【中年登山隊、石転ビで股間にキュン】
                                   石転ビ雪渓を行く


石転ビの出合付近を登る隊長

【日 程】2006年6月24日(土)〜25日(日)
【山 域】飯豊連峰
【山 名】北股岳(2025m) 門内岳(1887m)
【天 候】晴
【メンバ】2人
【コース】6/24 飯豊山荘 → 石転ビ沢 → 梅花皮小屋泊
(概 略) 6/25 梅花皮小屋 → 北俣岳 → 梶川尾根 → 飯豊山荘


6/24 飯豊山荘駐車場(5:52)---(6:25)砂防ダム---(7:00)うまい水---(9:47)本石転出合---(11:30)梅花皮小屋(同泊)

6/25 梅花皮小屋(7:00)---(7:23)北股岳---(8:05)門内小屋(8:25)---(8:45)扇の地紙---(9:27)梶川峰---(9:50)五郎清水---(10:14)滝見場---(10:43)湯沢峰---(11:46)駐車場


久々の中年登山隊の山行はA.TOM隊長と二人で飯豊に遊んだ。飯豊と言えば当然イシコロビと意見の一致、24日は6時に出発できるようにとの指令、私は3時前に自宅を出発、隊長は仕事場から直行で前夜は車中泊とのこと、天狗平の駐車場に到着したら隊長は準備万端整いいつでも出発できる体制、急いで準備に取りかかり何とか6時前に出発できた。天気は回復傾向ながら上空は雲で見えない。

相変わらずのおしゃべり山行、ワイワイ言いながら砂防ダムを過ぎ梶川の出合で雪渓に乗る。先行する大パーティーは石転びの出合で大きな岩に荷物をデポし空身で往復の様子。我々もここでアイゼンを装着しストックをピッケルに持ち替える。

隊長「ここでアイゼン履かないと上で履く場所なんてないからさ」
隊員「フ〜〜ン・・・(納得いかない様子)」
隊員は飯豊はもちろん石転びも初めて、もちろんアイゼンを履くのも初体験、ピッケルなんてものを手にして本格的に登るのも初めて、さらに隊員の目に映る石転び雪渓の全容は、鳥海山の心字雪渓を少し大きくしたようなイメージ(それしか見たことがないのだ)確かに切り立った両側の山並みは東北にはない雰囲気だが・・・

   
石転びの核心部を見上げる

直登にこだわる隊長の登行


隊員「隊長、石転びなんてたいしたことないんじゃないの・・・ちょっと上の方が急みたいだけどさぁ・・・ストックにツボ足で登れるよ」
隊長「絶句・・・(この馬鹿がと言う顔)」
しかし、隊員はアイゼンというものがどのくらい滑らないものか興味津々で、装着してみると確かに全然滑らない(当然だ)。

隊長「アレ! 暫く触ってないからアイゼンの付け方忘れちまってるよ・・・」
隊員「絶句・・・(ナンナノという顔)」
ともかく二人並んでまたまたワイワイおしゃべりしながら出発する。

隊長「あのさ、雪渓の上の方に見える点、なんだと思う?」
隊員「エット・・・ヒ、人でしょ」
隊長「人があんな小さく見えるって事は、どんくらい距離があるか理解できるでしょ」
隊員「でもさ、見た感じ上に梅花皮小屋も見えるし、1時間ぐらいで登れるんじゃないの・・・」
隊長「絶句・・・(再びこの馬鹿がと言う顔)」

石転び出合からコースタイムは3時間20分とエアリアには記載されている。高度差およそ1000m、次第に急になる勾配に、少し上に見えた平場で休憩しようと登っていくが、そこまで行ったら平場なんて無い、??? じゃあ、次に見える平場でゆっくり休もうとまた登り始めるが、やっぱり平場なんて無い(所謂、目の錯覚)すべて急傾斜の斜面だ。

しゃあ無いので、そこいらの雪の窪地にザックを降ろしてまったりしていると、何故か周りは大石がゴロゴロしている。でも疲れていたので構わず休む。

隊員「まだまだ全然ツボ足でOKだね」
隊長、無言のまま出発する。

本石転びの出合を過ぎると傾斜が強くなり、さっきまで見えていた小屋が見えない。隊長に聞くと小屋が見えたらそこがゴールとのこと、と同時にさっきまで元気だった隊長がフウフウ言い始めた。
確かに雪面は少し急になったが、私は適当にジグを切って登っていたのだが、隊長は直登にこだわっていたらしい・・・
さらに傾斜が増してくると20歩進んでは休憩を繰り返す。隊長を見上げると歩き方がスキーの階段登行のように横になって登っている。それでも直登と言い張る隊長の頑固さに半分呆れるも、口だけは両名達者でギャーギャー訳の分からない事を言いながらひたすら登る。

