【中登隊、禿岳にて軟弱登行】


吹上高原キャンプ場から仰ぎ見る禿岳

【日 程】2008年7月12〜13日(土日)
【山 域】宮城県/山形県
【山 名】禿岳(かむろだけ)(1261m)
【天 候】晴れ
【メンバ】三人
【コース】花立峠から山頂往復
(概 略)


花立峠(8:47)---(10:16)山頂(10:54)---(11:57)花立峠


中登隊久々の山行は秋駒縦走を目論んでいたのだが、私の急な都合で土曜日の日程がどうしても取れず、他の隊員に迷惑をかけてしまった。
優しい(?)隊員達には私の都合に合わせていただき感謝申し上げる。

急遽変更となった「吹上高原キャンプ場に集合!」の指令が届いたのは前日の深夜、連日の激務で帰宅が深夜の隊員達、仕事は8時に始まって5時で終わり、帰宅後すぐに晩酌なんてのは叶うことのない幻想だ。

しかしこの日は本来なら休日である。無責任極まる筆者は午後3時で仕事を完全放棄し車に飛び乗り目的地を目指す。途中で燃料を補給し、5時にキャンプ場に着いたら赤ら顔の隊員二名は完全に出来上がっていた。
広大な芝生に巨大なドームテントとウイングタープが張られ、なんと炭火までおきている。
おお、こ、これは一昔前のオートキャンプスタイルではないか。タイムスリップしたかのような光景に懐かしくて涙があふれてきた。
中年の涙腺を緩めるには十分のシチュエーションである。

なにはともあれ久々の三人の再会を朝日ビールで祝う。私は遅れた分を取り返そうと一気に三本空ける。higurashi隊員持参の三陸の海の幸が豪華に並ぶテーブルには何故か醤油がないのだった。
酔っぱらいの定番は適当な言動・・・

しょっぱければいいじゃん
と言いながら焼肉のタレにワサビを入れて刺身を食おうとしている・・・(冷汗)

まあ、山上では美食を極めた中登隊にしてみたら明らかな失態ではある。が、慣れないオートキャンプでは勝手が違い段取りが上手くできないなどと、変な理屈を無理矢理取り繕う声が何処かから聞こえた。

宴も酣、突然隊長が愛車の中からガサモサと何やら取り出した。酔っぱらった眼の焦点がなかなか合わないが(老眼進行中のため)、どう見てもギターである。
隊長はハードケースからおもむろに年代物のアコースティックギターを取り出すやポロロンとチューニングを始めた。
1フレットにカポをはめるとアルペジオのイントロが始まる。

♪君のぉ〜〜、笑顔のぉ〜〜、向こうにあるぅ〜〜、悲しみはぁ〜〜・・・・・♪
と唄い始めた曲は、我々の世代には忘れることのできない「かぐや姫」の名曲である。
本日の大サプライズ、隊長の演出はなかなか心憎い。
と、その瞬間、お互いのメタボリックなお腹をけなしあっていた、お馬鹿な隊員二人の理性が、プツンと音をたてて切れた。



中年はフォークに夢中だ♪


高原の静寂と安らぎを求めて訪れた周辺キャンパーの顰蹙の視線などどこ吹く風、鬼首スキー場の急斜面に不気味に轟き、響き渡る中年のだみ声、いやいや我らにとっては、とても流麗なハーモニーが夜遅くまで響き渡るのであった。
中登隊の奇怪な面々は、嬬恋のライブ会場の巨大なステージ上で、こうせつや陽水、たくろうと肩を組み一緒に唄っている気分なのである。

真っ赤に燃えたぎる聴衆の熱狂、熱いハートがよみがえるぜ、命をかけた熱唱を繰り返し声も嗄れ始めた頃、隊長の真っ赤な携帯が突然鳴り響いた。

もしもしと答える隊長の紅潮した顔が見る間に青くなっていく。カメレオンのような忍び技は、隊長の性癖が両生類に近いことの証左でもあろう。
携帯の向こうに、大声でがなっている隊長の山の神の声が聞こえた。きっと何もかもほったらかしで遊び呆けている隊長を咎めているんだろう。
などと二人で噂していたのであるが、何と・・・

我々の熱い想いのこもった熱唱が飛び火したのだろうか、隊長の自宅近くの工場が火災とのこと、周辺住民に避難命令が出ているらしいく、婦人消防団の団長でもある奥様は、住民誘導に率先して出動し活躍しているらしい。
中登隊が騒ぐと何かが起こる。
後でわかったことだが筆者の自宅周辺でも火事騒ぎがあったとのこと。

う〜〜む・・・

しっかしながら「後の祭り」とはこの事也、もう完全に出来上がってしまった我々にはなす術もない。じたばたしても始まらないので、ここは腹をくくって大酒を呑み早急な鎮火を祈ることにした。
とりあえずはと皆でロッジの温泉に繰り出すのであった。

吹上温泉の泉質はいたって癖のないもの、無味無臭無色透明で、貸し切り状態の丸い二つの浴槽を好き勝手に使う。明け放れた窓からは高原のさわやかな風が吹き込み開放感にひたる。突然隊員の一人が「あわわ」と言いながら浴槽に飛び込んできた。聞けば窓の外にうら若き乙女が散歩に現れたらしい。たわわに実った中年のメタボリックな体躯を乙女の前にさらす勇気は持ち合わせていないとのことである。

中登隊は、体型と顔に似合わぬシャイな心根を併せ持つ不思議な集団である。

そして中途隊には揚げ足取りの名人が揃う。(その後酒の肴になる)

