【中年登山隊、嗚呼、裏岩手縦走す】


犬倉山から縦走路を振り返る
左から三ツ石山、小畚、大深岳と続く



【日 程】2005年9月10〜11日(土、日)
【山 域】八幡平(秋田、岩手)裏岩手縦走
【山 名】畚岳(1577m)、大深岳(1541m)、三ツ石山(1466m)、姥倉山(1517m)
【天 候】大体、晴
【メンバ】二人
【コース】9/10 藤七温泉→畚岳→大深岳→三ツ石山→三ツ石山荘泊
(概 略) 9/11 三ツ石山荘→大松倉山→犬倉山→姥倉山→松川温泉


9/10 藤七温泉(6:53)---(7:33)畚岳---(8:23)諸桧岳---(9:07)前諸桧---(9:35)嶮岨森(9:45)---(10:17)大深山荘((11:02)---(11:31)大深岳---(12:28)小畚山(12:35)---(13:28)三ツ石山(13:40)---(14:02)三ツ石山荘

9/11 三ツ石山荘(7:45)---(8:14)大松倉山---(9:12)網張分岐---(9:32)犬倉山---(10:30)姥倉山(11:20)---(12:24)湯ノ森---((12:39)松川キャンプ場---(12:48)松川温泉


中年登山隊結成1周年を記念してどこぞ良い山はないかとA.TOM隊長にメールしたら、裏岩手縦走と言うとんでもない案が浮かんだ。長らく憧れていたコース、早速岩手支部のhigurashi隊員に連絡を試みるが、不良中年は音信不通、一体何をしているのやらと文句たらたらの二人、結局最後まで連絡が取れず凸凹コンビの二人三脚と相成った。

松川温泉に当日朝6時半集合の予定で、お互い少し遠いこともあり打合せ無しの前夜出発、途中買い出しをして夜道を4時間少々のドライブ、西根の手前で隊長に電話したら、ほんの少し後を走っている様子、「道の駅西根」待ち合わせで話がまとまり、私が到着して5分もしない内に隊長も到着、12時頃からイスとテーブルを借り久々の再会をビールで乾杯、それからほぼ1時間で私が明日背負っていく予定の缶ビールを全部平らげてしまった。恐るべし中年登山隊、飲むものがなくなると、現金なもので速攻各自の車で寝るのだった。

明けて10日は5時に起き出したがあいにくの曇り空、近くのコンビニでビールと食料を補給し、一路松川温泉へ出発、結構距離があった。隊長の車を温泉駐車場にデポし、樹海ラインを藤七温泉へ急ぐと突然視界が開け広大な雲海が出現した。盛岡方面は遥か雲の下、視線を転じると圧倒的な岩手山の山塊が雲海から突き抜けている。暫し呆然と見入るが運転中である。さすが隊長は晴れ男である。

藤七温泉で宿の人のお許しを頂き車をデポ、車道を登山口までチンタラと登りいざ縦走開始である。
すぐに畚岳(もっこだけ)の分岐、なんと言ってもここは今回の縦走の最高標高地点、中年登山隊は高いと聞けば煙の如くフラフラとよじ登るのである。(口の悪い人は○○という)
記念撮影後縦走再会、畚岳でもたついている内に何処かのパーティーに先行された様子、途中で追いつくと男女4人のパーティーだった。
何とうら若き乙女が巨大な荷物を背負っているのに対し、屈強な男性陣はデイパックの軽装、アンビヴァレンス???
好奇心旺盛な隊長が質問責めにしたところ、秋田県北地区高校総体の山岳部門新人戦だと言うこと、うら若き乙女達は能代北高の山岳部員で男性陣は競技役員らしい。隊長に道すがら山岳競技のレクチャーを受けながら進む。この後この一行と相前後して三ツ石山荘まで進むことになる。

  
雲海を突き抜ける岩手山と藤七温泉  と  縦走路始点からの畚岳


隊長も連日の激務で睡眠不足、私は連日の不摂生で風邪が治らず鼻呼吸が出来ない。中年登山隊の体調はイマイチでピッチが全然上がらない。ガイドブックには大深山荘以外水場は表示されていないので、先程の人達に三ツ石山荘に水場はあるのかと聞いたら無いという返事、大深山荘で確保して背負っていく覚悟を決める。

