいられるだけで心が躍るのだ。
誰一人と行き交うことなく龍門小屋に到着、久し振りにE藤さんの顔を見る。荷物を解きながらいただいた朝日ビールを呑んでいたら隊長も到着、何と三十分も違わなかった。

天気も思わしくないのですぐさま宴会に突入する。途中の定時連絡で狐穴小屋にいるはずのI藤さんを確認して貰う。同宿の人達と和気藹々と雑談を楽しむ。まあ世の中いろんな人がいるもんだ。
いつものことではあるが相当酩酊したのか、朝まで気絶したかのような完全爆睡で夢も見なかった。





8/16 龍門小屋(8:10)---寒江山---(10:10)善六池---(12:40)龍門小屋


翌朝は当然の二日酔い…
けれども朝食のラーメンを食べるといくらか元気が出た。
朝の内は飯豊、月山、鳥海ときれいに見えたが時間の経過と共に隠れる。鳥海が殊の外近く見えたのには驚いた。新潟方面は晴れており視界良好、光兎山、鷲ヶ巣山が格好いい。尾根が折り重なるような谷間に雲が低くたなびき、朝の柔らかな日差しが良い色に染めている。山の朝は、いつも違った景色を楽しませてくれ決して見飽きることはない。


龍門小屋の朝 寒江山の向こうに以東岳が…


小屋から出たくないと渋る隊長をなだめながらサブザックで寒江山を目指す。南寒江山付近は山肌が紫色に染まるマツムシソウの群落が素晴らしく、ハクサンシャジンはもう終わりかけていたが、天上の楽園にいるようなお花畑にはいつ来ても癒される。溜息をつきながら隊長と撮影に没頭する。


   
南寒江山付近の目に眩しいマツムシソウ群落

個人的には寒江山付近から見渡す連峰の景色が大好きだ。どこを見ても山また山、相模尾根を眺めて今年こそはと思うが、やっぱり…
ここまで誰とも会わず隊長と二人で独占出来た景色は大いに心に残るものだった。ふと何かの気配で北寒江山付近に目をやると単独行者が下ってくる。I藤さんだろうか?
無線で狐のA達さんを呼ぶも応答無し。

寒江山と北寒江山の鞍部付近でめでたくI藤さんと合流、善六池まで行こうと誘うも気乗りしない様子、無理矢理荷物をデポさせ北寒江に登り返す。彼は14日の午後に泡滝から入り大鳥小屋に泊まり15日に狐穴小屋まで、途中は全て豪雨濃霧で視界無しとのこと、唯一の救いは以東小屋の管理人が信じられないくらい可愛い女の子で、何とも離れがたく一時間も休憩していたらしい。


以東小屋の管理人は、この花以上に可憐な人らしい

北寒江から相模尾根に初めて足を踏み入れる。隊長は二三度来ているらしいが、きれいに刈り払われた道は快適至極、ずんずん進むと名も知らぬ池が右に左に現れた。構わず突き進み右に少し下ると、半分ほど残雪に覆われた善六池がガスの中から突然姿を現した。こっちの尾根は同じ朝日の尾根でも主稜線とは少し趣が違うように感じた。
先頭を行く隊長が突然「A達さ〜ん!」と叫ぶと「もっとこっちに来〜い」と声だけが帰ってきた。


ガスの中から現れた善六池

池の側の広場で6月に一緒に龍門から下ったS子ちゃんとA達さんが休憩していた。雪があって刈り払い出来なかった登山道の草刈り作業中とのこと。隊長がすぐさま朝日ビールをサブザックから取り出すと残雪のある場所まで駆け下る。後に続くと残雪の亀裂でクルクルと缶を回して急速冷凍している。隊長はこういうことは実にマメに行う。
すぐに冷えた朝日ビールで乾杯、う〜ん、実に喉越し爽やかだ


