【月山森冬季初登記】


鈴木小屋手前からの遠望
左のピークが天主森、真ん中の小さなピークが月山森


【日 程】2006年3月11日(土)
【山 域】鳥海山
【山 名】月山森(1650m)
【天 候】晴のちホワイトアウト
【メンバ】単独
【コース】さんゆうから往復
(概 略)


さんゆう(9:00)---(10:48)鈴木小屋---(11:10)米沢頭(11:25)---(12:35)1396m地点レスト(12:50)---(13:38)月山森(13:45)---(15:14)さんゆう


最初に断っておくが、私は音楽は好きだが楽器をやった事もやろうと思ったこともない。ましてやドラムなど・・・

久々の休日は晴れマークの予報、本当は休日出勤の予定であったが、無理を言って休んだ。その代わり明日の日曜日は出勤しなくてはいけない。天気は朝から穏やかで春の気配、こんな日こそ山に行かないと発狂しそうだ。もちろん念願の月山森を目指そうと思い、ゆっくり(矛盾してるな)自宅を出発し、9時にさんゆうから登り始める。水汲みの人が2人ほどで静かだ。今日はまだ誰も登った形跡がない。

融雪が進んでおり表面も固そうなのでスキーをザックにくくりつけツボ足で登り始める。が、造林小屋上の急斜面であまりにも気温が高いのか、雪が緩みズボ抜けが頻発し、たまらずスキーを履く。天気は良好、気分も良好、気温も高くアンダーウエア一枚で汗を絞り出しながら登る。最近の運動不足も手伝い食欲に負け、甘いものばかり食べて不摂生な生活を送る毎日、故に体重増加が著しい。

       
左、このあたりのブナは大きな株となっている。これは強風に耐える自然の知恵か?

右、雪解けの進む鈴木小屋、しかし一階部はまだ雪に埋まっている。


登行はラッセルなどあろう筈もなく順調に米沢頭まで進み休憩、まるで5月の天気の良い春スキーのような陽気でとにかく暑い。後続が一人見えた。
ここから上の雪は所謂クサレ雪、帰りが思いやられるが、トレーニングのつもりで先を急ぐ。
森林限界を過ぎると霞んではいるものの下界の景色が気を紛らわせてくれる。だが黄砂が飛んだらしく、まだら模様の雪原に少しがっかりする。しかし上を見上げると目指す天主森や月山森が光り輝いてオイデオイデをしているかのようだ。出発が遅かったのでこの辺で12時を回る。少し風が出てきたので天主森の直下まで行ってから昼飯にしようともう少し頑張り登行を続ける事にする。この辺から足に痙攣の予兆が現れた。

      
左、上部の雪原は黄砂が降った模様、まだらだ。

右、ホワイトアウト寸前の天主森ピーク


天主森と同じ高さのあたりで昼食休憩、風が結構強くなる。ビールを呑んでゆっくりしようと思っていたのだが、さっきまでの好天が嘘のような雲行きだ。とても寒くてその気になれず結局おにぎりを急いで食べるとアウターと手袋を着け先を急ぐ。どうやら予報と違って天候の悪化が早いようだ。MLのIさんからいただいた写真撮影場所あたり(1500m)から一気に天候が悪化、急いで天主森の写真を撮るが少し遅かったか?この後一気に鳥海の上部はガスに覆い隠された。完全なホワイトアウトである。ふと裕次郎の歌のフレーズが頭を過ぎる。俺は・・・嵐を・・・呼ぶ男か?・・・さっきまでの好天は何なんだ(怒)

本来ならここで引き返すのが常道だろうが、過去のトレースが明確に残っておりもう少し登ってみることにする。しかし、ここから先は初めてのエリアだ。不安も確かにあったがまあ何とかなると思い登り続ける。
忠実にトレースを辿るとほぼ真っ直ぐに1570のニセピークを目指しているようだ。急登を直登し少し傾斜が緩んだかなと思ったところから月山森とは反対の方角にトレースは延びている。不思議に思いながらも進んでみると、大きな岩に氷着したエビの尻尾が現れた。

