【肘折から月山越え】
                       肘折りから湯殿山縦走


念仏ヶ原からの月山

【日 程】2006年9月9日〜10日(土日)
【山 域】月山
【山 名】月山(1984m)
【天 候】晴
【メンバ】単独
【コース】9/9 肘折→念仏ヶ原(泊)
(概 略) 9/10 念仏ヶ原→立谷沢→月山山頂→牛首→湯殿山神社



9/9(土)
肘折登山口(7:28)---(9:50)赤沢川(10:05)---(11:07)小岳(11:28)---(12:14)念仏ヶ原避難小屋(泊)


秋である・・・。
肘折からの月山は月山東面を登るのだが、そのアプローチは長大であるが故、登山者が少なく賑やかな月山の中でもとびきり静かな山歩きが出来るコースである。
逆から入り肘折へ抜けるコース設定も可能であるが、何と言っても立谷沢から月山山頂まで標高差1000mの直登を一気に登ってこそのコースだろう。
去年の11月に念仏ヶ原までの下見も済んでおり、真夏の暑さを避け9月に密かに狙っていたのだが・・・

問題は登山口までの足である。岳友を何とかダマクラカシ、車二台で繋げようと思っていたのだが、その夢は潰えた。その場合は岩根沢に降りようと目論んでいたのだが・・・
誰も相手にしてくれそうもないので単独で秋の静寂を楽しみに向かうことにした。

初日は念仏ヶ原まで入るだけなのでそんなに急がずゆっくりと思っていたのだが、肘折まで送ってくれる友人の都合で自宅を6時前に出発、近所の駅の駐車場に愛車を放置、さすがに下山口までの迎えは、いくら厚顔で名を売る私でも頼めなかった。

肘折温泉から林道をひた走ると「熊出没注意」の看板がいたるところにある。少しビビッたが登山口には5台の車があった。上手くいけば念仏ヶ原の小屋を一晩独占出来ると目論んでいたのだが、またしても夢は潰えた。
去年キノコを採った木などを思い出しブラブラとゆっくり登り始める。次第に高くなる朝日がギラギラと眩しい。
突然行く手にバリバリと木の枝が折れる音が響き渡る。が、すぐに静かになった。気味が悪いので呼び子をけたたましく鳴らす。

気温も段々上昇、標高も高くなれば少しは涼しくなるかと思っていたのだが、最初の渡渉箇所までの間にもうパンツまで絞れるくらいの大量の汗を掻く。風が全然無く蒸し暑くてサウナの中に入っているようだ。飲み物は大量にガバガバ飲む。
赤沢川の渡渉点(水場)に着いたら先行するパーティーに追いつく、聞けば16人の大所帯、そんな大人数を抜くのも億劫なので先行して貰う。ついでに水場でゆっくり時間を潰す。家で凍らせてきたポカリはもう殆ど解けて飲み干していた。

ここからしばらくは緩やかな登り、いくらゆっくり歩いても汗は止まらない。途中で先行パーティーが昼食休憩している間にパス、高校生とその引率の先生達の一団だった。
ゆっくり登って小岳の標柱の前でたまらず昼食休憩、荷物を放り出し、Tシャツも脱いで汗を絞る。陽差しは強いものの樹林帯を抜けたここは少しだけ風が当たる。木道の上に裸で寝っ転がる。ここまで来ればもうさしたる登りはないのでゆっくりする。暫くしたら後続が来たので支度をして後に続く。いくら若くとも彼等も暑そうだ。

先行パーティーが休憩している間に再びパスし念仏ヶ原に一番乗り、当然小屋には誰もいなかった。まずは水場に朝日ビールを冷やし後続を考えて二階に陣取る事にして階段を上がるとひどい熱気だ。窓を全部開けるが風は殆ど入らない。小屋にいるだけでも暑いのでたまらず外に飛び出し冷たいビールを持って念仏ヶ原の散策にサンダルで出かける。ここは木道が敷いてあるのでサンダルで十分だ。景色の良い場所に腰を下ろし一人乾杯、相変わらず日差しが強く暑いが冷えたビールを飲んだら少し落ち着いた。

目の前の月山は少し霞んではいるものの圧倒的な量感である。巨大な岩が横たわっている感じ、目をこらすと山頂部に建物が微かに望まれる。ここから山頂まで高度差900m程、目の錯覚というか、横幅があんまりあり過ぎるので縦の感覚がおかしくなっているのだろうか、思ったほど高くは感じない。


   
リンドウ と サワギキョウ?