マメに朝日ビールを急速冷凍する隊長

稜線上は秋の気配も漂うのに、ここはまだチングルマやヒナザクラ、イワカガミなどの春の花が咲く。亀甲形に黒く縁取られた残雪の模様が面白くカメラを向ける。善六池の雰囲気は、鳥海山の御浜から鳥海湖を俯瞰した景色のミニチュア版のようだと言えば何となく理解してもらえるだろうか。幽玄な雰囲気が漂う趣の良い場所で、いっぺんに気に入ってしまった。
雨が降り出してきたので合羽を着込みゆっくりと来た道を戻る。再度お花畑に感激しながら龍門小屋へ、途中来る時に目を付けておいたノウゴウイチゴの実を皆で収穫、今晩のデザートだ。

往復の道中出会ったのは身内だけ、とても静かな道中に今晩の小屋は少ないだろうねと噂しながら歩いていたら、最後に十人くらいの団体さんとすれ違った。小屋に入りE藤さんに確認すると、もう既に20人くらい入っているらしくびっくりする。
昨夜は大朝日小屋でも8人、なんでこんなに多いのと皆不思議な顔…
小屋では昼食に素麺を茹でる。冷たい水で冷やしたのでとても美味しく瞬時に平らげた。

1階は新潟からの三人パーティーと、山形に里帰りして来たという、5歳の幼稚園児と小学5年生の男の子を連れた三人、新潟の人たちはE藤さんへおみやげにと銘酒「八海山」の一升瓶を担ぎ上げて来た。
この夜の宴会は実に豊富な食材で鱈腹ごちそうになる。我が中登隊のI藤さんは実にテキパキと調理をこなし皆の喝采を浴びる。
焼きビーフンとても美味しかったです。






艶やかなミヤマリンドウ

8/17 龍門小屋(9:00)---(9:40)ユウフン山---(10:09)清太岩山---(11:50)日暮沢小屋


天気予報とは裏腹に朝から雨が止まない。時折少しだけ視界は回復するもすぐに隠れる。多くのパーティーは下る様子、小屋を後にするのを見送る我らはリラックスモード、皆口にこそ出さないが思っていることは…。
夕べ子供達が食べていたカレーライスの匂いに刺激されたのか、今朝は暗黙の了解でカレーの朝食、「やっぱり山ではカレーだね」と、皆同じことを言っている。

山上での時間なんてホントにあっと言う間に過ぎていく。特に何をしたと言うこともなく過ぎ去った時間は、下界では「無駄な時間」とでも言うのだろうか。人間が生きていく上で時を遡ることは現実には出来ない。けれども記憶の中に残った言葉や場面は、時の経過と共に霞のように薄れては行くが、完全に消え去ることはない。ふとしたきっかけで、忘れかけていた光景や、言葉のやりとりを鮮明に思い出すことは、多くの人たちが経験していることであろう。

山上で悠然と過ごした記憶が、突然デジャビュ(既視感)となって現れることがある。
めまぐるしい時間だけが何の意味もなく過ぎ去って行く下界での生活、今後辿るであろう様々な苦悩が犇めく現実社会で、私の無意識の中に確かに存在する記憶は、自分だけに適用できるある種の指標となりうる確固たる地位を持つ概念である。
誰もがそうだとは言わないが、少なくとも私にはそう感じられる。

岳友が山上で何気なしに語る自身が体感した局面、それらがゆらゆらと揺れる蝋燭の明かりに照らされるとき、大いなる共感と共に、下界では感じることの出来ない心地よいリアリズムを伴って私の心に投影される。その場で意識することなんてほとんどないが、それらの記憶は間違いなく蓄積され心の糧となる。

「さあ、下ろうか」
隊長の一言で現実に帰る。
つかの間の休息を終え中登隊は現実社会へと帰る。それはまるで宇宙遊泳を終えた飛行士が大気圏へ再突入するかのような気分だ。
各ピークで歩を止め連峰を振り返るが、最後まで稜線は隠れたまま、きっとまた来いと言っているのだろうか。

あるいは…

まあいっか。