【残雪の朝日連峰 龍門小屋へ】
                               (大朝日岳敗退の記)


ゴロビツの雪庇からの大朝日岳


【日 程】2006年5月20日〜21日(土日)
【山 域】朝日連峰
【山 名】大朝日岳(1688m)途中敗退
【天 候】濃霧強風後晴
【メンバ】単独
【コース】日暮沢→龍門小屋泊→西朝日岳→日暮沢
(概 略)


5/20 根子((7:45)---(9:30)日暮沢小屋(9:45)---(12:48)清太岩山(13:00)---((13:29)ユウフン山(13:45)---(14:50)龍門小屋

5/21 龍門小屋(7:05)---(7:59)西朝日岳---(8:38)龍門山分岐(8:45)---(9:15)ユウフン山---(9:45)清太岩山((10:00)---(11:43)日暮沢小屋---(13:35)根子


2006年5月17日に龍門小屋管理人でもある西川山岳会のE藤さんが、地球の最高地点エベレストに無事登頂を果たした。今回その偉業を二人で称えようと、中登隊のA.TOM隊長と日暮からの周回を予定していたのだが、隊長は得意のドタキャン・・・
天気も回復傾向との予報、それならばと結局一人で龍門小屋へ向かうことにした。

今年のG.Wは、私を除く中登隊メンバー全員が龍門小屋に集合し、西川山岳会の人達と盛大なる宴を催したことを聞き及んでいた。別に悔しくはないのだが、5月の朝日は未だ行ったことがないのだ。いつもは6月下旬のウスユキソウ目当ての山行が恒例であるが、E藤氏を口実に下界の誘惑を振り切り今回の山行となった次第である。

ある程度の歩きは覚悟していたが、根子の集落を過ぎ100mも行かずに雪でストップ、やれやれである。道端に車を放置し小雨の中、日暮の小屋を目指す。こんな所から歩くのも初めてだ。日暮林道の雪解けはまだまだ先になりそうで、日陰には残雪が多く大雪のためか倒木や落石も多い。途中米沢からと言う二人を追い越し昨日の雨で増水した根子川を横目に先を急ぐ。この様子では日暮の小屋前の渡渉が心配だ。


        
日暮沢林道途中の花々


案の定渡渉点は濁流、上流に渡渉点を探すも無理と諦め、誰も見てないのを良いことにズボンまで脱ぎ、パンツ一枚でジャブジャブと渡る。思ったより冷たくなかった。
日暮の小屋で小休止し急登へ向かう。夏山かと思うほど蒸し暑く、Tシャツ一枚で大汗を掻きながら登ると残雪が現れた。登山道を無視し要は尾根を外さなければいいのだからと勝手に解釈し進むと、雪に埋もれた枝が歩く震動でビョンビョン飛び上がってくる。

残雪のブナ林は新緑が瑞々しく生命の息吹を感じる。時折樹間をそよぐ涼風が心地良い。しかし、難所がいっぱいの日暮沢口、急登はキックステップで頑張るがふくらはぎが痙りそうだ。滑って落ちたら止まらないだろうな等と考えながら登ると噂のゴロビツの雪庇が見えてきた。


   
ゴロビツの雪庇


夏のイメージしかないので、あまりに豊富な残雪にびっくりする。G.Wの頃よりは随分雪は消えたのだろうが(見たことは無いが)上部は垂直か?
休憩がてらポカンと口を開け暫く眺めていた。スキーで滑ると楽しそうだが、登るのは嫌だな等と下らないことを考えていたが、とにかく登ろうと直登する。higurashiさんが、いらないと言ったピッケルを万一に備えて抜き、キックステップで最期の壁をよじ登ると、あらら、何とカエル君が先行していた。追いついた私をジロッと一瞥するも、必死で急登にしがみつく姿が、いじらしくもあり、微笑ましくもあり、上で待ってると何とか完登、記念写真を撮ってあげる。


   
雪庇上から俯瞰する

朝日のクライマーガエル君 (良い面構えだ)



