【中年登山隊、チゲ鍋と中年交響曲に酔う】
                        conductor by higurashi


縦走路からの経塚山山頂

【日 程】2005年11月12〜13日(土、日)
【山 域】焼石連峰
【山 名】東焼石岳(1507m) 経塚山(1372m)
【天 候】風雪
【メンバ】3人+宴会のみゲスト1名
【コース】11/12 中沼登山口 → 銀明水小屋 → 東焼石岳 → 金明水小屋泊
(概 略) 11/13 金明水小屋 → 経塚山 → 夏油温泉


11/12 中沼登山口(8:30)---(10:11)銀明水小屋---(11:35)姥石平---(12:05)東焼石岳---(14:05)金明水小屋

11/13 金明水小屋(8:05)---(10:06)経塚山---(12:45)林道終点---(13:30)夏油温泉駐車場


今秋、音楽の都ウィーンのムジークフェラインザール(楽友協会大ホール)でNHK交響楽団が楽団史上初の定期公演を行った。伝統と格式そして名誉、今も世界最高の音響効果を誇り140年の歴史ある世界最高のホールである。ホールを知り尽くした指揮者のアシュケナージは、耳の肥えたウィーン聴衆のために完璧な音造りの準備をし、結果は天のみぞ知るとのたまわった。

音の芸術も自然の造形という芸術も、人の心に響く何かは共通するものがあると思う。
今回の山行コンダクターであるhigurashiさんの計画は、心憎いほど細部まで思いやりにあふれたアシュケナージ脱帽の計画であった。冒頭にて感謝申し上げたい。

さて、肝心の記録である。
久々のメンバー三人の再会はhigurashiさん地元の北上江釣子インター駐車場、そこから夏油温泉まで行き車をデポし、中沼登山口へ移動する。
中沼の駐車場には地元の車が一台、先行者のトレースを追い出発、登山道は雪が溶けどこも沢状態が続く。皆さんゴアのシューズ故ザブザブと進むが、晩秋のハイキング気分で参加の私は、何とか革靴を濡らさぬように歩くのが辛い。来年あたりゴアの靴と穴だらけのカッパを新調しないといけないと思うが、貧乏人には辛い。順調に中沼、上沼と通過、見上げると雪に覆われた焼石の山容が目に飛び込む。上界はどうやら真冬の世界だ。

   
上沼からの焼石岳  と  姥石平付近の様子

銀名水で喉を潤し先に進むと先ほどまであったトレースがない。登山道に吹き溜まった雪が思いの外深く、先頭を交代しながらのラッセルとなる。予定外の雪中行軍と化した中年登山隊は皆寡黙になる。内心、何でこんな所に自分がいるか全員???だったはずだが、そんなことは誰一人お首にも出さずに黙々と進むのだった。

姥石平で協議、焼石山頂はホワイトアウトの中、皆山頂は経験しているので無理をせずにこのまま金明水避難小屋に向かうことにする。まあ本音は色々あったはずだが、全員一致の結論であった。
ここから東焼石岳一体で猛烈なブリザードとの遭遇、体が吹き飛ばれそうになりながら何とか進むと今度はアラレちゃんが猛烈な風と共に襲いかかってきた。これには皆さすがに悲鳴を上げた。私はハイキング気分での参加、十分な防寒対策などあろう筈もなく、手袋こそかろうじて着用していたが、指先の感覚が冷たいのを通り越し痛くなって来た。ストックを持つ手を時折替え、ズボンのポケットに片手を突っ込んでフラフラ歩く姿を隊員達は笑っていたことだろう。
標高が下がっても明らかにこちらの方が積雪は多く、ラッセルまたラッセルである。

   
路傍の石仏に神妙に手を合わせ、山行の無事を祈る隊員

風雪の中、東焼石岳に向かう隊員


あまりの天候にザックから行動食を出すのも憚られずっと歩き通し、フワフワの雪は登山路の凹凸を隠し慎重に歩を進めるも転倒者が続出する。困難なラッセルであったが、標高も下がり牛形分岐を過ぎたあたりで突然視界が開け、経塚山や駒ヶ岳がその秀麗な姿を現した。これには全員歓声を上げ喜ぶ。
それまでの行程が困難だっただけに喜びも一入大きかった様子、その場に身を置く者のみ味わえる大自然の芸術に感動する登山隊は暫く動けない様子であった。

