【恵みの雨と龍門小屋】


津波のようなゴロビツの雪庇

【日 程】2007年5月26〜27日(土日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】龍門山(1688m)
【天 候】曇、風雨
【メンバ】単独
【コース】日暮沢→龍門小屋→日暮沢
(概 略)


5/26 日暮沢小屋(9:20)---(12:20)清太岩山---(14:10)龍門小屋


少雪の影響で今年の朝日はどうなっているんだろうかとずっと考えていた。
暫く山に行けない日々が続き発狂寸前でカラカラと乾いた音のする我が頭部、意味深な残雪の雪形や、目の覚めるような新緑が駆け上がる山肌を眺める度に、あれやこれやと妄想が膨らむ日々・・・
金曜に恵みの雨が降り野暮用は中止、土日の天気予報はまずまず、速攻で休暇願を総務に叩き付け、居ても立ってもいられず大井沢を目指した。

庄内は曇っていたがトンネルを抜けると日差しが眩しい、気持ちはもう高ぶるばかり、大井沢では大勢のカラフルな集団が何やら準備中、自然観察会でもあるのだろうか。日暮林道は雪もなく順調に日暮沢小屋まで入れた。途中砂防ダムのところで大勢のカメラマンが小朝日にレンズを向けていた。宮城と新潟ナンバーの2台が先行した様子、ゆっくり準備し出発、のっけの急登に向かう。

夏道は新緑も濃くなり夏の雰囲気、半袖のTシャツ一枚でゆっくり登っているとセミの鳴き声が聞こえる。視線を上げると小さなセミがフラフラと頼りなげに飛んでいくのが目に入った。とたんに汗がどっと噴き出し、最初の休憩ポイントでリュックを下ろすと虫がうるさい。じっとしてると季節に置いてけぼりにされてる気がし、移ろいの速さを実感した。登山道にはイワウチワとカタクリが多く咲いていて乾いた心が慰められる。

標高1000m付近から登山道は残雪に覆われ、暫くの間、行く手を遮る木々を避けながらのらりくらりと進む。ゴロビツの水場は未だ雪の中で看板だけが顔を出していた。
太いブナの根回りだけぽっかりと雪が溶け、立派な幹を支えるしっかり張った根がたくましい。暫く進むとゴロビツの雪庇が津波のような迫力で姿を現す。雪の量は去年とそんなに変わらない感じだ。
暫く眺めてから直登するべく出発。

中間辺りで写真を撮っていると、突然雪庇上に単独の下山者が現れ、グリセードを華麗に決め軽快に滑り降りてきた。挨拶すると何処かで見た顔・・・
なんと去年狐の小屋でお世話になった新潟のY氏であった。相変わらず単独で頑張っている様子、ウッドシャフトの年季の入ったピッケルがすごくカッコイイ。暫く立ち話に花を咲かせる。
お話によると先行者が4人、一人はスキーヤーでユウフンの沢に降りていったとのこと、稜線は風がものすごく、立っているのもやっとで、ユウフンまで行って撤退してきたらしい。一年ぶりでまた楽しい夜の一時を過ごせるかと思ったが、このまま下るとのことで非常に残念であった。再開を期して別れた。


       
しっかりとしたブナの根     と     小朝日と雲に隠れた主稜線

さっきまで青空も覗いていたがすごいスピードで雲が流れていく。天気は確実に悪化の方向へ、小朝日は何とか見えていたが主峰は未だ雲の中なかなか姿を現してくれない。
慰霊碑を過ぎ清太岩山へのスノーリッジを渡る。清太岩山は強風、たまらずコルまで降り風の当たらぬ木陰でゆっくり昼食休憩、東面の残雪は去年より多い感じ、融雪と共に山肌が谷へ引っ張られている。自然の巨大な力を実感する。


      
障子ヶ岳が近く感じた   と   ユウフン東面の残雪

重い腰を上げユウフンへ登り返すと、あれれ、左足が痙攣の予兆、およそ二ヶ月間、体を鈍らせた報いがやってきた。ここからだましだましマッサージとストレッチをしながら高度を稼ぐ。最後の龍門山への登りはアイゼンがあれば小屋までトラバースしたくなった。上り詰めると最上部の雪庇の迫力に吃驚して暫く呆然と眺める。稜線は去年よりずっと雪が豊富に残っている感じだ。