連峰は未だ上部が雲に覆われ清太岩山もユウフンも見えない。雪渓を適当に詰めると慰霊碑が見えた。夏はコルになっている清太岩山までの道も、今はスノーブリッジで難なく山頂へ到着、でも何も見えない。レスト後、ユウフンとのコルへ残雪を滑り降りる。もうこの辺になると疲労もピーク、何とか頑張りユウフンに辿り着いたら、少しだけ晴れてきて小朝日と古寺山が正面に見えた。主脈はまだ雲に隠れている。でもだんだん晴れそうな予感がする。
龍門山への最後の登りも豊富な残雪、ガスの中一瞬方向が判らなくなるがトップを目指せばよい。ほどなく龍門の分岐へ到着。ここでビニール袋に雪を拾い小屋へ下る。

根子からおよそ7時間、やっとの思いで久々の龍門小屋へ到着。入口の戸を開けると土間が水浸し、排水口が詰まっているらしく、トイレの方までビチャビチャだ。傍らのチリトリで外に排水作業、天気も良くなり時折、雲間に以東や西朝日が顔をのぞかせるもすぐに隠れる。思いの外暖かいので外のベンチ?で一人キンキンに冷えた朝日ビールで乾杯する。こんな日は多分誰も来ないだろうと荷物を広げ、一人気ままに龍門の夜を楽しんだ。やっぱりこの小屋が一番落ち着くなあ。夜半より風が強くなり、この夜、清太君がやって来たかは定かでない。朝までホントにぐっすり眠る。



明けて21日は強風と濃霧、外に水汲みに行くだけで手がかじかんだ。ゆっくり朝食の準備をしながら晴れ間を待つが、天気予報とは裏腹に一向に晴れる気配がない。予報では日本全国快晴の一日とのことだったが、朝日だけは違ったようだ。
そのうち天気も回復するだろうと大朝日を目指して出発する。雨こそ降ってないが視界はなく、稜線は台風より強烈な風で体ごと吹き飛ばされそうだ。気温も一向に上がらず、西朝日への急登を登るも汗一つかかない寒さだ。

西朝日山頂に着いても状況は変わらず、腰を下ろして休憩するのも寒くて憚られた。雪の着いた中岳への急斜面を視界の効かぬ中下るのも億劫になりすぐにUターン、帰りも龍門分岐まで同じ状態が続いた。
分岐で休憩後、「さらば、また来る日まで」と雪渓を下り始める。と、「ガ〜ン」
何と言うことだ、雲が見る見る切れて行くではないか。
これは絶対間違いなく隊長の怨念だ。ここからまた引き返すことも一瞬考えたが、悔しさに涙が溢れ出してくる。しょっちゅう立ち止まって大朝日を眺めては、ため息をつきながら写真を撮り、残った食料をヤケ食いする。


   
やっと顔を出した中岳と大朝日岳

ユウフンから振り返る龍門山


ユウフンまで下ると連峰全体が青空の下クリアーに見渡せた。昨日会った米沢からの二人が写真を撮っていた。上に行くか聞いたら、ここから下るという。昨夜は日暮沢小屋に泊まったらしい。
この季節独特の青空に映える連峰主脈の美しさは筆舌に尽くしがたい。残雪の峰々に立つブナの梢は、緑がスローモーションのように下から駆け上がってくるのがよくわかる。雪の溶け際にはイワウチワやカタクリが我先に咲き競っている。下界の喧噪など皆無のここに、いつまでも留まりたい誘惑を振り払うのも容易ではない。傍らの二人も写真撮影に没頭している。隊長の大好きなこの場所は朝日の特等席だ。


   
気持ちよい新緑のブナ林

可憐なイワウチワ



まずはお先にと声を掛け、先に下り清太岩山に登り返す。ユウフンも良いが私はここも大好きな場所だ。誰もいないここで昨日の残りのビールを空け大休止、暫く振りで会った朝日の峰々に一人心の中で語りかける。一人で来るとなかなか良い顔を見せてくれないのは何故かしらん?

慰霊碑に黙祷し、ゴロビツの雪庇を少し降りると大朝日の頂が見えた。雪の残る今だからこそ目にすることの出来る景色がいっぱいあり、一人歓声を上げながら写真を撮りまくる。
下りはグリセードもどきでストックを酷使し思いっきり曲げてしまった。何度も尻餅をつきながら楽しく下ることが出来た。が、根子までの林道歩きの辛いこと・・・

初めて登った5月の朝日連峰は、大朝日こそ踏めなかったが、とても楽しく充実したものだった。



ゴロビツの雪庇からの連峰