念仏ヶ原は秘境と称される高層湿原、春や夏の盛りには花が綺麗だろうが、今はもう数えるほどしか残っていない。リンドウやウメバチソウ、紫の群落はサワギキョウだろうか? 初めて見たような気がするがもうほとんど終わりだ。
ブラブラと散策し小屋に戻ると高校生達が小屋の前を占領して賑やかに話やトランプをしながら騒いでいる。方や引率の先生達は日陰でビールを飲みながら談笑中、ほろ酔いの私は二階に布団を敷き少し横になる。軽い熱中症なのか頭痛がしたので暫くウトウトする。暫くして後続の人達が到着したような気配で目が覚めた。神奈川からのご夫妻が暑い暑いと言いながら入ってきた。

聞けば私とは逆からのコース、昨日湯殿山から入り装束場の施薬小屋に泊まり、ここまで来たとのこと、70代の男性二人連れが続いている筈なのに到着が遅れていることを心配しておられたが結局この日は現れなかった。
この夜は暑くてシュラフなど必要なく寝苦しかったが、軽い熱中症の症状が出た私は持参のアルコールもほとんど飲まずいつの間にか寝てしまったようだ。


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9/10(日)
念仏ヶ原(5:42)---(6:19)立谷沢---(9:10)賽の河原---(9:37)月山山頂小屋(10:02)---(11:35)月光坂---(12:03)湯殿山神社===バス===湯殿山参拝所(13:30)===バス===(14:45)鶴岡駅


4時半に目覚ましで起きる。今日はいよいよこのコースの核心、早々に湯を沸かしコーヒーを煎れる。ゆっくり憩う暇もなく急いで朝食を食べ出発する。夜露が降り木道が滑りやすく案の定思いっきり両足が浮く転倒、これで目が覚めた。
天気は上々、目指す月山は頂上までクリアに見渡せまだ上空には月が見えた。今日も暑くなりそうだ。

滑りやすい足下に注意し立谷沢までの急斜面を慎重に降りるのに思いの外時間が掛かった。見事なトリカブトの花に迎えられ橋に到着、頑丈そうで立派な橋が架かっている。ここからいよいよ高度差1000mの一気登りの始まり、目印の赤テープを頼りに先を目指す。刈り払いが十分されていなく少し注意が必要だ。暫く沢なりにトラバース気味に登る。立派な楢の木が誘惑するがまだ早いようだ。よそ見はそこそこに急登が始まる。ここから1200mぐらいまでは立派なブナ林の中をひたすら急登する。


   
トリカブト と 立谷沢の橋

ふと前方に何かの気配がした。顔を上げると誰かキジ打ちの最中、まさかこんな所で人と会うとはお互い思ってなくびっくりする。聞けば昨日山頂から念仏ヶ原の小屋を目指したらしいが暗くなり道がわからずビバークしたらしい。
夕べ神奈川からのご夫妻が心配していた人達だった。露営用具も持っていない様子、ブナの巨木の下で夜露をしのいだようだが、幸いにも暑いほどの夜だったので大事に至らなかったようだ。もし雨でも降り気温が下がっていたらと考えるとぞっとした。
失礼ながら古希はとうに過ぎた風貌、よほど心細かったのだろう、この先の様子を必死に訪ねるその姿はズボンを下げたままだった。
特別な疲労の様子は覗えなかったのでルートをアドバイスし別れた。

再び急登に喘ぐ、朝の日差しが思いの外暑く風もない、いくらゆっくり登っても汗が噴き出し辛い登りが続いた。標高1500m付近で一度樹林帯を抜ける。少し風があったのでたまらず休憩、渇いた喉が大量の水を欲しがる。見上げると崖の途中に千本桜と思われる木々が見えた。地形図を読んでもわかるが、大雪城の雪が全て消えた今は、なるほどルートはあそこ以外ないなと納得する。
この辺からやっと下界が望めるが、この日は見事な雲海の上に村山葉山が、でんと鎮座していた。と同時に自分が今いる場所がとんでもない山奥なんだなあと改めて実感した。