このコース出発点の藤七温泉が標高1400m、よって殆ど登りのない楽な縦走路である。我々は熊も逃げ出すような大声で馬鹿な掛け合いをしながらゆっくりと進む、諸桧岳(もろひだけ)、前諸桧、嶮岨森(けんそもり)と順調に通過し最近新築なった大深山荘に無事到着、少し早いがここで昼食とする。
それにしてもこの山域、実に雄大である。雲間に遠く秋田駒や乳頭山も見え展望を楽しみながら歩く。岩手山こそ一際高いが、その他は丸っこい山容で樹木もアオモリトドマツが主体のようだ。他の山域のような険しさが無い分、よけい広大に感じるのか素晴らしい展望である。森林限界のあたりに縦走路が作られており、中年のチンチクリンな身長ちょうどで荷物が枝にしょっちゅうぶつかり思いの外難儀した。

そして極め付きは縦走路が刈り払いされてないこと。つまり藪漕ぎ箇所が結構ある。中年登山隊はお肌の曲がり角をとうに過ぎたので皮膚がすこぶる弱いのだ。でも暑いのも嫌いなので常に半袖で行動する。結果傷だらけの山行となるのである。
まあとにかく行動中はア〜だのギャ〜だのイテ〜だの大声で文句と悲鳴を連呼しながら進むので、下手な選挙の街宣車よりやかましいのだ。


  
大深岳への稜線  と  乳頭山と秋田駒


大深山荘は新築間もない様子でとても綺麗だ。中に入るとまだ木の香りが漂う。ここにも泊まってみたい誘惑に駆られ隊長に駄々をこねるが、缶ビール一本で乳飲み子のように誤魔化された。
ここの水場は松川温泉への道をほんの数分下ると、湿原の木道沿いにこんこんと冷たく美味しい清水が湧き出している。二人でおよそ6リットル汲む。

さすがに水を補給してからはガクンとペースが落ちた。トップを交代し大深岳へゆっくり登る。山頂では美人の競技役員の出迎えを受け、隊長が「能代北高、二名女子でえ〜す」などと声色を使ってて顰蹙を買った。困ったものである。
ここから道はジグザグに大きく下り緑眩しい鞍部へと下る。途中大白森方面への縦走路の分岐があったが、そっちの方角はまるっきりの笹藪であった。果たして最近通った人などいるんだろうか。
鞍部で一休みしているうちに数人の登山者と行き交う。


  
新装なった大深山荘  と  小畚と奥が三ツ石山


ここから小畚山(こもっこやま)まではこの日もっとも辛い急登、美味しい水割りを鼻の先にぶら下げ這々の体で登り切る。
展望を期待するもこの頃からガスが湧き始め視界が効かない。隊長に雨男の罵りを受けるが、ついこの間、隊長も合羽を着たのを知っていたので抗議をする。中年登山隊は悪天を他人の悪行のせいにしたがる集団のようだ。

しかし、悪いこともあれば逆もまた然り、ここから先はうれしい誤算であった。何と縦走路が刈り払いされているではないか、さっきまで悪口雑言の限りを極めた中年登山隊の言動は「やればできるじゃないか岩手県」と180度展開した。快適な道が三ツ石山まで続いている。
それと鞍部を境に植生がまるっきり違う気がした。灌木は殆どなく、ハイマツと夏期は結構なお花畑となるであろう光景に心が和む。まるで朝日の稜線のようだと隊長と意見が合う。
途中ガスが少し切れ三ツ石山の全容が見えた。う〜む、確かにポツンと三つの岩が見えた。なるほどと妙に納得する二人であった。


  
本日一番の急登、小畚  と  小畚から大深岳を振り返る


さすがにアップダウンは少ないものの距離だけは十二分の縦走コース、この頃になると、お互い体のあちこちが痛くなり、痛みを嘆きあう中年の悲哀を滲ませた山行となる。最後は意地の岩登りショートカットコースで三ツ石山頂到着、暫し展望を待つが風も強くガスで展望は無し、折角のビューポイントだったが残念である。が、後は三ツ石山荘まで下るだけ、喉も渇いてきたのでスリッピーな道を急いで駆け下ると新築の三ツ石山荘が姿を現した。
お互い歓声を上げ中に駆け込むと檜の香りが何とも心地よい。