必死の行軍の末たどり着いた金明水避難小屋は、登山道整備の工事関係者の宿舎兼休憩所に使用されているらしく、装備や食料が山と積まれていた。それでも三人には十分すぎる広さで早速恒例の朝日ビールでA.TOM隊長の音頭で乾杯、冷たいビールが空きっ腹に染み渡る感動の一瞬であった。それから怒涛の宴会へと突入した。


突然視界が晴れ経塚山が見えた

今回の鍋奉行は不肖lisonが仕切る。隊員に具を準備させ中年登山隊特製キムチチゲ鍋ができあがる頃はとっぷりと日も暮れ外気温-3℃、方や室内は隊員の熱気で10℃を超える暖かさ、突然のお客様の出現には一同目を丸くしたが(Tomiさん騒音に近い宴会ごめんなさい)鍋奉行が仕切るチゲ鍋を目にした隊員達は一様に不安な眼差し、本当にこんな物が食えるのかと言うヤジが飛ぶ始末、そんなことを言っても後の祭り、鍋奉行でさえ食べたことのない無責任なチゲ鍋なのだ。
奉行の命令でA.TOM隊長が毒見の箸を出す。全員注視の中で苦悶する隊長の第一声は、
「う、うめえ・・・」

後は怒涛の箸攻撃にて敢えなくカランと音を立てた鍋に誰もが満足の様子、鍋奉行の面目躍如の表情に気づく者などなく、体の中から暖まった隊員はビールはないのかと騒ぎ出す始末、全くもって現金な人達だ。
と、ここで終わらないのが中年登山隊の鍋奉行、チゲ鍋第二弾は、キシ麺入り、後は野となれ山となれ、キュウリや大根の漬け物まで入り何でも有りのチゲ鍋であった。でも、鍋奉行が密かに隠し味として○○○??を入れたことを知る者はいないのだ・・・(合掌)

一晩中隊長の大鼾が、がらんとした室内にコントラバスの延々たる独奏のように盛大且つ大音量で響き渡った。
時折混じる誰かの歯ぎしりや、おならはチェロやオーボエの如き彩りを添え、突然の寝言は心地良いピチカートか?「中年交響曲」の指揮にコンダクターhigurashi氏、相当悩んだそうである。

夜中、雲間の月がイーハトーブの空に映え異次元の美しさだった。風が強く月をじっと見ていたら速い流れの雲とラップし、月が猛スピードで動いている錯覚を覚えた。

   
牛形山  と  経塚山

翌朝、大量のラーメンで朝食(これも二回戦)後、昨日よりは良さそうな天気に気をよくして予定通り夏油温泉混浴露天風呂、いやいや、経塚山を目指してまたもや深い雪の中をラッセルで酒を抜きながらせっせと進む。途中のピークで遙か遠い経塚山に皆ため息をつく。見渡せば牛形山や駒ヶ岳が綺麗に見渡せ皆でカメラを取り出し夢中でシャッターを切る。焼石方面は冷たそうな雲に隠れているが何とか天気は持ちそうな雰囲気だ。

途中何度も休憩し何とか経塚山の頂へ、バテた様子を記録し後でHPに載せようとカメラを向けるが、皆感覚が異常に研ぎ澄まされたのか、すぐに気付き笑顔でポーズ、中年も常に進化しているようだ。
山頂で恒例の乾杯、冷えたビールが心地良い。花の季節に再訪することをhigurashiさんがしきりに勧める。なるほど夏の名残が一面に残っている。イーハトーブには良い山がいっぱいだ。心残りのないよう展望を十分楽しみ下山開始、何故か全員足取りが軽やかだ。


   
経塚山の急登を登る隊員

経塚山山頂にて
ご機嫌の三人

標高が下がるに従い雪も少なくなり順調に距離を稼ぐ、キノコ目になるがよく見えなかった。夏油川の吊り橋では踏み板が外されており、むき出しの鉄骨の上をゆっくり慎重に進むが、高所恐怖症の私は股間から縮み上がった。そこから一登りで林道終点、三人で妙な感慨に浸りながらテクテクと歩を進めると暫くして夏油温泉の建物が見えてきた。

最後の楽しみ夏油温泉天然混浴露天風呂には結構の人が入っていた。この日が最終営業日とのことである。午後3時で営業終了で、館内の片付け作業で従業員達は忙しそうに働いている。片や我々はホゲ〜っと露天風呂に浸かった。雨足が強くなり土砂降りとなるも、美女とご一緒出来た混浴露天風呂に、隊員達は皆鼻の下を伸ばしデレ〜っと過ごし、中年登山隊納会を滞りなく終了した。


○○○が縮み上がった夏油川の吊り橋