1800m付近の広大な草原は草紅葉が始まりかけていた。でも暑いことこの上なく景色どころではない。必死に重い足を上げ最後の急登に向かうと人の声が風に乗って届く、見上げると羽黒口の登山道が見え大勢の登山者が行き交っていた。朝の天気とは裏腹にこの頃になると山頂部はガスに覆われていた。やっとの事で辿り着いた山頂小屋付近はさすがにヒンヤリしていて気持ちがよい。小屋の窓から女性が顔を出していたので挨拶すると、念仏ヶ原からかと問われたので暫く雑談、先程のビバークした人達の話をすると昨日の昼頃下ったらしく、下る前に小屋で時間を尋ねたらしい。6時間くらいと答えたとのことだが、まさかビバークするとは思っていなかったらしく驚いていた。


   
千本桜 と 草紅葉の始まった草原

山頂付近はやはり賑やかだ。ここに来るのは何十年振りだろうかと考えるも思い出せない、折角だから山頂に行こうと神社の鳥居をくぐると神官が、500円払ってお祓いを受けないと上には行けませんと言うので素直に引き返した。
彼は私のことを不信心を絵に描いたような不届き者と思ったことだろう。実際帰宅後家人に話すと呆れられたが、過去に立山の雄山神社でも同じ事をした。別に500円が惜しいわけではないのだが、なんでかこういうシチュエーションになると、普段静かに寝ている天の邪鬼が突然目を覚ますのだ。

山頂付近では携帯が通じたので昨日登山口まで送って貰った友人にお礼の電話をする。展望も望めないので後は下るだけ、姥沢口からの登山者と盛んにスライドを繰り返す、やっぱりここは観光地だと実感。牛首から湯殿山方面に入ると殆ど登山者とは会わなかった。姥ヶ岳下の分岐から先は品倉尾根を眺めながら下る。登山道にはウツボグサが多く咲いていて目を楽しませてくれた。今年の花も見納めかと殊勝な気持ちなる。

高度が下がるに従いだんだん暑くなるが、装束場の手前にとても冷たい水場があり生き返った。この辺から見る湯殿山も良い感じだ。月光坂に入る手前で単独の女性が休んでいたので、この先の様子を尋ねると湯殿山神社がすぐ下に見えた。鉄製の梯子が所々に据えられた長く急な坂を下っていくと、白装束に身を包んだ多くの参拝者に追いつく。彼らは羽黒口の8合目から山頂神社に参拝し湯殿山に降りるとのこと、結構年配のご婦人もいらっしゃり、山歩きに慣れていない様子で足下も覚束なく結構難儀していた。


   
装束場付近から振り返ると姥ヶ岳が高い

施薬小屋と湯殿山


湯殿山の御神体を地元に住みながら初めて見た。付近には写真撮影禁止の立て札があちこちにある。裸足になって参拝するみたいだが当然ここもパスし先を急ぐ。神社の入口では、大勢の参拝客を乗せた大型バスから、人が無尽蔵に吐き出されている。傍らには下りのお客さんを乗せたバスが待機しており、すぐに出発の様子に慌てて飛び乗る。

湯殿山参籠所まで100円の運賃で数分で到着する。仙人沢駐車場をぐるっと回り、降り場から巨大な大鳥居をくぐって下山してくださいとのアナウンスがあった。言われたとおりの順を追って下り、休憩所の中にある庄内交通の案内所で、鶴岡までのバスの時間を聞くと、まだ1時間以上待ち時間があった。料金は1480円とのこと、湯殿山ホテルまで行くにはどうしたらよいかと聞いたらバスで500円出せば送ってくれるらしい、とにかく風呂に入りたいのだと言ったら、上の参籠所でも400円で入れてくれるとのことだったので早速行ってみる。2日間の汗を流しさっぱりし、傍らのベンチでバスの出発時間まで朝日ビールで一人乾杯、鶴岡駅までおよそ1時間15分車上の人と相成った。

GPSでの総移動距離は21.7q、結構、いやいや相当堪えた山行であった。


今回のコース略図