  
三ツ石山頂の奇岩  と  綺麗な三ツ石山荘に喜び踊る隊長


競技関係者と管理人に今晩お世話になりますと挨拶し、ふと気になり水場の有無を訪ねると、「盛岡あたりの日帰りの人達が持って帰るほど美味しい水場がありますよ」とのこと・・・
一瞬呆気にとられるが、我々が苦労して背負ってきた6キロの荷物が無駄になった瞬間でもある。盛夏には涸れることはたまにあるそうだが、まず大丈夫だとのことである。しかし、逆境を跳ね返す強欲さは誰にも負けないと自負する二人は、大急ぎでザックから缶ビールを取り出すやいな、脇目もふらずスタコラサッサと駆け足で水場に急ぐのであった。

急速冷却器の真似をして冷水に浮かぶ缶ビールをクルクルと回すのももどかしく、高鳴る欲望を必死で押さえ冷えるのを待つこと暫し、「もう良かろう」と言う隊長の一言で超極楽の一気呑み・・・
これがあるから山は止められないのだ。

テラスでカップを持ちながらやっと到着した乙女達に赤ら顔の隊長がささやく、
「満天の星空の元、恋を語ろうよ乙女達」「・・・・・」
「アッ、星が・・・」「・・・・・」
どうも中年とは話がうまくかみ合わないようだ。

この後、我々以外は全員下山とのこと、この夜、新築の山荘は中年登山隊の貸し切りであった。長く、楽しく、やかましい宴は、いつまで続いたのか定かではない。ご想像にお任せする。


  
山荘前からの三ツ石山  と  大松倉山付近からの岩手山


明けて11日、夜中結構激しい雨が降った様子、静かな朝は濃い霧に包まれている。早く目覚めた隊長は、冷えたビールを水場から持ってきてくれていた。目覚まし代わりに朝からプシュである。
天気が思わしくなければまっすぐ松川温泉へ下山、回復したら予定通り犬倉山、姥倉山を経て松倉温泉へと向かうことを決めゆっくり朝食の準備、と、見る間にガスが切れてきて心地よい朝日が差し込んできた。
日頃の行いの良さを調子よく自画自賛する二人であった。

お世話になった小屋を綺麗に掃除し、隊長トップで大松倉山を目指す。が、背丈以上の藪に悪戦苦闘が続きズボンがすぐにびしょ濡れとなる。ここから網張の分岐までは刈り払いはされていなかった。それでも大松倉山付近の稜線での展望は、昨日辿った長い縦走路を綺麗に見渡せ価値のあるものだった。
この頃から登山者数名と行き交う。皆、三ツ石山を目指している様子、犬倉山ではそれまで雲に隠れていた岩手山もその秀麗な山容を現し感動的だった。目を転じると何処までも続く裏岩手の雄大な山並みが素晴らしく見飽きることがない。


  
犬倉山から俯瞰する網張方面  と  やっと綺麗に晴れた岩手山


いつまでも眺めていたいが先を急ぐ。ここから一旦下って姥倉山への登り返しが辛い、登り切ると荒涼とした黒倉山の彼方に岩手山が迫力ある姿で迫ってきた。本来であればそちらに進むべきところだが、我々は踵を返し姥倉山へと進む。ここで早めの昼食とし大休止、長かった縦走路を目で追い暫し感慨に浸りながら、熱いウインナー入りのラーメンをハフハフ言いながら夢中で食す中年登山隊であった。

後は松川温泉の大露天風呂を目指し急坂を駆け下った。とは言うものの決して楽な下りではなかった。前夜の雨でぬかるんだ道に何度も尻餅をつき、藪を振り払う腕は傷だらけ、絶対こんな場所で熊に会うんだろうと噂しながら、幸いにも何とか無事下山できた。

後は楽しみの温泉巡り、松川温泉と藤七温泉両方の露天風呂を頂き、宿の人に「どうもごちそうさまでした」とお礼を言い、今回の山行を終えた。名湯に腕の傷がヒリヒリ染みたのが思い出される。


  
三ツ石までの稜線  と  犬倉山


姥倉山から八幡平方面
稜線の右端が安比のスキー場か?