少しだけ顔を出した草付き付近の核心部は、有に45度はあろうかという急斜面、それが延々続く。何気なしに下を振り返ると股間の血液がスーッと引く(女性にはわかるまい)恐怖の快感(^^;) あまりの恐怖に隊長を呼ぶと、振り向きざま腰が引けていくのがわかる。

中年登山隊は声だけはでかいが、肝っ玉と○○○が異様に小さい集団のようだ。
恐怖に顔を引きつらせながら一言

隊長「核心部をノーアイゼンで登る人なんていないでしょ・・・」
隊員「・・・(恐怖で声が出ず)」

それからは運良く見つけた先行者のステップをありがたく利用させて貰い、こだわりの直登宣言を転がる石の如く谷底に放り投げ、必死で前だけ見ながら登り詰めたら、突然小屋が見えた。と同時に傾斜と緊張感も音を立てて一気に緩み、もう足が先に進まず口だけが異様な速さで動いている(何を喋っているか意味不明)
口数だけで登ったような最後の数十メートル、少し先行していた人が笑顔で迎えてくれた雪渓端で必死こいて雪を拾う。(こういう時だけ元気が出る)

隊員「ウ〜ム、ピッケルの本当の使い方はこうするんだ」
隊長がピッケルで固い雪を必死に削ってせっせと買い物袋に詰めている側で、隊員はザックの一番上にある朝日ビールを隊長の袋に入れるだけ・・・
アイゼンを外し小屋へと大急ぎでなだれ込み、各自カップを出して石転び雪渓完登を祝し盛大に乾杯である。

ゴクッ、ゴクッ、フウ〜 快感!! 
改めてお互いの無事を喜び合うお馬鹿な二人であった。

   
シラネアオイの白花  と  クロユリ

落ち着いてから外に出て改めて雪渓を見ていたらスキーを担いだ人が登ってきた。小屋で休んでいた二人のスキーヤーも相次いで下っていく。こんな急斜面を軽快に滑っていく姿に強い憧れを持った。
それから梅花皮岳に空身で山歩に向かう。急登を登り始めるとさっきまで雲に隠れていた北股岳がススーッと姿を現す。オオオオと二人で目が点・・・
その雄大さに圧倒される。

登山道はいろんな花の競演、ハクサンイチゲの群落、珍しい花はシラネアオイの白花、キヌガサソウも咲いている。オヤマノエンドウも初めて見た。クロユリも咲いている。ここは花の山でもあるのだ。
一登りで梅花皮岳山頂、頂上直下の沢ははスパッと切れ落ち石転び雪渓に合流している。スンゴイ高度感だ。二人とも「股間にキュン」と再度恐怖を味わう。


最初見えなかった本山方面も隊長の呪文で雲がスーッと消え姿を現す。と同時に北股岳は雲に隠れる。この辺がこの人の神通力で隊長たるゆえんである。
暫し飯豊の雄大な山並みをポカンと口を開け眺める。本当はダイグラ尾根周回の案も出たのだが私には遠すぎる。「飯豊はエエデ!」としか表現できないのが実感である。

   
手前、烏帽子岳と奥、飯豊本山

雲に浮かぶ大日岳




股間がキュンの梅花皮岳の山頂



北股岳とそれに続く梶川尾根全容


小屋に戻ると管理人さんが登って来ており管理費(1500円)を払い暫し談笑する。突然カラカラと落石の音、管理人さん曰く上手く雪渓の割れ目に落ちれば良いのだが、20〜30mくらいバウンドしながら落ちていくのが当たり前だそうで、その痕跡が窪地になって雪渓のあちこちに残っているそうだ。
そう言えばさっき我々が休憩した場所も大きな窪地だった。隊長と顔を見合わせ再度「股間にキュン」と緊張が走ったことは言うまでもない。

それから延々と二人の宴会が続いた。夜、辺りが寝静まってから外に出ると、星が燦々と煌めいている。大日岳が星空にポッカリ浮かび上がり手が届きそうだ。月も出ていないのにとてもはっきり見えるのが不思議だ。それだけ星が明るいと言うことか?
辺りに迷惑を掛けないよう小声で話しながら食事をし就寝、尚、以後鼾の大合唱になったかは当方あずかり知らぬことである。



