【朝日稜線でお花見】


朝日に輝くヒナウスユキソウ

【日 程】2008年6月14〜15日(土日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】寒江山(1695m)
【天 候】小雨強風のち快晴
【メンバ】単独
【コース】6/14 日暮沢 → 龍門小屋(泊)
(概 略) 6/15 龍門小屋 → 寒江山往復 → 日暮沢



6/14 日暮沢小屋(8:53)---(10:16)ゴロビツ水場---(11:16)清太岩山---(11:45)ユウフン山---(12:31)龍門小屋


早朝から村の共同草刈作業で一稼ぎ、と言っても報酬など出るわけもないのだが、その分出発時間が遅くなった。月山新道を登るに従い雨足が強くなり気持ちが難破船のようにゆっくり沈んでいく。けれども月山第一トンネルを抜けると雲間から青空も覗く明るさよ。幼子のように歓声を上げる。

日暮の小屋に向かう途中の車中が地震発生の時刻だろうか、全然気づかぬまま登り始める。
今期初のお泊まり山行、年々山が遠くなるが病の身を癒す術はこれ以外ない。ゆっくりゆっくり歩を進めるも、一歩ごとに荷が増えるかのようにだんだん足が重くなる。

もう既に所々雪が消え登山道が現れたゴロビツの雪庇辺りで7人くらいパス、小雨が降り風も強いので皆合羽を着込んでいる。当方は熱めの天然温泉頭ゆえ半袖で頑張るが、清太岩山手前でさすがに稜線の冷たい風に耐えきれず合羽の上だけ着込む。楽しみにしていた展望は望むべくもない。途中竹藪の誘惑に負け晩のおかずを一掴みし龍門分岐に疲労困憊、心身虚脱状態で到着、めまいを覚えたのは中年の魅力が増した証だろう。

懐かしい龍門小屋の扉を開けたら結構の数の休憩者、管理人室の前でE藤さんとノビタ君がラーメンを啜っていた。そう言えば昼飯をまだ食べていなかったことを思い出す。急いでザックからパンを取り出し食べていると朝日ビールの歓迎を受ける。
ウ〜ム・・・ いくら寒くてもやっぱり美味しい。

「今日はどうするの?」との意味深(笑)な質問を曖昧にはぐらかし、はてさてどうしたものかと暫し黙考、外は台風並の強風に小雨交じりだ。この日は天候の割に登山者が多く、まだお昼過ぎにも関わらず皆早々と停滞を決め込んだふうで、二階から賑やかな声も聞こえて来る。
「狐は空いてるよ」と言うありがたいアドバイスを無視し、軟弱者の中年は厚顔にも暖かいコンロの輪に加わるのであった。

ノビタ君とは何年振りだろうか?、やっぱり山に来ないとダメだねと、訳の分からない会話を楽しみながら、チビリチビリと呑(や)り始める。彼の朝日軍道にかけるひたむきな情熱には頭が下がる。様々な人達が入れ替わりに話の輪に加わり賑やかだ。それにしても天気の割に皆とても良い笑顔をしているなぁ・・・

夕刻、若い二人連れの男性客が現れる。聞けば朝日鉱泉からナカツル越えでここまでとのこと、早朝4時過ぎに出発したそうだ。若いと言うことは素晴らしい。早々宴会に引きずり込む。
まだ登山を始めて間もないそうで、水を向けると、誰もが多少は経験したであろう初心者ならではの抱腹絶倒話で盛り上がる。

彼らの初めてのお泊まり山行は以東小屋だったそうで、20sは優に超える巨大なザックから、おもむろに家庭用のカセットコンロを取り出した瞬間、他の宿泊客全員が目を丸くし静まりかえった話には、大笑いしながらも皆さん昔年の自身をを重ねていたに相違いなく、歴戦の強者達のまなざしは優しさに溢れていた。


  
タケノコを豪快にまるごと焼く    と      本日のディナー


6時の定時交信で地震があったことをちらっと聞くが、そんなに被害が出ているとは思わなかった。
この夜のメニューは、チキンステーキにジャーマンポテト、タケノコの丸焼きに何故か沢庵の缶詰、デザートにE藤さんがわざわざ担ぎ上げたサクランボが付いた。
そしてとても美味しい龍門ブレンドの怪しげな液体を鱈腹御馳走になり8時過ぎに就寝、一晩中風は止まなかった。



