【ゆっくりと静寂の天狗小屋へ】


緑濃い樹間からの障子ヶ岳

【日 程】2007年7月28〜29日(土日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】天狗角力取山(1376m)
【天 候】曇時々雨
【メンバ】単独
【コース】7/28 バカ平→粟畑→天狗小屋
(概 略) 7/29 天狗小屋→粟畑→バカ平


7/28 バカ平(9:05)---(10:36)焼峰分岐---(12:00)雨量ロボット---(12:16)粟畑---(12:28)天狗小屋

7/29 天狗小屋(12:18)---(12:42)天狗角力取山経由粟畑---(14:51)バカ平



週末の連休を久々に朝日で過ごすべく、また久々に天狗小屋で過ごそうという考えが突発的に思い浮かんだ。
幸か不幸か元来の偏屈者ゆえ、岳友のお誘いも最近少なく単独行ばかり、まあそれも身から出た錆びかと思うが、単独もまたそれなりに楽しいものである。

今回も単独行の気楽さから、自宅で朝食を取ってからゆっくり出発する。
ここのところ週末毎に天気予報は芳しくなく今週末も傘マーク、それでも自分は晴れ男と頑なに思いこんでいるゆえ、天気予報などとんと気にならない。

自宅周辺では雨がぱらつき始め雲行きも怪しかったが、112号のトンネルを抜けると夏空、登りだしは暑くて早々に大量の汗が噴き出す。ゆっくり歩を進めると鶴岡からと言う単独の方が休んでおられた。挨拶し先行する。
陽差しはあるものの樹間には時折涼風がそよぎ気持ちよい。それでも焼峰分岐を過ぎた水場では冷水に喉を鳴らす。道刈りをしたばかりのようで登山道は快適そのもの、暑い最中の関係者のご努力には頭が下がる。

夏色に染まった障子の岸壁が緑の樹間越しに見えた。生命力溢れるブナの葉が夏の強烈な陽差しを遮り助かるも、いつもの場所に腰を下ろしていると、にわかにうす暗い雲が現れヒヤリとした風が吹いてきた。何とか小屋まで持ってくれと念じ早々に腰を上げる。
さっきまで見えていた障子も完全に雲の中に隠れ、雨音が不気味に忍び寄る感じがした。


   
巨大なトキソウ     と   わずかに残ったヒメサユリ

雨量ロボットで昼食休憩にしようと思っていたのだが、雲行きの怪しさに恐れをなしそのまま進む。
粟畑への石畳沿いでは巨大なトキソウの群落が見事、何とか咲き残ったヒメサユリにも会えた。この辺から大粒の雨が落ち始め、雨具を出すのも嫌なので全力疾走で天狗小屋に駆け込む。それにしてもあんな大きなトキソウを初めて見た。
這々の体で到着するともう完璧に本降りである。
小屋では山形市内からのお二人が二階でくつろいでいた。

さっと着替えてから一階に陣取りお湯を沸かし、おにぎりの昼食を食べながらくつろいでいると、管理人のY田さんが、草刈り機をぶら下げ合羽姿で飛び込んできた。障子方面の草刈り作業をやっと終えたとのこと、ご苦労様と言うことで冷えたビールで乾杯、その後お土産の菊勇を傾けながらゆっくり談笑する。

夕方5時過ぎにお客さんが突然現れビックリ、何と、天気が悪くて途中で引き返したろうと噂していた朝方パスした鶴岡の大先輩であった。
憧れの天狗小屋にやっと到着でき感激ひとしおの様子、ご苦労様と言うことで二階にご案内、本日は私を含めて4人の宿泊者、ゆっくりと山小屋の静かな夜が更けていく・・・


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翌朝、朝陽のまぶしさで目覚める。本日の天気は良好の予報だが、主稜線は時折強い雨が降っているとのこと、だがここにはまだ落ちてこない。
二階のお客さんは早々に障子を目指して出発、鶴岡の大先輩は来た道を戻るとのこと、彼が出発するとすぐに強い雨が落ちて来た。
Y田さんは二ツ石コースの草刈りに向かうつもりも雨で出鼻をくじかれた様子。

ラジオの予報では良い天気のようだが、上界は雲に覆われ時折強い雨が降る。私も天気が良ければ出谷川にでも降りようかと思っていたのだが、早々に諦め小屋でまったりすることにした。
上界でのこのゆったりとした時の流れが、下界では到底味わえない貴重なものなのだ。言葉では上手く説明できないが、本当に心の底からリラックスし癒される一時だ。

下界での生活は、いろんなしがらみや規制、公私にわたる仕事等、とかく心穏やかに休日を過ごすことが困難になりつつある。山には借金取りが来ないから帰るのだとうそぶいた偉大な先輩もおられたが、口の悪い人達は山に憑かれた私のような者を現実逃避者と呼ぶ。人それぞれにいろんな思いはあろうが、私は現実逃避者と呼ばれるのなんて気にならない、下界の煩わしさから離れ、山で鋭気を養い、下界に稼ぎに降りる感覚などと言えば大げさかなぁ。
下界の埃にまみれた心身で山に還ると、それらを汗がきれいに洗い落とし、風がさっぱりと吹き飛ばしてくれるのだ。

結局Y田さんには昼飯までご馳走になり、十分まったりさせていただいた。
昼を過ぎたので渋々重い腰を上げる。
明朝ここから出勤したらと言う甘い誘惑を何とか気力で振り払い、再訪を約束し小屋を後にする。
Y田さんには何から何までお世話になり感謝申し上げます。(あとで良く考えたら、早朝出発すれば十分会社に間に合うのだった(笑))


   
土俵に咲いたタカネマツムシソウ   と   途中で見かけたハクサンオミナエシ

天狗角力取山まで足を伸ばすと、土俵上には早くもマツムシソウが可憐な花を咲かせていた。方や水源近くの雪の消え際にはチングルマとヒナザクラが咲き競っている。早春から盛夏までの花が一度に見れる。そう言う意味でもここはとても面白い場所だと思う。

結局、雄大な主稜線は一度もその姿を現すことはなかった。帰りはいつ雨が落ちてくるかと冷や冷やしながら歩いたが、何とか下まで無事だった。
一度も合羽を出すことなく歩けたのは、天狗様の御利益だろう。

駐車場では先行していた鶴岡の大先輩がちょうど車に乗り込んだところ、私の姿を認めるや大急ぎで車から飛び出して来られた。
お互いの無事の山行を大いに喜んで、大井沢温泉にて汗を流し、またの再会を誓い帰路についた。
そう言えばこの日は参院選の投票日でもあったのだ・・・