   
朝陽に染まる雲海上の朝日連峰


明け方あまりの寒さに目が覚める。窓から差し込む日差しが眩しい。カメラを持って外に出てみると、ブラボー!! 
綺麗な雲海の上に朝日を浴びた朝日連峰が浮かんでいる。背後に月山と鳥海もクリアーに望まれ、暫し寒さを忘れボケーッと展望を楽しむ。
雲に浮かんだその姿は島そのものであり、自分が山の上でなく南海のリゾート地にでもいるような錯覚を覚えた。上空には雲一つ無い。今日の好天を確信し小屋に入ると皆、朝食や早立ちの準備で忙しそうである。隊長は未だ熟睡中、私も再度シュラフに潜り込み二度寝、再度目が覚めると辺りには誰もいなかった。

我々の出発は7時と決め、隊長持参のおいしいモーニングコーヒーをゆっくり味わう。折角の山小屋泊まり、ゆっくりしなきゃ意味がないと変な理屈をつけお互いまったりと優雅な時間を過ごす。でも朝食はウインナー入りのラーメンでそんなに優雅ではない。

食後、管理人さん達が小屋を清掃している中で出発の準備、隊長は素早く整え外に荷物を運び出し階下の清掃をしている。方やマイペース(単なるグズ)の私はゆっくり荷物の整理、悪いねと心にもないお詫びを口にするも、一向に整理が捗らない様子に隊長は呆れ顔、やっぱり山ではゆっくり行動しなきゃねと言い訳にならない変な理屈に皆呆れ顔・・・

いつの間にか外はガスが沸き上がり視界はない。水場で顔を洗い出発、北俣岳への急登が辛い。切れ落ちた雪渓を怖々覗き込むと遙か下に登山者が見えた。
視界のない中、山頂で記念撮影、一応今回の最高標高点である。湯の平へのルートはロープで閉鎖されていた。
後は門内まで緩やかな稜線の花を愛でながら、昨日の酒が残っているのかペースの上がらぬままちんたら進む。

門内小屋が雲の中から姿を現すと祠のある門内岳にすぐに到着。ここでも展望がないので小屋に入り最後のビールで乾杯、小屋の入り口に腰掛け一服していると少しずつ展望が開けてきた。さっきパスしたご夫婦が到着し、昨日の丸森尾根は雪が残っていて大変だったというお話であった。



扇の地紙付近からの梶川峰とショウジョウバカマ

扇の地紙の手前で用を足し、暇だから雪渓の頭に乗って下を眺めていたら突然の悲鳴、見ると隊長がゴロゴロ転がっているではないか。
必死に写真を撮ろうとカメラを向けるも残念ながらチト遅かった。大丈夫ですかと一応声を掛けるも、折角新調したズボンが泥だらけになったと嘆くことしかり・・・
中年登山隊は、やっぱり何処か行動が少しばかり変だ。 基本的に人の不幸を楽しんでいる・・・

梶川峰からの石転び雪渓は迫力がある。よく昨日あんな所を登ったと感心するほど壁のような核心部が印象的だ。
下界もやっと見えたが稜線伝いに見えるのは杁差岳だろうか、大石山だろうか、やっぱり飯豊は広いなあと意見が合う。
尾根に入ると風も止み、標高が下がると気温も上がる。Tシャツ一枚になり、ここからは標高差1400mを一気に駆け下る。


   
石転ビ沢全景  と  上部核心のアップ


途中、五郎清水や滝見場などで休憩しながら下るも、痩せ尾根の下りは浮き石も多く段差も大きい。口だけは相変わらず達者なれど下半身はもう疲労困憊である。さすが飯豊、スケールが朝日の倍はあるんじゃないだろうかと隊長と嘆きあう。
膝の不調を訴えていた隊長だが、だんだん調子が出てきたのか下りは速い。あっという間に差が開くも、後を追う気力も体力もこちらには残っていないのだ。時折隊長の大声が尾根に響き渡る。これじゃ熊も近寄れまい。

這々の体で何とか辿り着いた駐車場は一般の観光客も含め満杯、汗だくの我々を好奇の目で見る人達には、ただのお馬鹿にしか映らないんだろうなあ・・・

飯豊山荘の風呂(500円也)で二日間の汗を流し、栃そばでお腹を満たすと、ここで隊長とは次回の山行を約束しお別れである。
わずか二日間であったが強烈な印象を与えてくれた山遊びであり、こんな馬鹿な素人にご同行頂いた隊長に改めて敬意を表します。

最後に「飯豊はエエデ〜!キュン」