宿泊者全員に配られたサクランボ


6/15 龍門小屋(7:00)---寒江山---(10:00)龍門小屋---(13:12)日暮沢小屋


4時半過ぎ二度寝から目覚めると外は嘘のような無風快晴、外に出るとモルゲンロートに染まる以東岳が美しい。早いお客さんは4時半には出発した模様。
天気が良いと皆出発が早く小屋の清掃等も早々に終え、7時に三人で寒江山までゆっくりとお花見山歩に向かう。無線で狐庵の庵主ともそこで落ち合う約束をする。

早朝は寒くてフリースを着込んでいたが、陽が高くなるにつれ半袖でちょうど良い感じ、空身でのさわやかな稜線散策は最高の贅沢だ。これがあるから山は止められない。
今回私の本当の目的はお花見、天気が良かったら狐穴泊まりで以東岳往復を目論んでいたのだが、朝日の稜線を空身でゆっくり楽しむ日本一贅沢な山歩は、いったんハマると病み付きになる。


  
龍門小屋の朝


三者三様の感性で可憐に咲く花々や、刻々と姿や色合いが変化する景色を愛でながら、ゆっくり歩を進めると、知らぬ間に何故かお互いの声が届かぬ程の間が開いた。みんなの心の中にある思いは、たぶん似たような物なのだろう。
楽園のようなこの場に身を置き、心の窓をすべて開け放つと朝日はすべてを受け入れ、すべてを浄化してくれる。言葉はいらない。
何かにたとえれば、それは音楽だろうか。

天に届くような南寒江の頂きが近づくに従い、雲の彼方の飯豊が見るたびに山容を変え、手が届きそうな近さを感じる。視線を転ずると、どっしりとした西朝日から袖朝日の稜線の彼方に、ポツンと大朝日の鋭鋒が見える。


  
雲上に浮かぶ飯豊の山並み    と   景色に見とれる龍門庵主


朝の陽光が山肌の陰影を深くし山容が刻々と変化する様は、地球という巨大スクリーンに映し出されるスペクタル映画のようだ。
我々日本人の祖先が、太古から脈々と創り上げてきた芸術すべての根源が、このような雄大な景色であることに改めて気付かされた瞬間である。


  
西朝日  と  相模様


ウスユキソウは、この山に通い詰めるきっかけとなった花だ。咲き始めのほんの短い間だけこの世のものとは思えぬ清楚で無垢な雰囲気を醸す。それはそれは天からの贈り物のような光彩を放ち私の心を魅了し続けている。
何処かできっと星の王子様が、つぶらな瞳で放心した私をじっと見つめていることだろう。

もし私が王子様の姿に気づくことがあったら、彼ははにかみながらきっとこう言うだろう。

「やあ!・・・」
「ぼくの星からの贈り物、気に入ってくれた?」



ヒナウスユキソウ

待ち合わせの寒江山で相模尾根を颯爽と歩く三人連れの姿を確認し、腰を下ろして燦々と降り注ぐさわやかな朝日を浴びる。相模山が大きく迫り来る迫力はこの場所ならではのもの、今年の秋頃には是非歩いてみたいものだと改めて思う。
じきに狐庵の庵主様ご一行が到着、紅一点は以東小屋の管理人だそうな。
その後龍門小屋へ名残惜しいけれどゆっくりと戻る。


久々の朝日はとても良い顔と厳しい顔の両方で迎えてくれた。出来ることなら、ずっとこの場に留まりたいと思うのは皆同じ、でもみんなそれぞれ、それなりのしがらみを抱えながら、あたふたと下界で生きている。そして疲れ果てるとこの場所に、鮭のように確実に戻ってくるのだ。



帰路、寒江山を振り返る


下山後大井沢温泉に飛び込み、さっぱりしてから備え付けの新聞を手に取る。一面の写真をみるなり飛び上がるほどびっくりする。
いやはや情報社会から隔絶した場所にたった一晩いただけなのに・・・
被災された皆様には言葉もありません。一刻も早い復興を祈ります。
と同時に中登隊隊員と、我が家の様子が気になり急いで帰宅した。

やれやれ、現実は厳しい・・・


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                  王子様の贈り物