ツボ足の跡もあちこちに散乱しており、トレースはここで途切れている。。GPSで確認しても逆方向だ。高度は1600に近い、目指す月山森までは直線距離にして200mほどなので、ここからはGPSを頼りに月山森を目指す。視界は2m先も見えない。両足も痙攣しており正直かなり不安だった。多分大きな岩の表面が氷結したのだろう、所々に大きな氷の塊がセラック帯のように進路を妨げる。傾斜は緩く下っている。もう100mほどで今度は緩い登り、ゆっくり進むと細長いピークである。たぶん山頂だろう、無雪期の記憶を辿るが確信は持てないが、GPSの画面では間違いなく月山森のようだ。

      
何にも見えない月山森ピーク
シュカブラもホワイトアウト!


スキーを脱いで濃霧と強風の中とにかく写真だけ撮る。試しにぐるぐると付近を歩き回るがここより高い場所は無いようだったので間違いないだろう。登頂の感慨も何もあったものではない。シールを付けたまま急いで登路を引き返すが、スキーの下りはいくらシールを着けていても滑るのだ。立ち止まりふと周りを見渡すが登りのトレースがない。風も強く視界もほとんど無い。風上からは猛烈な風に乗って水蒸気が雨のように吹き付け目を開けているのもつらい、GPSを見ると北にルートを外している。トレースへ戻ろうとしながら先に進むが視界が無い中進む人間の感覚なんて本当に当てにならないものだと実感する。すぐ目の前の目指す方向には氷結した巨大な岩壁が立ちふさがっている。果たしてこんな場所あったかなと思うがとにかく戻らねば・・・

スキーのエッジが効くので仕方なく右側の急斜面にエスケープ、斜面をトラバースしながら登ると何とかトレースに合流、ほっとした瞬間である。たまらず傍らの岩陰で風を避けシールを外しながらレスト、山頂からずっと足が痙攣しっぱなしだった。水を飲んだら少し落ち着いたが、こんなに足が痙攣した経験なんて初めてだよなあ・・・
しみじみ考えてみると、いつだったか風雨とガスの中、剣岳に登ったとき以来の緊張だった気がする。人間パニックに陥るととんでもない間違いを犯す。落ち着いて方向を確認してから登りのトレースを辿れば安全だったのに・・・単独ばかりやっていると時には怖い目にも遭うが、もう少し落ち着いて対処できる気持ちのゆとりが必要だったと猛省する。
晴れていれば何でこんな所でという場所だろうが、私は小市民で気も小さく未熟な証拠、改めて山の怖さを思い知る経験だった。

ここからはトレースを外さぬよう気をつけゆっくり滑降の開始、依然として視界はない。上部はまだターンも容易だったが、1250mを境に視界が戻るともういけない、完全なクサレ雪である。ただ転倒しないように落ちていくだけ、樹林帯ではもっと難儀する。雪が重くスキーが曲がらない。ゲレンデしか経験のないヘボな足前ではまともになんて滑れない。オフピステの難しさ、自分のスキー技術の未熟さを嫌というほど痛感する。両足の痙攣も治まらず本当に辛かった。

金沢の有名な山スキーヤーであるDr.早川氏がいつも言っている。山スキーは半端な体力、技術では命がいくつあっても足りないと、特に下半身の筋力は日頃から鍛えておかないと酷い目に遭うと忠告されている。私と同年齢ながら超人的山行きをほぼ毎週実践されておられる驚異の人であるが、山スキーは格好じゃない、見てくれは悪くともどんな雪質でも転ばずに降りてこれる人が一番だと言うお話には説得力がある。彼の超後傾でトップを思い切り浮かせた新雪の急斜面を滑る姿を思うとき半端な筋力と体力じゃないとしみじみ思う。

標高差1400m弱の登りで足が痙る。悪天候で慌ててしまいとっさの判断を誤る。どんな雪質や斜面でも安全に下れるスキー技術の未熟さ。etc・・・
念願の冬期月山森には初登頂を果たしたものの、自分の弱さ、未熟さを再発見した山遊びであった。人生、精進の連続である。