      
咲き始めたミネザクラ    と    龍門山への登り

何とか辿り着いた龍門山で性懲りもなく雪をビニール袋にせっせと拾い小屋へと駆け下りるも、体ごと月山まで吹き飛ばされそうな横殴りの風をまともに受け、体を45°傾けながら何とか龍門小屋に到着、当然小屋には誰もいなかった。
荷を解くのももどかしくすぐに雪でキンキンに冷やした朝日ビールを開ける。いくら寒くてもこれだけはやめられない。この快感のためにここまでやって来たと言っても過言ではないのだ。久々超快感の一気呑みで何とか落ち着く。

確か去年はホースから水が何とか出ていたように思ったが、今年は完全にストップ、手持ちが2Lもないので雪を拾うしかない。幸運にもビニールのバケツが入り口にありありがたく拝借、スコップがないので万一のため持参したピッケルで小屋側の雪渓をガシガシ削り雪を確保、結局この日は誰も来ず、今年も小屋を一人独占して気ままな夜を楽しんだ。小屋をも吹っ飛ばしそうな強風は一晩中吹き荒れ、夕暮れの景色も見えず、いつ寝込んだのか結局夜明けまで幸せな爆睡の一夜であった。


      
龍門山稜線の雪庇    と    登路を振り返る

5/27 龍門小屋(9:15)---(10:19)清太岩山---(11:48)日暮沢小屋


4時頃目覚めるが強風は相も変わらず二度寝、三度寝をむさぼり6時半で起床、室温8℃、この頃から雨となり時折あられが外壁を叩く。少し外も白くなったがすぐに溶けた。こんな日は一歩も外に出たくない。コーヒーを煎れラジオの天気予報を聞くが、新潟の局しか入らない。下界は晴れている様子、しかし朝日の稜線は大型台風に襲われたようなすさまじい天気で、風も雨も一向に収まる気配がない。

天気が良ければ大朝日周回の目論見は見事外れ、真っ直ぐ日暮に下るしかないので開き直りゆっくり大量の朝食、また体重が増える。
食後のうたた寝は気持ちよく、もう一泊したくなった。こんな日は停滞が常識なんだろうがそうも言ってられない。休日にいくら家でゴロゴロしていても、こんな安らいだ気分になれないのはどうしてだろうと、ひとりごちる。
今年のGWにE藤さんは、十日もここに滞在していたと言うが、少しだけ彼の気持ちが理解できたような気がした。

いつまでもこの場に居たいのだが、ゆっくり荷物を纏め完全装備で外に出る。すさまじい風雨が横殴りに襲いかかってきて立っているのもやっとの有様、よたよたと登り始めるも振り返る余裕はない。何度も凧のように吹っ飛ばされそうになりながらも、分岐付近まで来ると風は収まった。雨で昨日のトレースも消え、ガスで視界もない中適当に雪渓を真っ直ぐ下る。段々傾斜が急になり、あれっと思い途中から右にトラバースしたら何とかルートに戻った。ユウフンまでの稜線も時折突風が吹き付け気が抜けない。

清太岩山まで来ても視界は無く、ゴロビツの雪庇まで下がったらやっと下界が見えた。なんか下は暑そうな雰囲気、ああ、下りたくないなあ・・・
残雪の上を靴スキーで気持ちよく下り夏道に出ても雨は止まない。さすがに暑くてフードを脱ぐ。
雨で滑りやすい道に何度も足下をすくわれながら、809mの休憩ポイントの近くまで来たら今日初めて二人連れの登山者とスライド、挨拶し上の様子を話してたら、あれ、去年上で宴会しましたよねとのお言葉、やれやれ、まだらぼけの始まった旧世代のメモリーチップを出来ることなら交換したいのだが・・・ 困ったもんだ。
やっとの事で思い出し、またまた立ち話に花が咲く。

下りきると駐車場には結構の数の車、久々訪れた朝日は結局微笑んでくれなかったが、私にとっては、深い山懐に抱かれているだけで十分癒される夢の揺り籠だ。
この日来れたのも結局は雨が降ったため、帰りの雨も恵みの雨と考えればそのうち晴れる日もあることだろう。
さて、今年はあと何度来れるかなあ・・・