風呂から上がりさっぱりすると、冷たい朝日ビールで再び乾杯し、果てることのない怒濤の宴会へと再突入するのであった。
尚、この夜の就寝時間は当然ながら不明である。

ああ、神よ・・・



明けて13日の早朝、さわやかな朝日に目覚めるが誰も起きあがろうとしない。昨夜の勢いは、なんなんだったのか、暫くひたすら惰眠を貪る。
それでも何とかテントの外に這い出て、紺碧に晴れ渡る爽やかな高原の空気を吸い込むと気分爽快になる。
ぐるりと囲うようにそびえる山々に「おはよう!」と元気に挨拶し本日登る禿岳を望む。

酒の勢いを借りた昨夜は中峰コースから花立峠へ縦走すると息巻いていた隊長だったが、やっぱり花立峠からのピストンにしようと弱気の提案に変わった。
温泉に優雅に浸かっているイメージが隊長の頭の中に透けて見える。
この軟弱な提案を否定する隊員は当然誰もいない。誰もが確実に峯雲閣の混浴露天滝風呂に、鼻の下を伸ばして浸かっているイメージを早朝から思い描いているのである。
そうと決まれば後は迅速な行動となる。

中登隊はやっぱり相当に変わった集団である。
朝食は、どこから出てきたのか、各自持ち寄った塩ラーメン(偶然そろったのだ)を二つの鍋で茹で上げるいつもの山でのスタイル、どこに行っても山屋の習性が出るのだろうか、何故か決まってインスタントラーメンの朝食となる。
その後テキパキとキャンプサイトを片付ける。不思議なことに空き缶以外の残骸はいたって少ない。

近所のコンピニで行動食を仕入れ花立峠に向けて、ぞろぞろと金魚の糞みたいに連なり、年代物の車が真っ黒な煙を吐き爆音を立てて激走する。駐車スペースでおもむろに準備を整え目指す頂きを見上げ一言・・・

「ほえ! 高けぇ・・・」

あまりの好天に「今日は合羽もいらないね」と言ったら隊長にこっぴどく怒られた。
中登隊は基本的に山では慎重なのだ。が、・・・

ギラギラと照りつけるお日様を恨めしく見上げ、一列縦隊の隊列を乱さず颯爽と登り始めるが、すぐに大量の汗と喉の渇きを訴え敢えなく大休止、おいおい、まだ一合目にも満たないのだよ。
やはり歳にはかなわないなと嘆き悲しむこと暫し、傍らのショウキランの妖気に助けられながら急登を喘ぎながら登り詰める。

鬼首のすり鉢のような地形を眺めながら遠くの山並みの同定を繰り返す。先日の地震の影響なのだろうか栗駒の山肌に土石流の流れたような跡が視認できる。無線からは某山岳会の賑やかな声も聞こえてきた。そういえばこの日に鳥海百宅ツアーがあったのだった。


   
鬼首スキー場   と   9合目の祠


途中痩せ尾根が現れ切れ落ちた斜面に肝を冷やし、最後の急登を終えると9合目の表示と石造りの祠が現れた。少し下ってなだらかに登り返すと立派な石柱が建つ禿岳山頂である。
視界はイマイチだったが大量発生したトンボが大歓迎してくれた。

軽い食事をしながら居合わせた登山者達と談笑し後はすぐに駆け下りる。目的は誰も口には出さないが明確である。
隊長は地元民ながら3回訪れ全て断られたという憧れの峯雲閣の温泉であるが、筆者は若かりし日に訪れた記憶が微かに残っていた。その時は真冬、露天風呂は確かにあったが、側の滝が温泉だったとはつゆ知らず、あれから何年経ったのかと指を折ると両手両足では足りなくなったのでやめた。
懐かしい玄関を開けると宿の人に、入浴は13時までとピシャリと言われた。

残り30分か・・・
しかしながら中登隊は、そんなことでは絶対ひるまないのである。
大急ぎで脱衣所に駆け込みカラスの行水の如き素早さで体を洗うと我先にと外に飛び出す。
エジプトのミイラの様なタオルぐるぐる巻きのご婦人がいたが、そんなのはまるっきり気にすることなく、大事な一物を堂々と晒して滝湯を必死に目指す隊長の姿は実に嬉々としている。

この人は完璧な露天風呂フリーク、それも野趣が増すほどに気分も高揚するようで、足下のゴツゴツして痛い石などものともしないパワーとスピードで滝壺に飛び込む。
後に続く隊員は目を点にして見守るが、大人の背がやっと立つ滝壺で、修験者のように頭から湯を浴び続ける隊長の姿は、罪深き煩悩から解放された中年の坊さんのようで、慈愛に満ちている。かつ、極楽浄土に到達したお釈迦様のような柔和な表情は実に幸せそうに見える。

好き者の中年を絵に描いたような我々一般隊員も、その姿に引きずり込まれるように我先にと滝壺を目指す。
頭上の梢の隙間から仰ぎ見る天空は、緑濃くなった葉が夏色の陽光を遮り、柔らかなもえぎ色に染まっている。こんな天国のような場所で一日まったりしていられたら、どんなに癒されるだろう。

ここにはアクティブに朝日の峰々を駆けめぐる、栄光の中登隊のイメージはそのかけらもない。ほげ〜っと鼻の下を伸ばして気持ちよさげに佇む、ただのおっさん集団である。

やれやれ・・・

四度目にして憧れの湯滝に浸かる念願叶った隊長は、近所のそば屋で大盛り蕎麦を気前よくごちそうしてくれた。さすがにこの辺は太っ腹?・・・
大いにおだてたことは言うまでもない。


次回はお盆頃に何処かでと、名残を惜しんでの散会となる



隊員の皆様、お世話になりました<(_ _)>